ボルボは新型電気自動車(EV)「ボルボC40リチャージ(以下、C40リチャージ)」を2021年秋に日本へ投入する。C40リチャージはEV専用車で、販売はオンラインのみ。また契約後3カ月以降は自由に解約できる、新たなサブスクサービスの計画も明らかにした。
「C40リチャージ」はクーペスタイルに仕上げられたコンパクトSUV(多目的スポーツ車)だ。2021年3月2日にスウェーデン本社からオンラインで世界に向けて初公開され、翌3日に日本でも披露された。
これに併せ、ボルボは30年までに完全な電気自動車メーカーに転身する計画を発表。今後、数年のうちにEVを複数台発売する。同社は25年までに世界販売台数に占めるEV比率を50%に高め、残り50%もハイブリッド車とする計画。最終的には現在のマイルドハイブリッド車やプラグインハイブリッド⾞(PHEV)を含め、エンジン搭載車を段階的に廃止し、EVのみを販売する方針だ。また今後投入する新型EVは、すべてオンラインのみで販売するという。
ひと目でEVと分かる専用デザインに
ボルボ・カー・ジャパンが21年3月3日に行ったオンラインイベントには、マーティン・パーソン社長がプレゼンターとして登壇し、C40リチャージを紹介。イベント終了後、発表会のために本国より持ち込んだ展示車を限定公開した。
C40リチャージはボルボ史上初のEV専用車で、EVであることを主張するデザインが特徴だ。既に日本でも発売されているコンパクトSUVのEV「XC40リチャージ」とデザインの共通性はあるが、マイルドハイブリッド車の「XC40」に加え、プラグインハイブリッド車も併売するXC40リチャージ(現時点で日本にはXC40リチャージのEV車は未導入)に対し、C40リチャージはEVのみとあって、より特化したデザインが可能になったのだろう。
例えばエクステリア(外装)。フロントをグリルレス(フロントの網や格子状の部分がないデザイン)にしたり、常にハイビームにして運転していても対向車の運転を妨げないよう光を制御する「ピクセル・ライト・テクノロジー」を用いたヘッドライトを採用したりしたことなどによって、EVらしさを際立たせている。インテリアでは、環境保護の観点からボルボでは初めてレザー素材を一切使用せず、オプションでも選択不可にした。また車両のソフトウエアはオンラインで更新され、工場出荷後も改善していくという。
動力を生み出すパワートレインは、車体の前後にそれぞれ電気モーターを搭載。C40リチャージはつまり4WD車だ。駆動用リチウムイオン電池は78kWh、航続距離(満充電で走行できる距離)は約420キロメートルを想定するが、ソフトウエアのアップデートで向上させる計画もあるという点が興味深い。なおC40リチャージは、ベルギー工場で21年秋から生産を開始する予定だ。
日本での新車販売も、EVに関してはオンライン販売へ切り替える。このためC40リチャージは、ボルボとしては日本に初めて投入するEVながら、オンラインのみでの販売となる。パーソン社長は「現時点で価格は未定」としながらも、「競争力があるものにしたい」と力強く語った。
一方、日本ではEVのシェアが低いという現状を踏まえ、新たにサブスクリプションサービスの提供も行うと発表。初期投入予定の100台限定だが、契約後3カ月以降は自由に解約できるという。このプランであれば、EVに関心がある層に、「お試し感覚」で提供できると踏んでのことだ。
日本での販売台数を約5年で1万台増
では今後、ボルボの日本での販売戦略はどうなっていくのだろうか。
パーソン社長の話では、基本的にグローバルと足並みをそろえる方針で、世界同様に日本でも段階的にEVの販売比率を高めていくという。そのため毎年1種類以上の新型EVを日本市場にも投入し、25年には日本でのボルボ新車販売の35%をEVに、30年には世界同様100%EVにするという。
日本での新車販売数自体を上げる目標も掲げており、25年には2万5000台を目指す(うち35%、つまり9000台弱がEV)。日本におけるボルボの20年の新車販売数は、新型コロナ禍の影響を受け1万5547台にとどまった。ちなみに好調だった19年は1万8583台を販売した(日本自動車輸入組合〈JAIA〉発表値)。
EV比率を高めることはオンライン販売のみの比率を増やすことでもあり、現状を考えれば実質1万台増は、4年後の目標とはいえかなり野心的といえる。それでもボルボが世界各国で「電動化」に積極的なのは、近年の世界的なカーボンフリーを目指した環境規制の強化に加え、欧州での電動車の販売が好調という背景があってのことだ。
ピュアEVとPHEVで構成される「リチャージ」モデルのラインアップの販売数は、20年下半期に前年比で約3倍まで成長しており、欧州では販売したボルボの3台に1台がPHEVだったという。ボルボのみならず、欧州全体で新車販売に占めるEVのシェアが急拡大しており、EVシフトは必然とみなしているようだ。
現在のEVのシェア拡大は、あくまで欧州各国のエコカーに対する手厚い補助金があってのこと。しかし、それをてこにしてでもEVに集中することで、商品力や価格、サービスなどの総合力を鍛え、自動車メーカーとして生き残りを懸けていることがうかがえる。
ただし、EVメーカーへの転身はボルボだけが考えていることではない。英国のジャガーやベントレーなどもすでに表明しており、米国でも電動車へのシフトが強まる見込みだ。
日本での課題として、急速充電器に代表される利便性の高い充電インフラの整備の充実などが挙げられるが、現時点では十分といえず、新車販売に占めるEV比率は1%にも満たないのが現実だ。国の政策としては、日本でもEVの普及と拡大は急務と考えているようだが、ボルボが目標を達成するには、プレミアムブランドとしての価値だけでなく、コストパフォーマンスやEV購入による顧客メリットの増大も求められるようになるだろう。
今のところ、EV販売の戦略やサービスなどは明かされていない。具体的な戦略については、C40リチャージの日本での発売を待つことになりそうだ。
(写真提供/ボルボ)