「綾波レイがはじめて口紅を引く」──『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の公開に合わせて放ったコラボ商品が話題になった花王の「KATE」。人気女優などを広告に起用したマスプロモーションを展開する一方、コスプレーヤーとのコラボなどコアファンを狙う企画にも積極的だ。テレビCMなど既存のプロモーションだけでは若い世代に届かなくなる中、“スモールマス”へのアプローチとデジタル施策でブランド認知の拡大を進める。

花王のメークアップブランド「KATE」が手掛けたエヴァンゲリオンとのコラボ商品「ケイト レッドヌードルージュ(EV)」は発売3日でほぼ完売
花王のメークアップブランド「KATE」が手掛けたエヴァンゲリオンとのコラボ商品「ケイト レッドヌードルージュ(EV)」は発売3日でほぼ完売

 カネボウ化粧品のメークブランドとして生まれ、2018年以降は花王化粧品事業がグローバルで展開を強化する「KATE(ケイト)」。20年11月には、エヴァンゲリオンとのコラボ商品「ケイト レッドヌードルージュ(EV)」の予約販売をWeb限定、数量限定で開始した。同社がグローバルで行った事前調査では10代~20代の女性の60%がエヴァンゲリオンを認知、20%がファンだと答えたことも企画を後押ししたという。その調査結果通り若者を中心に話題を呼び、同商品は発売から3日間でほぼ完売。コロナ禍の影響で消費が伸び悩む化粧品業界、特にマスクで隠れる口紅商品としては異例のヒットを遂げた。

 「KATEが他社とコラボしたのは初めてだが、同商品のために作ったオリジナル動画を含め、エヴァの作品世界と商品のコンセプトが合致したことが成功の理由だと思う」と、花王で化粧品事業部門 マステージビジネスグループ KATEグループ ブランドマネージャーを務める岩田有弘氏は手応えを語る。

 同商品に限らず、KATEでは近年、あえてターゲットを絞ったプロモーション施策を積極的に展開している。「中条あやみさんなどの人気女優・モデルを起用したマスプロモーションと並び、“スモールマス”は重要な戦略」と岩田氏。その背景には、セルフメーク化粧品市場の過熱とターゲットである若年層のメディア接触の変化があった。

マスプロモーションでは人気女優・モデルを起用。現在は中条あやみ
マスプロモーションでは人気女優・モデルを起用。現在は中条あやみ

従来のプロモでは若者攻略に限界

 KATEが誕生した1997年は、女優などのトレンドセッターをまねるメークから、「ギャル」「OLエレガント」「裏原宿系」などそれぞれのスタイルに合わせて楽しむメークへと変化した時代。その中で、KATEは「誰かのルールに縛られることなくもっと自由に自分の個性を表現してほしい」という願いを込め、「no more rules.」をブランドスローガンに、クールでシャープな世界観を押し出した。

 メインターゲットとなるのは10代後半~20代前半。百貨店で美容部員などを通じて売るカウンセリング販売とは異なり、ユーザーが足を運びやすいドラッグストアなどに商品を陳列し、自分で選んで購入してもらうセルフ販売の形をとっている。手軽で安価、ターゲットが若年層であることもあり、花王グループの中でも、メーク商品の新規顧客を獲得する入り口との位置づけだ。

 2014年からはブランドロゴを「KATE TOKYO」に改め、グローバル市場開拓にも注力。台湾、タイ、マレーシア、シンガポール、韓国、中国などアジアを中心とした10の国と地域で商品を展開する。並行して商品ラインアップも拡充。ブランド立ち上げ当初はアイシャドーやアイブロウといった眉目用商品のみだったが、ベースメークやマスカラ、口紅とカテゴリーを増やし、セルフメークブランドの売り上げシェアで19年連続1位を維持するまでに成長した(インテージ調べ)。

