「嵐」は最強のマーケターだったと考え、嵐を実例に用いたマーケティングの実践書『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』(2021年6月21日発行)を執筆したIBAカンパニー代表取締役の射場瞬氏。クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏が、その真相を探る対談の後編では、嵐とファン(顧客)の関係性から、リスクヘッジやブランドとしての波及効果が見えてきた。

射場 瞬(いば ひとみ)氏
IBAカンパニー 代表取締役
マサチューセッツ州立大学にてMA、ニューヨーク大学スターン経営大学院にてMBA取得後、グローバル企業(Colgate- Palmolive、Kraft、American Express、Fila)の米国本社勤務を中心に、約15年間、マーケティングや事業開発のマネジメントを経験。その後、日本コカ・コーラのマーケティング本部副社長を経て、2010年IBAカンパニー設立。嵐ファンクラブ歴は14年。初参加の07年ライブで魅力にはまり、現在に至る

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『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』(2021年6月21日発行、日経BP、税込み1870円)
『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』(2021年6月21日発行、日経BP、税込み1870円)

音部大輔氏(以下、音部) インサイトを見るためにファンとのやりとりを大事にするというお話しですが、その中でリスクも生まれると思います。ファンの期待に沿えないことが一番大きなリスクになると思うのですが、それを嵐はどのように回避しているのでしょうか。

射場 瞬氏(以下、射場) 逆に、期待に応えられなかったときのリスクを考えなくてもいい、ファンとの関係性をつくっているのだと思います。嵐は、ファンやスタッフを「6人目の嵐」と表現したブランディングをしています。ファンはメンバーと対等で嵐というグループの一部であり、つまりファンと共創しているというブランディングです。ファンは、自分たちが一緒に嵐をつくっているからこそ、期待に多少応えられなくてもメンバーを責める可能性は低くなります。

音部 失敗も含めて「6人目の嵐」ということですね。

素を見せることがリスクヘッジになる

射場 嵐はメンバー間も対等で、ファンも対等という横の関係を大切にしています。これは、グループのメンバー同士が年齢的に近く、ファンと一緒に成長してきたからこそできたことだと思います。嵐は同級生のように一緒に遊んでいた子たちが、そのままデビューしてしまいました、というようなところがある。ジャニーズJr.の黄金期で、それをテレビで見ていたファンもデビュー前から同級生のような感覚だった。だから、ファンが下から見て憧れるようなアイドルではなく、メンバーもファンも関係がフラットなのではないかと考えています。

 グループ結成当初は意識していなかったと思うのですが、なかなか大きくブレークできないと感じていた時期に、5人でとことん話し合ったといわれています。自分たちのブランドの方向性を決める際に、初めて意識して、嵐というグループ、ブランドがどうあるべきかを納得するまで話し合ったのだと思います。ファンも自分たちもフラットな横の関係であるということも、この時期に5人で決めたことだと想像しています。そして、それを約20年間、ブラすことなく走り続けました。

 ファンは「6人目の嵐」であり、嵐メンバーが決断したことは自分たちの決断とイコールになるのだと思います。嵐の決断を自分事として受け止めるという姿勢を持っていると言えそうです。

音部 自分たちがどうあるべきかをグループ内で議論し、プロセスも含めて素を見せているところが、ある意味リスクヘッジになっているということですか?

射場 はい。リスクヘッジですね。

音部 過去のアイドルを見ても、プロフェッショナルな側面とプライベートを分けるのが一般的で、伝統的にもそういうケースが多かったと思います。しかし嵐は、あまりプライベートとオフィシャルの区別がなく、プライベートでも5人が仲良しという印象がある。つまり、表裏がないから何かが露見しても大してリスクにはならない。なぜなら、既に知られているから。だから失敗しにくいのですね。

 私がこれまでお話を聞いていて思ったのが、嵐は素の状態を出しているので、期待値のコントロールがすごく上手だということです。期待値が低いということではなく、外面に下回りようがなく、ちょっと上に超える可能性しかないような期待値をつくる。そのための素の状態をつくる、プライベートを見せるという側面もあると思います。

 ブランドマネジメント的な話をすれば、1回買ってもらえればいいというアプローチではなく、リピートを大事にしています。確実に満足を提供できるターゲットに対して、的確なベネフィットや製品を常に用意できているということなのでしょうね。

 結成のときから素の状態を見せているわけですが、ステージの状態と、プレステージ、ポストステージを含めて、一連の動きの中でファン、消費者は嵐に期待を持っている。かつ、何か違うなということがあっても、ファンの反応を見て、また修正していく。リカバリーがあって、反応に呼応するというアプローチが期待を裏切らないことにつながっている。ウソではないけれど、過大に飾らない、過大に演出しないことが、ポイントだと思います。

音部 大輔(おとべ だいすけ)氏
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
日本と米国のP&Gで17年間ブランドマネジメントやイノベーション方法の確立などに従事した後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など複数のブランドを擁する企業でブランドマネジメント組織を指揮・構築。組織強化を通したブランドの成長を実現。2018年1月より現職。博士(経営学 神戸大学)

射場 アイドルであれば常にキラキラしているべきと思われるかもしれませんが、嵐の場合はファンと対等の関係なので、等身大の自分たちを見せられたし、期待を超えやすかった部分もあるかと思います。横の関係の強さですね。

