ホンダ8代目社長の八郷隆弘氏が2021年3月に退任した。それを受け、新たに社長に就任した三部敏宏氏が4月23日、社長就任会見を行った。長年エンジン開発に携わってきた三部氏率いるホンダは今後、どのような方向を目指すのか。

2021年4月1日にホンダの社長に就任した三部敏宏氏
2021年4月1日にホンダの社長に就任した三部敏宏氏

ホンダはエンジンをやめてしまうのか

 2021年2月にホンダが社長交代を発表してから2カ月がたち、4月23日に9代目社長、三部敏宏氏が就任会見を行った。

 ホンダは19年に「環境」と「安全」を二本柱として取り組む、「2030年ビジョン」を策定。将来に向けてモビリティー、パワーユニット、エネルギー、ロボティクスの領域で進化をリードする存在となることを目標に掲げている。その方針が変わらないことを、今回の会見で改めて伝えた。

 地球環境への取り組みの1つとして、四輪車の電動化を積極的に進めていく方針を強調したことが最大のポイントだが、これが一部で大きな波紋を呼んでいる。

 三部社長は会見で、自動車メーカーとしてまず「Tank to Wheel(自動車の燃料タンクからタイヤの駆動までのCO2排出量を指す)」でのカーボンフリー(CO2を排出しない)を達成するため、「先進国全体での電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)の販売比率を30年に40%、35年には80%」にすることを目標とし、さらに「40年にはグローバルで100%」を目指すと説明。

 この40年までにEVとFCVのみを販売するという「100%宣言」が、「歴史的にもエンジンやハイブリッドを得意としてきたホンダが、エンジンをやめてしまうのか」との臆測を生み、波紋を呼んだといえる。

先進国全体での電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)の販売比率を30年に40%、35年には80%にするという
先進国全体での電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)の販売比率を30年に40%、35年には80%にするという

海外市場は北米、中国市場を重視

 先進国では「北米、中国、日本」の3カ国が主要市場で、北米と中国でもやはりEV、FCVを合わせた販売比率を30年に40%、35年に80%、40年に100%にしていくという。

 北米の電動化については、米ゼネラル・モーターズ(GM)との戦略提携が強み。GMのEV向けバッテリー「アルティウム」を採用し、両社共同開発となる大型EVを2車種、ホンダブランド、アキュラブランドの24年モデル(23年内に発表予定)として、北米市場に投入する予定だ。別途、ホンダが開発を主導する、全く新しいEVプラットホーム「e:アーキテクチャー」を採用したモデルもある。こちらは20年代後半から順次、北米市場に投入し、その後、各地域へも展開するという。

 中国では、既に現地リソースを活用した「M-NV」など3車種の中国専用EVを展開しているが、今後もこれを加速し、5年以内にホンダのEV10車種を投入すると予告。その第1弾は、「上海モーターショー2021」(21年4月19日~28日)で披露した「Honda SUV e: Prototype」をベースとする量産車で、22年春に発売する計画だ。EVの要となる駆動用バッテリーは、中国の車載電池最大手、寧徳時代新能源科技(CATL)との連携を強化するなど、やはり現地のリソースの活用を高めていく。

日本では軽自動車のEV化も24年に

 日本ではEV、FCVの販売比率を30年に20%、35年に80%、40年に100%とし、30年までの目標値を他の先進国より低く設定した。日本では現在、ハイブリッドカーの普及率が高く、30年時点ではハイブリッドを含めての「100%電動車化」を日本独自で計画。ポイントはコスト面で難しいとされる軽自動車のEV化で、これをホンダは24年の投入を目指し、同時にハイブリッド化も進めるという。

 重要部品となる駆動用バッテリーについては、地産地消、つまり日本製にこだわる姿勢を見せた。EVの競争力を高めるため、大容量で低コストな駆動用バッテリーとして全固体電池の研究を推進。今期中には実証ラインでの生産技術の検証にも着手するという。なお全固体電池搭載モデルは20年代後半の投入を目指し、研究を加速する考えだ。

二輪車ほか製品全体の電動化も視野

 二輪車は四輪車とは異なり、電動化を進めながら、同時にガソリンエンジンの燃費改善や、バイオ燃料の活用などにも取り組む。これはホンダの二輪車の新興国でのシェアが大きく、電動化だけでなく、あらゆるエネルギーでCO2削減を目指していく必要があるとの考えからだ。

