空港の保安検査場から搭乗ゲートまでの長い道のりを、自動運転で連れて行ってくれる――。そんな電動車いす型モビリティの本格運用が羽田空港の国内線ターミナルで2021年6月14日から始まった。手がけているのは、スタートアップのWHILL(ウィル、東京・品川)。同様の自動運転型モビリティサービスを、さまざまな施設に広げていくことを目指している。
2021年6月14日、羽田空港でWHILLの電動車いす型モビリティを利用した自動運行サービスの全面導入が始まった。導入するのは羽田空港の第1・第2ターミナルビルを管理する日本空港ビルデング。両ターミナルで国内線を運航するエアライン6社(日本航空、全日本空輸、スカイマーク、AIRDO、ソラシドエア、スターフライヤー)も運用に協力する。日本空港ビルデングとWHILLが共同で6月22日に同サービスのメディア説明会を開催した。
本サービスでは、まず第1ターミナルに2カ所、第2ターミナル北エリアに1カ所の「WHILLステーション」を設置。各3台の電動車いす型モビリティを配置した。21年7月には第2ターミナル南エリアにも1カ所を加えて、両ターミナル全域でサービス提供を開始。さらに21年度中に各ターミナルに2カ所ずつ追加し、計8カ所24台体制で運用する計画だ。
各ステーションは保安検査場の近くに設置されており、保安検査を終えてから搭乗ゲートまでの移動に利用できる。運用時間は午前8時から午後8時までで、国内線に搭乗する乗客なら誰でも無料で利用可能だ。
時速2.5キロメートルに設定した理由
使い方はシンプルだ。WHILLステーションに待機している電動車いす型車両のシートに座り、シートベルトを着用したら、アームレストの前に設置されたタッチ画面で行き先の搭乗ゲートを選んで「スタート」ボタンを押す。すると車両が自動的に動き出し、あらかじめ設定されたルートを自動運転で走行して目的地まで運んでくれる。
走り出したら一切操作する必要はなく、ただ座っているだけでいい。シートの後ろには10キログラムまでの手荷物を置けるスペースもある。車両が目的地に到着して利用者が降車すると、シート下のセンサーがそれを検知。60秒後に出発したステーションに向けて無人走行を始め、自動返却される。
走行速度は、時速2.5キロメートル。人の歩行速度は時速4キロメートル前後といわれるので、歩くよりも少し遅めのスピードだ。この速度設定について、WHILL MaaS事業本部執行役員本部長の植田剛之氏は、「数多くの検証を経て、誰が乗っても安心・快適に乗れる速度を導き出した」と説明する。
羽田空港のターミナルは広く、搭乗ゲートによっては最寄りの保安検査場から徒歩で10分近くかかる場合があるため、徒歩よりも遅い時速2.5キロメートルでは遅すぎるのではないかと懸念した。だが、実際にターミナル内で車両が稼働している様子を見ると、速度設定の理由が分かった。
電動車いす型車両は当然ながら1人乗りだ。2人以上のグループであれば、同行者は車両の周囲を歩くことになる。このとき、車両が速すぎると同行者が置いていかれてしまう。時速2.5キロメートルというのは、話をしながらのんびり歩くのにちょうどいい速度なのだ。
もう1つ、車両前方に人や障害物が現れた場合、急停止する可能性があることもこの速度に設定した理由だろう。スピードを速くしすぎると、万が一、急停止した場合に乗客がシートから転落する危険がある。周囲の歩行者からしても、時速2.5キロメートルなら危険を感じることはない。
今回のサービスに使用されている「WHILL 自動運転モデル」は、左右のアームレスト前方に、それぞれステレオカメラ型センサーを1組ずつ設置。さらにシート下、フットボードの下にLiDARを搭載し、周囲の状況を検知している。
試しに走行中の車両の前方に立って進路をふさいでみると、ステレオカメラの周囲が赤く光り、減速後、完全停止。それでもその場から動かずにいると、「道を空けてください」という趣旨の音声メッセージが流れ、移動を促された。
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