海外出店を加速する回転ずしチェーン「くら寿司」は2021年4月22日、世界に向けた「ジャパンカルチャー発信型」店舗のグローバル旗艦店を大阪の中心地、道頓堀に開店した。20年1月の東京・浅草に続く2号店。同社初の“完全非接触”技術を導入した。都心駅前店を中心に、年間で25~30店の国内出店を進める。

2021年4月22日にオープンしたグローバル旗艦店2号店「くら寿司 道頓堀」。座席数は204席
2021年4月22日にオープンしたグローバル旗艦店2号店「くら寿司 道頓堀」。座席数は204席

いち早い非接触型サービスの導入

 世界で新型コロナウイルス感染が急拡大した2020年度、外食産業は大きな打撃を受けた。回転ずし市場は初めて縮小、くら寿司も4月には売上高が前年比約50%まで落ち込んだ。その後、一時は回復したものの、感染拡大第2波(20年7~9月)、第3波(20年11月~21年2月)の時期に再び前年割れになるなど、一進一退を繰り返した。

 くら寿司の田中信副社長は、苦境の中でも「回転ずし業界は郊外を中心とした出店戦略や持ち帰り需要を取り込めたことが奏功し、他業態に比べ影響は軽微だった」と述べる。とりわけくら寿司は、11年に導入した直接手を触れずに外せる寿司カバー「鮮度くん」や飛沫防止のカーテン、シートの活用、テーブル入れ替え時の消毒といった感染防止強化策を20年5月までに全店に拡大。感染拡大防止対策にスピーディーに取り組んだことで、21年3月の売上高は曜日調整後で前年同月比120%と、コロナ前の水準にまで回復している。

21年4月21日に行われた「グローバル旗艦店『くら寿司 道頓堀』オープン発表会」に登壇したくら寿司の田中信副社長
21年4月21日に行われた「グローバル旗艦店『くら寿司 道頓堀』オープン発表会」に登壇したくら寿司の田中信副社長

 「コンタクトレス・タッチレス」なシステムの導入でも競合に先行した。入店予約から注文まで手持ちのスマホででき、会計もタッチレスにするなど退店時まで店員と会うことなく(コンタクトレス)済ませられる非接触型サービス「スマートくら寿司」をすばやく展開。スマートくら寿司は21年中に国内全店に導入を完了させる予定だという。

 この度開店したグローバル旗艦店2号店の「くら寿司 道頓堀」では、システムをさらに改善。従来のスマートくら寿司では会計時に2度だけ画面にタッチしなければならなかったが、同店導入のシステムではスマホアプリを改良して“100%非接触”になった。この“進化版”スマートくら寿司は既存店にも順次対応させる。

「スマートくら寿司」は、スマホ、小型カメラとAIで皿の枚数を自動検知する設備、タッチレスのセルフ会計システムを用いて、入店から退店まで「非接触」で済ませられる。来店時は非接触型のタッチパネル搭載の自動案内機でセルフ案内
「スマートくら寿司」は、スマホ、小型カメラとAIで皿の枚数を自動検知する設備、タッチレスのセルフ会計システムを用いて、入店から退店まで「非接触」で済ませられる。来店時は非接触型のタッチパネル搭載の自動案内機でセルフ案内
店内タッチパネルに触れることなく自分のスマホから注文
店内タッチパネルに触れることなく自分のスマホから注文
店員がいなくてもお客様自身で会計出来るシステム
店員がいなくてもお客様自身で会計出来るシステム

 また、くら寿司 道頓堀は、のれんを用いた「半個室」を同社で初めて導入した点も特徴的だ。浅草ROX店に続き、内装やブランディング全体を手掛けたクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏は、「1センチメートル単位で長さを調整し、外からは顔が見えないが、にぎわいを感じるように」設計したという。

クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏。ロゴも変更、日本らしさが一目で分かる毛筆の筆跡を用いた
クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏。ロゴも変更、日本らしさが一目で分かる毛筆の筆跡を用いた
のれんを用いた「半個室」を同社で初めて導入。外からは顔が見えないが、にぎわいを感じるような長さに
のれんを用いた「半個室」を同社で初めて導入。外からは顔が見えないが、にぎわいを感じるような長さに

