スポーツブランド、ニューバランスジャパン(東京・千代田)はスポーツ用品大手のアルペン、一般社団法人・渋谷未来デザイン(東京・渋谷)と、働く人々をサポートする産官連携の「ワークティブプロジェクト」を発足。アルペンとの共同開発ライン「THE CITY(ザ シティ)コレクション」を軸に、セミナーやイベントを通じて、運動習慣や働き方を提案していく。
今回発足した「ワークティブプロジェクト」の土台となったのは、ニューバランスジャパンが2020年2月に発売した「THE CITY(ザ シティ)コレクション」(以下、ザ シティ)だ。
ザ シティは「働く大人のデイリーウエア」として、アルペンと共同開発。5つのシルエットのパンツを中心に、ジャケット、ワッペンポロシャツ、ワッペンTシャツ、スプリングコートというラインアップを、全国のスポーツデポ・アルペン、アルペンの公式オンラインストアにて限定販売した。ニューバランスのシューズ同様、多様な「体形」「シーン」「時代」にフィットすることをテーマに、トータルコーディネートできるようにしたという。独自開発した「サークルストレッチウーブン」素材をパンツとジャケットに採用。自転車通勤やゴルフのときなど、オフィスワーク時だけでなくアクティブなシーンでも活用できるデザインが特徴だ。21年2月にはボーダーTシャツやショーツ、バッグを加え、ラインアップを拡充している。
ワークティブは働き方の提案の1つ
21年はこのコレクションとともに、「work=働く」と「active=活発的」を組み合わせた造語である「Worktive(ワークティブ)」を掲げた本プロジェクトを立ち上げ、新たな働き方の提案まで踏み込むつもりだ。「『働く』を、もっとアクティブに。」と銘打ち、「日々の働く時間にも運動習慣を取り入れることで、仕事のパフォーマンス向上につながる働き方」をセミナーやイベントなどを通じて提案する。これには新型コロナウイルス感染症の拡大が大きく関わっている。
「ワークティブの企画は、1回目の緊急事態宣言が発令された20年4~5月から起案し始めた」と、ニューバランスジャパン営業本部営業企画部の前川貴宏氏。働く環境、生活スタイルが変化し、在宅勤務、リモートワークが推奨され、働き方の主流になる過程で、「スポーツブランドとして働き方のパフォーマンス向上につながる提案が社会にできないかと、アルペンと共にザ シティを1つの手段として考え始めたのが発端」(前川氏)だ。
ニューバランスジャパンでも20年3月から在宅勤務を取り入れ、現在も社員のほとんどが在宅勤務をしている状況。前川氏自身、「子どもの送り迎え、家族との時間が増えた」というメリットを感じているが、一方で、平均歩数が著しく減るなど、運動量が圧倒的に減少傾向にある人が増えたのではないかと懸念する。またオフィスにいれば自席から会議室への移動中、あるいは隙間時間に仲間と情報共有するといったリフレッシュが可能だが、リモートワークではそれができない。
こうした中、ザ シティを商品として販売するだけでなく、働く環境を支えるものにすることを目的に、消費者調査を実施。首都圏を中心に全国の20~40代の有職男性(普段スーツやジャケットを着用する通勤者30人、在宅勤務者30人)を対象として、ザ シティ着用のうえ勤務前と後に軽度な運動を取り入れることでの変化を調べた。すると、どちらも仕事のパフォーマンス、睡眠の質、メンタル状態が向上したという。
この結果に加え、渋谷未来デザインをはじめとした複数企業との意見交換を経て、「(ワークティブプロジェクトの)現スキームが固まっていった」(前川氏)。
ムーブメントにするための産官連携
一方、アルペンスポーツマーケティング部プランニンググループの斉藤胤人マネジャーは、ワークティブプロジェクトの意義について、「ライフスタイルが多様化し、スポーツの捉え方も変化して、自宅でのスポーツが日常の一部に溶け込んでいるように感じている。コロナ禍で外出や活動が制限される中、日常生活の中で体を動かす必要性を多くの方が感じているのでは」と指摘。同社のスローガン「スポーツをもっと身近に」とワークティブという働き方が一致することから、プロジェクトに参画したと話す。「21年2月のザ シティ発売後、多くのお客様から反響を得ており、ワークティブの広がりを感じる」と言い、今後さらに拡販していく考えを示した。
前川氏によると、ニューバランスジャパンが「渋谷」に着目したのは、先進企業が多く集まる情報の発信拠点であり、様々な人々が集うカルチャーの発信拠点でもある点だという。「ワークティブをムーブメントとして広げていくうえで、個人や一企業としてではなく、フレキシブルかつチャレンジングな地域行政との連携が必須。それができるのが渋谷だと考えた」(前川氏)と話す。
一方、渋谷の未来像などをデザインするために発足した産学官民連携組織である渋谷未来デザインとしても、「コロナ禍での働き方」は主要なテーマ。渋谷未来デザインの長田新子理事は「スタートアップやベンチャー企業含めて、日々ビジネスにチャレンジする方々にパフォーマンスを発揮していただける環境の整備を継続的に推進したい。自分らしく働いてほしいという思いから、このプロジェクトに参画した」と説明した。
「今後は渋谷エリアを拠点としてモニター企業や団体を募集したり、渋谷未来デザインが主催するフェスイベント『Social Innovation Week』などの場でより深く検証したりといったことを考えている。これらを基に、実践につながるワークティブという働き方の提案強化を図る予定だ」(前川氏)
働き方と合わせたアパレル提案で拡販
21年3月29日に行われた発表会で、前川氏は「仕事のシーンで使える、快適で動きやすいプロダクトの提案を行い、働く人々の健康推進に寄与していきたい」と話した。背景にはやはり、コロナ禍で在宅・リモートワークが増えたことにより、コロナ禍以前よりアパレル市場が縮小していることがあるだろう。
矢野経済研究所が行った国内アパレル市場に関する調査(20年)によれば、19年の国内アパレル総小売市場規模は前年比99.3%の9兆1732億円と、コロナ禍の影響が少ない段階ですでにマイナス推移していた。それがコロナ禍で外出控えや消費の冷え込みが起き、さらにインバウンドの低迷によって、大幅な市場規模の縮小も予測されている。
その中で、働き方そのものと合わせてアパレルを提案することは、ザ シティというコレクションそのものの価値を高め、拡販にもつなげられる。
ザ シティは当初、30~40代の男性にフォーカスしていたが、ワークティブを広めるとともに、20代など若い世代へもアプローチしていくという。