コロナ禍でも前年比107%と好調なメルシャンの自社ワインブランド「シャトー・メルシャン」は、2021年に3銘柄を新規投入する。主力の「甲州ワイン」の最高峰クラスや、17年に植樹した新産地のブドウで造るシリーズなど。日本ワインの存在感が世界的に高まる中、さらなる価値向上を狙う。
海外で得た高い評価が追い風に
メルシャンの2020年の実績は、輸入ワイン、国内製造ワインを合わせた売り上げこそ前年比97%にとどまったものの、国内製造ワインだけで見ると同102%、シャトー・メルシャンの商品に限れば同107%と成長している。21年のシャトー・メルシャン商品の販売目標は、前年の5.3万ケースを20%上回る6.3万ケースだが、4月時点ですでに前年比105%に達しており、引き続き好調を保っている。
背景としては、家飲み需要の拡大で家庭用ワインの国内販売が全般に伸びていることが大きいが、シャトー・メルシャンの場合は海外から高い評価を受けたことも要因となっている。英国ウィリアム・リード・ビジネス・メディアが主催し、20年に行われた世界最高のワイン観光地を決める「ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020」では、シャトー・メルシャンの 椀子(まりこ)ワイナリーが世界30位、アジア1位に選ばれた。日本からは初めての選出ということで、米国のニュースチャンネル・CNNでも取り上げられるなど、話題となった。ウィリアム・リード・ビジネス・メディアは世界最高峰のワインコンペティション「IWC」(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)を主宰している。
好調を追い風に、シャトー・メルシャンは21年、3銘柄を一気に新発売する。1つ目は、17年に植樹した長野県塩尻市の自社管理畑「片丘ヴィンヤード」で初めて収穫した欧州系品種のブドウを使用した「シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤード」シリーズ。「シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤード メルロー&カベルネ・フラン 樽(たる)選抜 2019」、「シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤード メルロー 樽選抜 2019」、「シャトー・メルシャン 片丘ヴィンヤード 2019」の3商品を展開する。
塩尻市には、以前からシャトー・メルシャンの桔梗ヶ原(ききょうがはら)ワイナリーがある。その中にあるブドウ畑「桔梗ヶ原ヴィンヤード」は、1989年に初めて国際コンクールで大金賞を獲得し、今でも海外で評価が高い「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー」の産地だ。片丘は、桔梗ヶ原と並ぶブドウの産地として2015年に開園した。上述の3商品は「片丘ヴィンヤード」の名を冠した初のヴィンテージワインとなる。
「甲州ワイン」の最高峰
シャトー・メルシャンは、1976年から日本固有品種への取り組みとして「甲州ブドウ」を用いた多様なワインを開発し続けている。2021年に本場英国で行われたIWCでは、「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ 2019」が金賞に選ばれる快挙を達成した。
21年に発売する3銘柄の2つ目は、「シャトー・メルシャン 岩出甲州 オルトゥム 2020」。山梨市にあるブドウ畑・岩出ヴィンヤードの中でも特に優れたブドウが収穫できる区画のもののみを使用する、メルシャン「甲州ワイン」初の最高峰クラスワイン。20年に製造したプロタイプは、海外の著名MW(マスター・オブ・ワイン、世界最高峰のワインの専門資格)からも絶賛されたという。
3つ目は、「シャトー・メルシャン 鶴岡甲州 2020」だ。原材料となるブドウの産地である山形県鶴岡市は、江戸時代から「甲州ぶどう」を生産する歴史のある産地だが、これまで同社のワインには使用していなかった。今回、山梨、長野、福島、秋田の4県以外の栽培地と40年ぶりに契約した。グレープフルーツなどのかんきつ、白桃やバナナなど熟した果実の香りが感じられるという。
日本ワインの価値向上へ
ロンドンでは、コロナ禍においても、飲食店、ホテル、ワインショップ、小売店へのシャトー・メルシャンのワインの採用が順調に増えているという。そこで、メルシャンはオンラインを通じて最新情報を海外の有名なWMやジャーナリストと共有するなど、日本ワインの価値向上に力を注いでいる。
日本ワインのワイナリーは16~19年にかけて3年連続で増加し、19年3月時点では331になった。一方、生産者は中小企業が97%を占め、約半数のワイナリーの営業利益は50万円にも満たない。
シャトー・メルシャンは国内随一の国産ワインブランドとして、近隣の他社ワイナリーと連携し、国産ワイン市場の活性化に取り組む。20年11月に近隣ワイナリー4社とともに実施したオンラインイベント「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリーフェスティバル」は、2日間で約5000人が視聴した。21年も実施するといい、参加ワイナリーは10社に増える予定だ。
「自分たちだけがいいワインを作っていても難しい。農家やワイナリー、販売店、消費者と一緒に成長しなくては日本ワイン産業全体が大きくならない」と、同社マーケティング部長の山口氏は言う。
シャトー・メルシャン ゼネラル・マネジャーの安蔵光弘氏は、「生産量では(海外ワインと戦うのは)難しいが、いいワインを10本選ぶときに、『日本にもいいワインがある』と選ばれるようになることを目指す」と話す。
新たに性格の異なる3銘柄を追加することで、国内外のワイン市場における、日本ワインのさらなる価値向上を狙う。
(写真提供/メルシャン)
記事公開時、リードにて「前年比120%と好調」していましたが、正しくは107%でした。また、本文1パラグラフで「シャトー・メルシャンの2020年の実績は、輸入ワイン、国内製造ワインを合わせた売り上げこそ前年比97%にとどまったものの」としていましたが、シャトー・メルシャンではなくメルシャンの売り上げでした。お詫びして訂正します。[2021/6/01 11:40]