パナソニックサイクルテック(大阪府柏原市)が、「押し歩き機能」搭載の電動アシスト自転車「ビビ・L・押し歩き」を2021年7月6日に発売する。運転免許返納者が増加傾向であることなどを受け、需要が高まる高齢者の電動アシスト自転車市場でシェアを拡大していく。
4つのセンサーで法律の条件をクリア
パナソニックサイクルテック(大阪府柏原市)は、原動機の駆動により押し歩きを補助する機能を搭載した、電動アシスト自転車「ビビ・L・押し歩き」を2021年7月6日に発売する。メーカー希望小売価格は12万9000円(税込み)。
電動アシスト自転車は19年12月1日の改正道路交通法の施行により、原動機の駆動で押し歩きを補助する自転車についても「歩行補助車等」の扱いとなった。同法で定める原動機を用いた「歩行補助車等」と「駆動補助機付自転車」の双方に適合した自転車としては、ビビ・L・押し歩きが国内初となる。
改正道路交通法では、押し歩き時の駆動速度が時速6キロメートル以下であること、乗車装置(サドル)が使えず乗れないこと、自転車から離れると駆動が止まること、という3つの条件が定められている。ビビ・L・押し歩きは、この条件を「サドル傾斜センサー」「モーター内蔵センサー」「トルクセンサー」「スピードセンサー」という4つのセンサーによってクリアした。
同社によれば、モーター内蔵センサー、トルクセンサー、スピードセンサーの3つは、これまでの電動アシスト自転車にも搭載されているもので、これらのセンサーを「ビビ・L・押し歩きでは従来とは異なる場面で活用している」(同社広報)とのこと。サドル傾斜センサーは、押し歩きモデルに向けて開発した。同社の「ガチャリンコ」という商品に搭載していたサドルを傾斜させると鍵がかかるシステムを応用し、さらに傾斜の有無を感知するセンサーを追加したという。
スイッチを押しているときだけ駆動
押し歩きモードは、まず電源が入っている状態でサドル下のレバーを上げ、サドルの後部を引き上げる。するとサドル傾斜センサーが、人が乗車できない状態であることを感知し、押し歩きスイッチが押せるようになる。後は手元の「押歩き」専用スイッチを指で押した状態で、自転車を押して歩く。

押し歩き専用スイッチは、両手でハンドルを握っていても使いやすいように、左端に配置した。ボタンの高さ(出っ張り)を他のボタンより0.2ミリメートル高い、0.7ミリメートルにすることで操作性を高めている。ボタンから指が離れると、押し歩き機能を自動で停止する仕組みだ。
スピードセンサーとモーター内蔵センサーは、押し歩く速さが変わった際、歩行速度に合わせてモーター制御によるアシストが可能。また上り坂や荷物を運ぶ際は、モーター内蔵センサーが負荷を検知し、アシスト力を調整する。「(坂道でも)平地を歩くのと同等の感覚で押し歩きができるようになると考えている」(同社)という。
「30キロの車体の取り回しが大変」
電動アシスト自転車は坂道も楽にこげるなど便利ではあるが、軽いモデルでも23キログラム程度あり、重いものだと30キログラムにもなる。そのため走行時以外の取り回しの負担が課題だった。開発を担当した同社技術管理部課長の柏谷登喜子氏によれば、ユーザーから「降りたときの取り回しが大変だ」といった声が寄せられていた。
そこで柏谷氏は14年、同社の電動アシスト自転車に押し歩きの電動アシスト機能を付けることを発案。欧州のe-bike(スポーツサイクル用に開発されたドライブユニットを搭載している電動アシスト自転車)には「walk assist」、つまり歩行補助機能を付けたモデルも多く、同社でも欧州向け製品には取り入れていたため、当初はその機能を国内向けに転用することを提案した。しかし日本では法律上「自走になる」との指摘を受け断念。
その後、柏谷氏は小規模ながらも「押し歩きプロジェクト」を発足し、開発と検証を重ねた。19年12月の法改正で社内から正式に商品開発が認められ、約1年半で商品化にこぎつけた。「制御面については、最後まで安全性と利便性とのバランスを見極めるのに苦労した。電動アシスト自転車を使う高齢者を対象に実車検証も実施した。その結果、坂道やスロープ、地下通路等で押し歩きモードの有用性を確認できた」(柏谷氏)という。
高齢者を中心に電動化シフト拡大狙う
なぜ押し歩き機能をショッピングモデルに初搭載したのか。その背景には急速に進む高齢化社会がある。
総務省統計局によれば、65歳以上の高齢者は20年9月15日時点で約3617万人と推計され、総人口に占める割合は28%を超えており、40年には約4000万人、35.3%になると見込まれている。一方、警察庁の「運転免許統計(令和2年版)」によると、高齢者の運転免許自主返納者は15年から19年までの5年間で約2倍に増え、19年の65歳以上の自主返納者は約57万人と過去最多だった。
パナソニックサイクルテックの稲毛敏明社長は「同じ5年間で、当社電動アシスト自転車の65歳以上の方の登録者数は約2.4倍に増加した」と説明。これまでシティサイクル(一般的な自転車)を利用していた高齢者が、「移動の手段として電動アシスト自転車に移行しているのではないか」と稲毛社長はみている。電動アシスト自転車市場そのものも拡大しており、同社の調査によれば20年度の電動アシスト自転車の総需要は前年比115パーセントとなる約82万台だったという。
「ビビ」は同社の電動アシスト自転車の中で、最も売れているシリーズだ。前かごが大きく、「スタピタ2」というスタンドを立てると同時にハンドルも固定されるなどの機能があり、買い物に適したモデルとして支持されている。サイズやカラーも豊富で幅広い年齢層が選びやすく、愛用者の65%が60代以上という結果も、同モデルへの押し歩き機能搭載を後押しした。
ビビ・L・押し歩きの本年度(21年7月~22年3月末)の目標販売台数は1500台で、同社では全く新しい機能として、市場にどの程度受け入れられるかも検証していくという。また、今後は押し歩き補助機能を、子乗せモデル、業務用モデル、ファッションモデル(軽快車)、スポーツモデルなどに展開していく考えだ。
なお同社広報によれば、自転車市場における電動化率は国内は10%。例えばドイツの30%に比べると、乗り換えが今後さらに進む余地がある。「環境に配慮したモビリティーとして、また働き方も在宅が主流となる中、環境意識、健康意識の高い方にも選ばれていくのではないか。今回の押し歩き機能搭載など付加価値を加え、利便性と快適性の高い製品を提案することで、市場拡大につなげたい」(同社広報)という。
(写真提供/パナソニックサイクルテック)