アサヒビールは会員制の家庭用生ビールサービス「ドラフターズ」を2021年5月25日に開始する。家庭用に独自開発したサーバーを貸し出し、2リットルの「スーパードライ」のミニ樽(たる)を毎月2回定期配送する。飲食店で提供していた氷点下に冷やして飲む「エクストラコールド」が自宅で飲める。初年度は3万人限定で応募を受け付ける。キリンビールの先行サービス「ホームタップ」から遅れること4年、“会員と共創する戦略”でキリンを追撃する。
“会員と作り上げるサービス”で差別化
「ドラフターズ」は、月額7980円(税込み)で毎月2回、2リットル入り「アサヒスーパードライ」ミニ樽を自宅に定期配送する。初回に貸し出される「本格泡リッチサーバー」に樽をセットすれば、自宅でも飲食店で提供されるようなきめ細かい泡の生ビールが楽しめる。ミニ樽は1本あたり1980円(税込み、送料別)で追加注文もできる。
本格泡リッチサーバーは業務用サーバーの開発で培った技術を生かし、クリーミーな泡が抽出できるように開発した。4~6度の通常の温度帯に加え、氷点下2度から0度の「エクストラコールド・モード」も設定可能。限られた飲食店でしか飲めない「スーパードライエクストラコールド」が自宅でも飲める。
コロナ禍で外食機会が制限され、在宅時間が長くなったことで「家族ともっとだんらんを楽しみたい」「家でも本格的な生ビールを飲みたい」といった家庭内での楽しみを求める声が増加した。
ECや宅配に対する需要の高まりも顕著だ。同社によると、20年4月に発令された緊急事態宣言以前は個人消費に占めるオンライン購入比率が約17%だったのに対し、同宣言期間中は約23%に増加、宣言が解除された後も約20%で推移している(マクロミル調べ)。家飲みの頻度が増えているが、一方で、キャンプを中心にアウトドア市場も活性化し、場所やシーンを問わずいつでも自由にお酒を楽しみたいと考える人も多くなっていることが分かった。
そこで、「ビールに、自由と冒険を。」をスローガンにドラフターズのサービスを導入することにした。ドラフターズとは、「うまい生ビール(ドラフトビール)で人生をもっと楽しむ、いい大人たち」を表現した造語で、同サービスの会員を指す言葉でもある。
初年度はサーバー数に限度があることから会員を3万人までとし、それ以上の応募があった場合は抽選とする。会員のドラフターズは単なるお客ではなく、アサヒビールとともにサービスを充実させていくメンバーと位置付ける。というのも、このサービスの基本方針は「会員との『共創』」。主にSNSを通じてラインアップの拡充や商品パッケージ、サーバーのバージョンアップなどのアイデアを会員から募り、それを形にしていくという戦略だ。
家庭用の生ビールサーバーは先行するキリンビールの「ホームタップ」が17年にサービスを開始し、21年は会員数10万人を目標に本格展開を始めている(関連記事「キリン『会員制ビール』本格展開 家で飲める生ビールを10万人に」)。後発となるドラフターズで差別化を図る戦略として、アサヒビール専務取締役マーケティング本部長の松山一雄氏は、「新しい価値を生まないと選択肢に上がってこない。会員と一緒につくっていく進化系のサービスにすることを一番の売りにする」と語った。
ホームタップと一線を画す戦略は名称にも表れている。家庭を表す言葉を用いず、ビールを楽しむ人そのものをサービス名に冠し、同社が目指す「お客さま主役の“統合型マーケティング”」を具現化している。実際に“イエナカ需要”以外での楽しみ方を提案するため、希望者にはサーバーとミニ樽3本、グラスが収納できる専用のキャリーケースも販売予定で、キャンプ場やアウトドアへの持ち出しも可能にする。
4月には新しい缶容器「生ジョッキ缶」も発売しているが、「生ジョッキ缶はすべての生ビール好きがターゲット。間口が広く、ツイッターでも盛り上がっており、ビール初心者を含めた新しいユーザーを取り込めるのではないか。ドラフターズは注ぐという行為に価値を感じる人がメインターゲット」と松山氏。
「初年度はなるべくシンプルに」(松山氏)の言葉通り、液種はスーパードライ1本に絞る。ラインアップの拡充は会員のフィードバックを参考に検討する。エクストラコールドのおいしさを自身のサーバーで体験したユーザーが、今度は取扱店を指名して訪れるといった送客効果が表れれば、コロナ禍で苦境にあえぐ飲食店にとっての救済にもなるだろう。
(画像提供/アサヒビール、写真撮影/北川 聖恵)