2021年5月11日、日清食品ホールディングス(HD)が21年3月期の決算で売上高にあたる売上収益が5061億円と過去最高を記録したことを発表。同時に21年度以降の中長期的な成長戦略と10年後に向けた成長目標を定めた経営計画を明らかにした。非即席麺事業を第2の収益の柱とし、成長テーマの1つとして “未来の食”を掲げた。
2021年3月期の決算で売上高にあたる売上収益が前期比約8%増の5061億円と過去最高を記録――。コロナ禍でも絶好調な日清食品HDが決算と同時に、21年度以降の中長期的な成長戦略と10年後に向けた成長目標を定めた経営計画「日清食品グループ中長期成長戦略」を発表した。
注目は3つの成長戦略テーマの1つとして、新規事業の推進を掲げていること。フードサイエンスとの共創による“未来の食”だという。「未来の食というと代替肉や昆虫食など地球環境のサステナビリティー(持続可能性)のイメージが強いが、今回は飽食による健康悪化の解決がターゲット」(日清食品HD副社長COO兼日清食品社長の安藤徳隆氏)
そのために同社が取り組んでいるのが「おいしい完全食」。即席麺などで培った減塩や油分カット、苦みのマスキング技術などを活用し、摂取カロリーを抑えても従来の食事と遜色ないおいしさで、必要な栄養素をバランスよく摂取できるという。驚くのは、とんかつ定食やカレーライスなどメニューのバリエーションが豊富な点だ。「現代の食生活は豊かになっている一方、男性のオーバーカロリーによる肥満や、女性の間違ったダイエットによる隠れ栄養失調など問題点も多い。好きなものを好きなときに好きなだけ食べても大丈夫な世界をつくりたい」(安藤副社長)
その効果を実証すべく、自社の社員食堂などで臨床試験を実施。体重や体脂肪率、血圧、中性脂肪などのデータに改善が見られたという。同社ではこうしたバイタルデータの変化の検証をバージョン1.0とし、今後はバージョン2.0として慶応義塾大学医学部と共同で、肥満をきっかけにさまざまな病気が連鎖的に起こる「メタボリックドミノ」をテーマに研究を進めていくという。
このおいしい完全食を、定期宅配やコンビニ、スーパー、社員食堂など、さまざまなルートで展開していく。そのために、まずは伊藤忠商事の社員に提供する試験的取り組みを21年5月から始め、100人規模の実証実験を経て1000人規模の事業に拡大。定期宅配は21年度下期にスタートし、パーソナライズ化を見据えてAI(人工知能)開発のPreferred Networks(東京・千代田)と共同で栄養素と健康状態の関係を解析する技術の開発も開始する。両備ホールディングス(岡山市)が同市で進めている再開発事業で「未病対策の街づくり」をテーマとした共同事業も開始するなど、街レベルでのサービス提供まで見据えている。
同社は“未来の食”への投資として、既存事業の実質的成長を示す「既存事業コア営業利益」の5~10%を継続的に投下する方針。「21年度は25億円から45億円のレンジで投資をしていきたい」(安藤副社長)。22年までにおいしい完全食の認知・普及を図り、25年までにパーソナルヘルスレコードの獲得やアルゴリズムの深化など、テクノロジーによって事業を拡張。30年までにパーソナルヘルスレコードのプラットフォーム化と食のパーソナライズ化を実現して事業基盤の確立を図るというロードマップまで描いているのだ。
また、将来的には安価で入手しやすい「カップヌードル」の完全栄養化により、世界的な社会問題になっている「フードデザート」(「食の砂漠」という意味で、貧困や食料品店へのアクセスの困難さなどが健康被害の拡大につながる問題)の解決にも挑戦していきたいという。