 ただ、世界的にも低価格が求められる電動バイクは、高額なバッテリーを車両と切り離して考えることが普及のカギだという三部社長は、より現実的な路線として、着脱可能な⼩型の可搬式バッテリー「Honda Mobile Power Pack(モバイルパワーパック)」を活用すると説明。電動化への社会的要請が強い先進国では、「B to B(企業間取引)」「B to G(省庁や⾃治体との取引)」をターゲットに、モバイルパワーパックを活⽤した電動化を進めるという。その一例として、日本では、日本郵便への電動バイク「BENLY e:」の納入を皮切りに、今後もデリバリー用途に向けた法人販売を強化していくとした。

 一般ユーザー向けには、商品の拡充だけでなく、バッテリー交換ステーションを多く設置すること、どのメーカーのEVでも利用できるようにすることが必要だと説明。今後は日本、欧州それぞれで、他の二輪車メーカーとコンソーシアムを設立し、交換式バッテリーの標準化に取り組む。

 なおモバイルパワーパックは二輪車以外に、耕運機、除雪機、発電機などのパワープロダクツ製品にも活用し、ホンダ製品全体の電動化にも力を入れていく。またマイクロモビリティーにも活用する考えだ。インドでは既に三輪タクシー「リキシャ」を活用した実証実験もスタートしている。

個人としてはエンジン車への思いも

 三部社長は会見で、改めてホンダは自動車、バイクなどモビリティー製品にとどまらず、エネルギーやロボティクスといった領域で環境と安全に取り組み、50年にはホンダが関わる全ての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指すことを明言した。カーボンニュートラルは、経済活動をはじめ人間の活動で発生する温暖化ガスについて、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることだが、これは政府の方針に沿った形でもある。

 ただ全製品を電動化しようというわけではなく、例えば航空機に関しては電動化は不向きなため、「カーボンニュートラル・フューエルも加えた様々なエネルギーを利活用していく」という。

50年にはホンダが関わる全ての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指す
50年にはホンダが関わる全ての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指す

 それならば、四輪車についてもエンジン車やハイブリッド車をやめなくてもいいのではないかとも考えられる。これに対し三部社長は「50年にカーボンニュートラルを目指すためには、新車の保有年数を10年とするならば、40年に販売する新車からのCO2排出量をゼロにしなくてはならない」と説明。「現時点でCO2排出量ゼロを可能にできるのが、EVとFCV」であり、40年までに「新たな技術が開発されれば、変化することもあるだろう」と三部社長は話す。

 また21年4月の日本自動車工業会の会見で豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が、「電気だけに頼らず、様々な技術を複合させることでカーボンニュートラルの実現を目指すべきだ」と意見したことに関して質問されると、ホンダも特定の技術の採用を目指しているわけではないと言い、「50年のカーボンニュートラルの実現が大切であり、ホンダとしても様々な方法を検討している」と答えた。

 そもそも三部社長自身は、エンジン開発に深く携わってきた人物だ。おそらく脱エンジンが全てとは考えていないと思われる。それを示すように、三部社長はあくまで個人的な意見としながらも、「世の中で運転を楽しむためのクルマの一部には、e-Fuel(イーフューエル)などを活用したものも残っていくかもしれない」と、エンジン車への思いを口にした。

 ただ、現在掲げるカーボンニュートラルの目標クリアのためには、EVとFCVへのシフトが最適という経営判断は避けようがないということだろう。

 モーター、インバーター、バッテリーというEV3部品の調達や、現時点では1%にも満たない日本や北米でのEV比率を高めていくことは、容易なことではない。しかし、ホンダという会社はこれまでも不可能とされた目標を乗り越え、成長してきた歴史がある。そのチャレンジスピリットを前面に打ち出すことで、困難な時代にメーカーとしての生き残りを掛けた強い姿勢を示したと言えそうだ。

 特に電力供給については、現時点ではEVシフトにも課題があるのも事実だけに、今後、新たなハイブリッドカーの活用もないとは断定できない。全てをEVとFCVで乗り越えるのか、それとも新たな手を示すのか、ホンダの挑戦に注目したい。

(写真提供/ホンダ)