群馬県太田市は、オープンハウス傘下のBリーグ所属プロバスケットボールチーム、群馬クレインサンダーズの拠点(ホームタウン)が2021年7月1日に現在の群馬県前橋市から同市に移転するのに伴い、アリーナを新設する。建設にあたっては、企業版ふるさと納税を利用した新たなスキームを採り入れ、オープンハウスとともに地方創生にも取り組む。
B1昇格で勢いづくなか拠点移転
群馬クレインサンダーズは、2016年のジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)開幕に伴い、2部(B2)東地区での活動をスタートしたチームだ。19年に不動産業を展開するオープンハウスが完全子会社化し、21年2月にBリーグ史上最多の33連勝を達成。Bリーグ開始以来、3度目となるB2東地区での優勝を果たし、同年5月16日に1部(B1)昇格が決定。同24日にB2で優勝。トップリーグでの躍進を期待させる結果を残した。
7月1日には、拠点(ホームタウン)を現在の群馬県前橋市から太田市に移転する。これに合わせ、太田市はB1ライセンスの基準を満たす新たな市民体育館「OTA ARENA(仮称)」を建設、23年春の完成を予定している。
注目は総工費78億5000万円になるというアリーナ建設にあたり、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)を活用すること。クレインサンダーズを誘致した太田市がアリーナを建設し、オープンハウスは企業版ふるさと納税によって、総工費の一部を負担する形になる。
企業版ふるさと納税は16年度の税制改正で創設された制度で、企業が自治体の地方創生の取り組みに寄付をすると、法人関係税から税額を控除する仕組み。20年4月の改正で大幅に内容が変わり、当初約6割だった税の軽減効果が、最大約9割まで引き上げられている。よってオープンハウスの実質負担は1割に抑えられるのではないかとみられる。
なおオープンハウスの業績は好調で、20年9月期で8期連続過去最高の売上高、利益を更新しており、純利益は594億円となった。さらに同社では「23年9月期の売上高1兆円を目指す」としている。
スポーツ界全体盛り上げるスキームに
実は、B1基準を満たす5000人超収容のアリーナ新設は、群馬クレインサンダーズが太田市に移転する決め手でもあった。
これまで利用していた前橋市のヤマト市民体育館前橋は、観客収容数がフロアレベルの仮設椅子席などを合わせ約4500人(椅子席で2205人、立ち見席が若干)で、B1基準を満たせなかった。また均質かつ迫力ある音響やVIPルーム設置といった来場者へ快適な観戦環境の提供も難しかった。
新アリーナ建設によって、収容人数を大幅に増やせるだけでなく、アクセスも改善される。新アリーナが建設される太田市運動公園の駐車場収容数は約1200台で、これまでの3倍。また、これまで音響機材などをレンタルしていた費用や、座席設営作業などにかかっていた年間数千万円規模のコストを削減でき、それを選手補強や演出強化にかけられるとも見込んでいる。
ただし太田市は人口約22万人の工業都市で、B1クラブのホームタウンとしてはやや小規模といえる。例えば20-21シーズンB1を制した千葉ジェッツふなばしが拠点を置く千葉県船橋市は人口約62万人、準優勝を果たした宇都宮ブレックスの宇都宮市は約52万人。B1のチームの中では、信州ブレイブウォリアーズ(千曲市・約5万8000人)、琉球ゴールデンキングス(沖縄市・14万3000人)、シーホース三河(刈谷市・約15万3000人)、島根スサノオマジック(松江市・約20万2000人)に次いで、ホームタウンの人口が5番目に少ない(なお、アルバルク東京、サンロッカーズ渋谷は共に人口約22万人の東京・渋谷に拠点を置くが、都市部のクラブは地元の人口に左右されにくい)。
県内で比較しても、前橋市は県庁所在地で人口は約33万人、平成の大合併で6町村が合併した高崎市は上越新幹線の停車駅もある商業都市で約37万人。太田市は、ホームタウンの規模としてベストとは言えない。