音部 期待を超えることはあらゆるビジネスで大事です。期待の管理をするに当たって、アウトプットで期待を超えることを目指し続けつつ、同時に期待のコントロールをする。結果的にウソにならないアプローチということですね。ブランドをつくるときにはウソ禁止という話をよくするのですが、ブランドは永続するもので、ウソが1つバレるとそこで終わってしまいます。パーセプションなものなのだと思いますが、ウソ厳禁を具現化しているのだと思います。

射場 そうですね。ウソは厳禁ですが、頑張ってみてうまくいかないという失敗まではOKだったのだと思います。嵐メンバーも素の人間性を見せていましたが、ファンも素の嵐の一部になって参加している。いわば素同士が嵐というグループを構成するので、嵐メンバーに対しての許容力が上がるということかなと思います。そのうえで、素のままのメンバーが、ファンのために精いっぱい努力して、ファンの期待の斜め上をいくパフォーマンスを見せてくれるので、感動量が上がるという……。そういう意味では期待値をほどよくコントロールしているのかもしれませんね。

コアファンを狙い、8000万人をカバー

音部 そもそもですが、嵐にとってはどこまでがファンなのでしょうか。チケットを買ってコンサートに来てくれる人なのか、テレビを見てくれている人なのか、YouTubeでちらっと見た人もファンなのか……。どこまでをファンと呼ぶものなのでしょうか?

射場 これはあくまで私の意見という前提ですが、嵐のファンクラブに入って、1年間継続的につながろうという意思を示している人たちが、彼らにとって最も大切にしているファンではないかなと思います。

音部 ちなみに、ファンクラブの会員数はどのくらいですか?

射場 数百万人ですね。

音部 200万~300万人といったところでしょうか。

射場 公式には発表されていないのですが、おそらくそのくらいだと思います。

音部 全国津々浦々に知られている人たちなのに、意外と少ないんですね。嵐を知っている人が日本だけでも8000万人くらいはいると推定して、その1割をターゲットにしたとしても800万人。さらにその4分の1が200万人ですから、すごく絞っていることになります。

射場 ターゲットにしている「6人目の嵐」とは、嵐メンバーと共に嵐ブランドをつくっていく、共創する、そんなファンのことを想定しているのだと思うのです。最初にお話ししたインサイトに関しても、そうしたファンのインサイトを深く理解してきた。嵐メンバーがライブなどを通じてコミュニケーションを直接取ることができ、かつ何を考え、どう反応してくれるのかが感じられるような、そういう関係性を持てる人たちを一番大事なファンとしていると私は思います。

 また、ファンクラブ会員とは最低1年間、継続的につながり、コミュニケーションや価値を提供し続けます。嵐とファンの間で、マーケティング理論的に言えば、繰り返し長期的に価値交換をすることになります。1回の価値交換の関係よりも、長期的かつ複数の価値交換をするほうが、関係性は深まります。

音部 インターラクションを生んだり、素を見せたり、期待値のコントロールができるのは、絞り込んだ数百万人のファンクラブ会員が相手だからなんですね。お金も払ってもらえる相手でもあるし、反応が見える、フィードバックしてくれる人たちなのだと思います。そして、ターゲットが明確だからブレにくい。目指すものがブレにくいからこそ、ターゲットは数百万人しかおらず、マネタイズできる対象も同様ですが、露出はその3倍、4倍に膨れ上がっている。逆に、数百万人しか相手にしていないのに、なぜ3倍、4倍の人々にも受け入れられているかと言うと、このコアファンたちが、自分は嵐のファンだということを喜々としてアピールしているからだと思います。嵐のクリーンで前向きなところが自分の人格の一部を構成していると思うと誇らしいからですね。私の知人の中にも、すぐに顔が浮かぶくらい分かりやすくコアファンを主張している人がいます。

 しかし、この誇らしさはコアファンたちの中で閉じていたら生まれないものです。嵐のことを知っている8000万人の人たちに、「嵐好きは悪い人ではない」と思わせるプレゼンスの役に立たないと意味がない。300万人にターゲットをグッと抑えることで、そこからあふれるもので8000万人に響き、カバーできてしまうという好例ですね。

 高級ブランドの概念に近いと思います。みんなが高級ブランドだと分かっているから、高級ブランドを買うことに意味があります。「私は嵐のファンです」と言ったときに、「あなたはいい人のようですね」と思ってもらえる土壌があるからこそ、ファンがファンでいられる。嵐ファンの文脈をつくっているとも言えます。

射場 嵐のファンであることが誇りであり、自分のアイデンティティーの一部が嵐ファンであること、そういったファンが多いのではないかと思います。

音部 全体を通して、300万人にターゲットを絞って反応を見続け、呼応することでブレない存在であり続ける。結果、嵐を8000万人もの人がポジティブに意識する存在になったということを思い知りました。

射場 よかったです。本書を執筆したかいがありました。

「嵐」は最強のマーケターだった!
『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』
『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』(2021年6月21日発行、日経BP、税込み1870円)
『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』(2021年6月21日発行、日経BP、税込み1870円)

2020年に活動を休止したグループ「嵐」を事例に用い、これ1冊あれば今必要とされる最新かつ実践的なマーケティングを学べる本になっています。嵐を題材にした理由は、マーケティングの基本的な概念も、現在進行形で変化している最新理論も、嵐が実践していたからです。ブランディングとは何か、マーケティングとは何か、SNS活用を含めたデジタル化にどう対処するべきなのか、顧客(ファン)のインサイトを見極め、共創するにはどうすればいいのか、魅力的なストーリーテリングはなぜ必要か……。すべての答えが嵐の活動の軌跡から見つかります。

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(写真/古立康三)