 若い世代にとっては、手ごろな価格でトレンドのメークを楽しめる化粧品ブランドとして定着しているKATEだが、時代が進むにつれていくつかの課題も出てきた。

 その一つが“プチプラ”化粧品市場の過熱だ。岩田氏によると「KATEを立ち上げた頃は、セルフメークをうたう競合が少なかったため、この20年ほど順調に事業が伸びてきた。だが、近年は競合となるセルフ販売の商品や、より手軽で安い“プチプラ”のブランドが増えている」。

 加えて、従来のプロモーション戦略の限界も見えてきた。ターゲットである10代後半から20代前半は、今やテレビCMなどのマス広告が刺さりにくい世代。従来と同じことをやっているだけでは顧客に情報が届かない。

 「もはや商品をただ出すだけでは売れない。ロングセラーを生むのも難しくなっている。もう一つ上の進化をしなければ、継続的な成長は厳しいと感じていた」(岩田氏)

ニッチファンの多いスモールマスにアピール

 そこで、KATEが選んだのが、ブランドの価値やストーリーを理解し、支持してくれるコアファンを作ること。そのためのスモールマスに向けたプロモーション戦略だった。

 花王の言うスモールマスとは、大多数(マス)ではないものの、ニッチかつこだわりを持つファンがおり、一定規模の市場が見込まれる市場のこと。KATEはそのスモールマスの中でも、特にこだわりが強く、影響力の高い“マニア”と呼ぶべきユーザー向けの情報発信を重視している。「メークやファッション、美の“マニア”が“プロ”の視点で商品の魅力を語ってくれることで、同じスモールマスにいるユーザーが共感し、購買率が上がる。さらにその情報が一般ユーザーにも広がり、購買層が広がっていくのが狙い」(岩田氏)。

 KATEはこの戦略に18年から着手し、同年12月には第1弾となるコスプレーヤーとのコラボを実施した。人気コスプレーヤー5人に、KATEの化粧品を使ったオリジナルキャラクターのコスプレをしてもらい、その写真とメークの解説を掲載した「コスプレメイクブック」を作成。「コミックマーケット95」(コミケ)会場で無料配布したところ、すぐに配布が終了したという。この好評を受け、19年10月には「池袋ハロウィンコスプレフェス2019」でもKATEの化粧品を使ったハロウィーンコスプレを公開。メイクブックを配布した。

2019年10月の「池袋ハロウィンコスプレフェス2019」ではハロウィーンコスプレの「メイクブック」を配布
2019年10月の「池袋ハロウィンコスプレフェス2019」ではハロウィーンコスプレの「メイクブック」を配布

 マニア向けに商品の情報を発信する際は、その訴求方法も工夫している。「例えば『パーツスマッシュ』というカバー力が高いコンシーラーの場合、一般ユーザーには『クマやシミなど、肌のアラをつぶせますよ』と言って訴求するが、コスプレーヤーには『眉をつぶせます』と訴える」(岩田氏)

 同じ商品でも訴求の仕方を変えることでマニアであるコスプレーヤーに深く刺さり、商品の特徴をSNSなどで発信してくれる。そのコスプレーヤーがコスプレ時だけでなく、日常的なメークにも使えることを発信すれば、一般ユーザーにも商品の高い機能や魅力が伝わるはずだ。「商品を開発する段階から、機能性について拡散しそうなストーリーを想定している」と岩田氏は話す。

コロナ機にデジタルによる顧客接点を拡大

 こうしたプロモーション戦略と併せて、今注力しているのがデジタル施策だ。前述のように、若者世代にはテレビCMが刺さらない。加えて、20年からは新型コロナウイルス感染症拡大で外出を控える人が増え、店舗での顧客接点が減少してしまった。また、感染防止策としてテスターを撤去した店舗もある。メーク商品に重要な色味や質感を試して選べないのは大きな痛手。これを補うためにも、デジタルでの接点の創出、さらにはECへの誘導が急務となった。「デジタル化は以前から検討していたとはいえ、一気に加速した感がある」と岩田氏は明かす。