それでも群馬クレインサンダーズが移転を決めたのは、太田市が以前から誘致に熱心で、同クラブを観光資源として活用し、ともにスポーツを軸にした街づくりをしていくという将来構想を提示したことが大きい。さらに、オープンハウスの創業者である荒井正昭社長が太田市の出身で、地域貢献に力を入れていることも要因の1つだ。
アリーナ建設に際しての発表会に登壇したBリーグの島田慎二チェアマン(代表理事CEO)は、「(現在進めているBリーグの構造改革に際し)各クラブでアリーナ建設の話は出ているが、23年完成予定は最速ではないか。数年かかるようなアリーナ建設計画を1年で準備したことは驚きであり、クラブ、オーナー、自治体が三位一体で作り上げる点も注目に値する」とコメント。企業版ふるさと納税の活用を「スポーツ界全体を盛り上げるスキームとして」成功させることにも大きな期待を込めた。
オーナーの資金力も問われるBリーグ
太田市への移転およびアリーナ建設には、Bリーグが21年4月に発表した「2026年 Bリーグ構造改革」も影響している。リーグ誕生から10年に当たる26~27年シーズンから、ビジネスモデルを変え、競技成績によるチームの昇格や降格を廃止し、替わりにクラブの事業規模に応じてカテゴリーを分ける新方式を採用する。
Bリーグはコロナ禍以前は順調に成長してきたが、選手強化に重きを置く今の仕組みでは、これ以上拡大できない。そこでビジネス面を重視して、アリーナやフロントスタッフに投資し、米プロバスケットボールNBAに次ぐ世界第2位のリーグを目指すという大きな目標を掲げている。
その一環として、現在のB1に替わり、最上位クラブが集まる「新B1」(仮称)の参入要件を、クラブの売上高12億円、ホームゲームの平均入場者数4000人、収容人数5000人超・一定のVIPルーム設置などを満たすアリーナの使用と定める方向という。このことが今回、群馬クレインサンダーズが5000人超収容のアリーナを新設する太田市に移転を決める、後押しになったわけだ。
地方創生のモデルケースを目指す
発表会で太田市の清水聖義市長は、関係人口・交流人口の増加を目指し、周辺都市を中心に県内外の法人会員で構成する後援会の発足に動いており、7月中には設立すると説明した。チーム運営の支援、公式戦の観客動員活動などを行うことも考えている。清水市長は「すでに内閣府に出向き、必要な手続きは終わっている。オープンハウスからの寄付はいくらでも受け入れられる」と言い、上限に近い寄付に期待を寄せた。
なお新アリーナはあくまでも公設の市民体育館であり、バスケ専用アリーナではない。市民利用に開放され、防災の拠点ともなる。こうしたアリーナの建設は何もBリーグに限ったことではない。政府は17年に閣議決定した「未来投資戦略2017」で「全国のスタジアム・アリーナについて、多様な世代が集う交流拠点として、2017年から2025年までに新たに20拠点を実現する」としており、これを受けてスポーツ庁が掲げた「スタジアム・アリーナ改革」でも、アリーナの建設は地方創生推進策と位置付けられている。そうした意味でも、企業版ふるさと納税を活用した、官民一体となった今回のスキームに対する期待度は高い。
オープンハウスは、群馬クレインサンダーズ、太田市と「三位一体となって地域課題の解決に努めるとともに、太田市においてスポーツを活用した地域共創の先進事例を作り上げ、日本全国から注目を集めるようなアリーナの建設、運営を目指す。太田市を中心とした東毛地区や群馬県での交流人口増加に向けて取り組む」という。現状、他の地方やスポーツで同様の取り組みをする計画はなく、まずは地方創生のモデルケースとなることを目指す考えだ。
また、「(ファンの)満足度向上で一番大切なのはチケットが完売していること。そして会場で観戦することがプレミア化すること。チケット争奪戦が起こり、チケットを持っていることで周りから羨ましがられれば、自然と満足度が向上すると考える。全試合チケット完売を当たり前にするよう尽力していく。
また地元の盛り上がりを作るためには、選手・職員らが多くの市民と接点を持ち、認知してもらうこと、興味関心を持ってもらうことが大切。試合日以外にどれだけ接点を持てるか、クラブとしての活動量を圧倒的に増やしていきたい」(同社広報)とした。