加速する都心駅前出店

 コロナ禍においてくら寿司は、出店エリアにも新たな戦略を打った。これまでロードサイド(郊外)でファミリー層をメインターゲットに出店を続けてきたが、コロナ禍で飲食店の廃業が相次ぎ、空き物件が出始めたため、都心や駅前エリアにも積極的に出店した。東京、大阪、名古屋、博多、札幌といった大都市圏の駅前店舗は20年4月までの7店舗から21年10月までに23店舗まで拡大する予定。「できるだけ早い時期に100店を目指し、都心駅前を中心に年間25~30店の新規出店をする」(田中副社長)との計画を明かした。

渋谷駅前店、西新宿店、甲子園店でテスト販売中の「お刺身 七種盛り」
渋谷駅前店、西新宿店、甲子園店でテスト販売中の「お刺身 七種盛り」

 都心駅前店の顧客層は郊外店に比べ、10~20代の若年層が多い、クルマで来ないためアルコール飲用者が多いといった特徴がある。こうした顧客層に適したメニュー開発も進める。すでに渋谷駅前店、西新宿店、甲子園店では、21年4月23日からシャリなしの刺し身メニューをテスト販売している。

コロナ禍でも海外出店が順調

 くら寿司は、国内店舗の拡大と同時に海外出店も積極的に展開している。09年に進出した米国では31店、14年に進出した台湾は34店まで拡大(21年4月21日現在)。19年8月には米・ナスダック市場に日本の外食企業、日本企業の現地子会社として初上場。20年9月には台湾証券取引市場・台北エクスチェンジに現地子会社「アジアくら寿司」が上場した。今後も、出店のペースを上げる。

 米国ではコロナ禍の20年から21年年初にかけて厳しい状況が続いたものの、21年3月には「鮮度くん」の効果が認められ、感染状況が深刻で屋内営業再開への制限が最も厳しかったカリフォルニア州でもレーンを用いた営業が同社のみ許可された。これによって、業績は急回復。現地での人気は非常に高く、外食店の約20%が廃業に追い込まれる中でも新規出店を進めている。フロリダやワシントンD.C.など東海岸にも進出し、開店前から最大4時間待ちの行列ができるほどの人気だ。出店オファーも相次いでおり、「現在は出したいところに出せる状況」(田中副社長)。主要都市への出店および100店舗体制を早期に目指す。

 台湾でも順調に事業拡大が進み、20年だけで新規出店数は11店に上った。今後は年間5~10の出店を継続し、早期に50店舗体制を目指す。さらに、22年度中に別のアジアの国に進出する計画も明かした。

国内のグローバル戦略としての旗艦店強化

 グローバル戦略は、国内事業においても注力している。その1つが20年1月に東京・浅草にオープンしたグローバル旗艦店の1号店「くら寿司 浅草ROX店」。20年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック開催を見越し、多くの訪日客に日本文化や和食を伝達、世界にもその魅力を発信する拠点と位置付けた。コンセプトは「観光(Sightseeing)」と「食事(Eating)」を同時に楽しめるという意味の造語「サイトイーティング(Sighteating)」を掲げる。

20年1月にオープンしたグローバル旗艦店1号店「くら寿司 浅草ROX」
20年1月にオープンしたグローバル旗艦店1号店「くら寿司 浅草ROX」

 コロナ禍で東京オリンピック・パラリンピックが延期になり、インバウンド需要もまだ回復しない現状だが、浅草ROX店は地元住民を中心に集客力は高い。2号店となるくら寿司 道頓堀は、インバウンド需要の回復が不透明なままのオープンとなったが、「道頓堀も浅草同様、日本を代表する観光スポット。関西の経済の中心でもあり、経済を元気づける一端を担う存在になれば」と、田中副社長は話した。

既存店舗での海外客接客の経験から、グローバル旗艦店および国内9店舗で世界104種類の言語に対応したリアルタイム音声翻訳機「Langogo Genesis」を導入する
既存店舗での海外客接客の経験から、グローバル旗艦店および国内9店舗で世界104種類の言語に対応したリアルタイム音声翻訳機「Langogo Genesis」を導入する

※本記事の後編「くら寿司、旗艦店に込めた世界戦略 副社長と佐藤可士和氏に聞く」では、田中信副社長にグローバル戦略や衛生対策について、佐藤可士和氏へグローバル旗艦店のブランディングについて聞く。

(写真提供/くら寿司)