ホンダが自動運転レベル3に該当する運転支援機能を含む「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」を搭載した「レジェンド」を発売してから2カ月がたつ。1100万円(税込み)の高級車だが、発売2カ月で既に予定の6割を販売した。

2021年3月4日の発表会で、「ホンダ センシング エリート」を搭載した「レジェンド」がお披露目された
2021年3月4日の発表会で、「ホンダ センシング エリート」を搭載した「レジェンド」がお披露目された

法整備の違いから販売地域は日本のみ

 「ホンダ センシング エリート」は自動運転レベル3に該当する運転支援機能を含むホンダの安全運転支援システムだ。フラッグシップセダン「レジェンド」の新グレードに同機能を搭載し、2021年3月5日に発売した。100台限定でしかもリース販売のみ。価格は標準のレジェンドより375万1000円高い1100万円(税込み)だ。リースの契約期間は3年間の予定で、現在のところ追加販売はしないという。国や地域によって法整備が異なるため、今回の販売は日本のみとなっている。

 ホンダ センシング エリートの機能で、自動運転レベル3に該当するのが「トラフィックジャムパイロット」だ。これは高速道路や自動車専用道路での渋滞時運転を想定した機能で、作動中は特定の走行環境条件を満たす限定領域において、システム主体の運転が可能となる。システムが周辺の交通状況を監視するので、ドライバーは「前方の監視」の必要がなくなり、その間は運転操作から解放される。そのため走行中でもナビ操作やテレビ、DVDの視聴もできる。システムの作動開始速度は時速30キロメートルで、作動領域は時速50キロメートル以下となる。

 トラフィックジャムパイロット以外にも、自動車専用道路でのハンズオフ機能なども追加するほか、安全運転支援システムの機能全体のアップデートも行われた。

安全運転支援システム「ホンダ センシング エリート」には、自動運転レベル3に該当する「トラフィックジャムパイロット」の機能が備わっている
安全運転支援システム「ホンダ センシング エリート」には、自動運転レベル3に該当する「トラフィックジャムパイロット」の機能が備わっている

発売から約2カ月で予定の約6割受注

 レジェンドをホンダ センシング エリートの初搭載車に選んだ理由について、開発責任者であるホンダの青木仁氏は「ホンダのフラッグシップモデルとして、常に最新技術を搭載し、チャレンジしてきたから」と説明。販売をリースのみで100台に絞ったのは「丁寧に売っていくため」(ホンダ日本本部長の寺谷公良氏)で、定期点検などのサービスを含め、万全のサポート体制を準備している点を強調した。

 実情として、自動運行装置搭載車の整備には国土交通省の特定整備事業の認証を取得する必要があるため、メカニックや工場設備の観点から、一気に全店舗展開することは難しい。加えて販売車両をしっかり管理することで、事故やトラブルを未然に防ぎたいという面もあるだろう。自動車保険については保険各社と開発段階から事前に協議を行い、特約を設けることで問題なく任意保険加入ができる体制を整えた。

 高価なセンサーおよび制御システムの搭載と、万全のサービス体制を考えると、レジェンドの1100万円はかなり抑えた価格といえる。世界初という華々しい称号の一方で、現時点ではテストケースであり、購入者側もその“挑戦”を理解する心が必要だ。ホンダとしては限定100台の売れ行きやオーナーの使い方、ニーズなどを読み取り、次のステップに進めていく計画なのだろう。ホンダによれば、発売から約2カ月で既に全体の約6割を受注したとのこと。

1100万円は高価なシステムとサービスなどを含めれば妥当とも考えられる
1100万円は高価なシステムとサービスなどを含めれば妥当とも考えられる

先進技術は価格競争力が弱く実験的

 他社に先駆けて自動運転レベル3の技術を搭載した車を販売したことは、今後の開発面でも一歩リードするためと考えられる。実際ホンダ センシング エリートの開発では、約1000万通りのシミュレーションを重ね、高速道路では約130万キロメートルを走行する実証実験を行ってきた。これが「エンジニアの知見につながっている」(本田技術研究所 先進技術研究所エグゼクティブチーフエンジニアの杉本洋一氏)。

 「今回、自動運転レベル3のシステムの安全性と信頼性を確保するために、高度なシステム開発から安全性を証明するプロセスまでを作り上げた。ホンダはこれまでにも、03年に世界初の追突軽減ブレーキを投入し、それが衝突被害軽減ブレーキとなって普及したのはここ数年のこと。先進技術が浸透するまでに時間がかかるのは確かだ。しかしこれは将来必ず必要とされる機能だ。(今後は)様々なメーカーが取り組むことで、低価格化や普及も進んでいくことだろう」(杉本氏)と、いち早く導入する意義を訴えた。

 販売台数だけを見ればレジェンド ホンダ センシング エリートは、実験的な意味合いが強い。しかし14年に投入した安全運転支援システム「ホンダセンシング」は、20年に販売された新車の95%以上に装着されるようになっており、手応えは十分感じているだろう。

 自動運転レベル3の技術はたとえ限定的だとしても、システムに運転を担わせることで、ヒューマンエラーによる事故防止につながる。100台を販売することでさらに知見や技術を得ることは、30年に交通事故ゼロ社会を目指すホンダが次の一歩を踏み出す重要な足掛かりとなるに違いない。それだけに、今後どの時点で次のホンダ センシング エリート搭載車を投入するのかも気になるところだ。

左からホンダ日本本部長の寺谷公良氏、本田技術研究所 先進技術研究所の杉本洋一氏、ホンダの青木仁氏
左からホンダ日本本部長の寺谷公良氏、本田技術研究所 先進技術研究所の杉本洋一氏、ホンダの青木仁氏

(写真/大音 安弘)

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