英ジャガー・ランドローバーによれば、ジャガーは2025年からピュアEV(電気自動車)のラグジュアリーブランドとして再生する。ランドローバーも電動化を進め、今後5年間でピュアEVを6車種投入する予定だ。日本では充電設備への投資や人材育成も課題になっている。

ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン社長
ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン社長

EV化のため最上級車の開発白紙に

 ジャガー・ランドローバーは2021年6月15日、クロスカントリー車であるランドローバー「ディフェンダー」をベースにした水素燃料電池車(FCV)の開発を発表した。自動車メーカーやエネルギー産業、重工業の大手企業13社で構成する水素協議会(Hydrogen Council)は、17年時点で水素FCVが30年までに1000万台以上普及すると予測。こうしたなか、ディフェンダーベースのFCVを開発し、21年内にテストを開始する予定だという。

 FCVの開発は、21年2月17日に発表した電動化に向けたグローバルでの新戦略、「REIMAGINE」に沿って行われているという。

ジャガー・ランドローバーはランドローバー「ディフェンダー」の水素燃料電池車(FCV)を開発し、21年中から走行テストを開始する予定だ
ジャガー・ランドローバーはランドローバー「ディフェンダー」の水素燃料電池車(FCV)を開発し、21年中から走行テストを開始する予定だ

 英ジャガー・ランドローバーの最高経営責任者(CEO)、ティエリー・ボロレ氏はREIMAGINE発表時に「ラグジュアリーはクリーンでなくてはならない」と明言。39年までに排出ガス実質ゼロビジネスにするという目標を掲げ、サステナブルなブランドへの転身を強調した。これによれば、ラグジュアリーブランドとして今も根強いファンを持つ英国のジャガーは、25年からピュアEVのラグジュアリーブランドとして再生する。高級SUV(多目的スポーツ車)ブランドとしてより広い層に支持されるランドローバーも電動化を進め、今後5年間でピュアEVを6車種投入するという。

ジャガー・ランドローバーCEOのティエリー・ボロレ氏
ジャガー・ランドローバーCEOのティエリー・ボロレ氏

 ジャガー、ランドローバーのモデルともに電動化を進める点は共通している。だが、ニーズや活躍の舞台が異なることから別々のアーキテクチャーを採用し、個々のブランドの独自性はしっかりと維持する意向のようだ。

 方向性の違いはパワーユニットに表れている。将来的にEVオンリーとなるジャガーに対し、ランドローバーはEVだけでなくハイブリッド・エンジン車も設定する。また様々な場所で活躍するSUVのニーズを考慮し、先述の通りディフェンダーをベースとしたFCVを開発している。

 こうした電動化の推進により、30年にはジャガーは100%排出ガスのないパワーユニットを採用し、ランドローバーでは約60%採用することを目標に掲げる。特にEVブランドへ転身を図るジャガーの改革は急速に進められており、エンジン車で新型モデルの開発を進めていた最上級車「ジャガーXJ」を白紙に戻したほどだ。今後、名称が受け継がれることはあっても、全く異なる車になることも明言されている。

 このようにEVブランドにシフトしていくジャガー・ランドローバーが、電動化にどう取り組んでいくのか。また、日本での電動化戦略はどのように展開していくのか。

21年5月11日に日本で受注開始となった21年型のジャガー「XF」。現時点での電動化は、マイルド・ハイブリッド・テクノロジー(MHEV)を採用した最新の2.0リットル直列4気筒「INGENIUM」ディーゼル・エンジンのみ。この他に2種類の2.0リットル直列4気筒INGENIUMガソリン・エンジンを搭載する
21年5月11日に日本で受注開始となった21年型のジャガー「XF」。現時点での電動化は、マイルド・ハイブリッド・テクノロジー(MHEV)を採用した最新の2.0リットル直列4気筒「INGENIUM」ディーゼル・エンジンのみ。この他に2種類の2.0リットル直列4気筒INGENIUMガソリン・エンジンを搭載する

4年の移行期間を空白にしない戦略

 ジャガー・ランドローバー・ジャパン(東京・品川)が21年5月21日に開催したオンライン発表会「THE FUTURE OF JAGUAR~電動化に向けた取り組みについて~」で、マグナス・ハンソン社長は25年に向け、充電設備への投資と人材育成を大きく打ち出した。車そのもののEV化だけでは普及が難しいためだ。

 全国のジャガー正規ディーラーで充電設備を完備するのに加え、観光ホテルとも協力し、旅先での充電環境の整備にも取り組んでいく。さらに顧客サポートとしてEVに詳しい「EVスペシャリスト」の育成にも力を入れ、現在の47人を、23年度末までに100人体制に拡大させる計画だ。

 ただ現時点でのジャガーのEVは、SUVの「I-PACE(Iペース)」のみ。よってEV化が進むまでは、マイルドハイブリッド(MHEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)仕様がジャガーの電動化車の主力となる。

ジャガー唯一のEVであるSUVの「I-PACE(Iペース)」。日本では税込み976万円から
ジャガー唯一のEVであるSUVの「I-PACE(Iペース)」。日本では税込み976万円から

 4年の移行期間は、ジャガーの魅力を訴求するため「NEW JAGUAR 4 YOU」というキャンペーンを実施。購入者は3年間の無料メンテナンスプログラムが受けられ、さらに24時間365日トラブルに応じてもらえる。入庫時の無料洗車と車内清掃サービスなど、全部で9つのサポートプログラムを用意する。

 4年間で4台の新型ジャガーに乗ることができる新ファイナンスプログラム「NEW JAGUAR FINANCE FOR YOU PROGRAM」も展開する。これは車両価格の1%相当を毎月支払うことで、1年間に1台、新車を乗り継げるという4年間限定のプログラムだ。頭金や残価清算負担金なしなので、ジャガーに乗るハードルが大幅に下がると考えられる。

ランドローバー人気に支えられている

 ジャガーが熱心な売り込み施策に取り組むのは、4年の移行期間の空白化を避ける目的ともう一つ、近年日本での人気が高いランドローバーとの兼ね合いもある。

 コンパクトSUV「レンジローバー・イヴォーク」の人気や、復活した本格クロカン「ディフェンダー」のヒットで日本でも好調なランドローバーに対し、ジャガーは話題性には欠けていた。しかし近年、EVを含め3車種のSUVを投入することで、15年は1349台だったジャガーの日本販売が、16年には倍増。18年には3000台を突破し、販売が拡張した。

 ところが20年は新型コロナウイルス感染拡大の影響があるなか、ランドローバーがディフェンダーの投入で注目され、前年比86.7%(3945台)だったのに対して、ジャガーは前年比43.7%(1423台)と大きく後退した。そんななかでの完全EV化発言だ。現行モデルと新世代モデルとの橋渡しとなる4年間をどう乗り切るかは大きな課題であり、特に日本において、ジャガーは正念場を迎えていると言える。

 21年に入り、自動車メーカー各社が、25年および30年を境にどのように「脱エンジン」を実現するかについて示すなか、「ラグジュアリーブランドがフルEVメーカーへ」とうたうだけでは通用しないだろう。今後のジャガーの戦略に注目したい。

21年5月21日に受注開始となった、ジャガー初のプラグインハイブリッド(PHEV)モデル「E-PACE PHEV LAUNCH EDITION」。日本に初導入された20台限定特別仕様車
21年5月21日に受注開始となった、ジャガー初のプラグインハイブリッド(PHEV)モデル「E-PACE PHEV LAUNCH EDITION」。日本に初導入された20台限定特別仕様車

(写真/ジャガー・ランドローバー・ジャパン)