 その大きな一歩となったのが、21年2月にLINE公式アカウント内に開設した「KATE MAKEUP LAB.」だ。公式アカウントからアクセスできる「KATE SCAN」という機能では、スマホのカメラに顔をスキャンさせると、AI(人工知能)が顔の特徴点から骨格やパーツの比率を分析。8つの顔タイプ別にお薦めのメークメソッドなどを提案してくれる。他にも、商品を選んで自分の顔をスキャンするとお薦めの色番やメークのポイントを確認できる「KATE SEARCH」、自分の使いたい口紅から肌をきれいに見せる下地やファンデーションを提案する「PERSONAL MAKEUP」機能なども備えた。

「KATE SCAN」では顔の特徴を分析してお薦めのメークメソッドなどを提案
「KATE SCAN」では顔の特徴を分析してお薦めのメークメソッドなどを提案

 KATE MAKEUP LAB.は、個人に合った商品を選んだりメークを楽しんだりするのをサポートするだけが目的ではない。実はKATEファンを集約するプラットフォームを作るというもくろみもある。というのも、KATEのフォロワーはこれまでLINEに約40万人、Twitterに7.6万人、Instagramに14.7万人、Facebookに約2.1万人など、複数のSNSに散らばっていた。合計で約195万人のユーザーを抱えながらも、「うまく生かせていないという課題を抱えていた」(岩田氏)。それぞれのSNSユーザーをLINEに統合し、そこからAmazonや「@cosme SHOPPING」といった同社商品を販売するECサイトに誘導する考えだ。

 ECの魅力を上げるため、近年はWeb限定商品も拡充している。前述のエヴァンゲリオンとのコラボ商品のほか、日本の昔話を題材に和モダンな色味のメークアイテムをそろえた「東京ヲトギバナシ」などがある。「東京ヲトギバナシはWeb限定とし、リアルでは各地の中心店舗など一部にしか置かなかった。それが特別感につながり、ECでは通常の5倍もの売り上げにつながった。今後もコンセプトを明確にしたKATEらしい商品はWebで展開し、ECへ誘導したい」(岩田氏)。

2020年12月に数量限定で発売した「東京ヲトギバナシ」は「狐の嫁入り」「鶴の恩返し」「竹取物語」という日本の昔話を題材にしたメークアイテム。写真は「ケイト レッドヌードルージュ(T)」3種
2020年12月に数量限定で発売した「東京ヲトギバナシ」は「狐の嫁入り」「鶴の恩返し」「竹取物語」という日本の昔話を題材にしたメークアイテム。写真は「ケイト レッドヌードルージュ(T)」3種

 さらに、コロナ禍では化粧品だけにとどまらない商品も展開していく。それが20年12月に発売した「小顔シルエットマスク」だ。「コロナでマスクが常態化した。議論をするうちに、マスクもメークの一つにしたいという話になり、単にマスクを売るのではなく、メークのようにマスクを選んでもらえるようにしたいと考えた。それに合わせたアイシャドーやヘアライナーも提案。マスクをすると飾る部位が減るため、その中でも飾る楽しみを継続的に提供できるようにした」(岩田氏)。好評を受け、21年4月24日には第2弾も発売する。

「小顔シルエットマスク」
「小顔シルエットマスク」

 メークの枠を超え、装う楽しみをトータルで提案するブランドへの成長を目指しているKATE。「なりたい自分は自分で作る。既成概念にとらわれない自己表現をかなえていくのが『no more rules.』というブランドコンセプトに込めた思い。KATEオリジナルの企画で新しい価値を提案し、21年以降は他社がまねできないブランドになっていきたい」と岩田氏は意気込みを語った。

花王化粧品事業部門 マステージビジネスグループ KATEグループ ブランドマネージャーの岩田有弘氏
花王化粧品事業部門 マステージビジネスグループ KATEグループ ブランドマネージャーの岩田有弘氏

(写真提供/花王)

13
この記事をいいね!する