香水専門店「NOSE SHOP(ノーズショップ)」は、2021年4月1日から5月5日までの期間限定で、香りを言語化するAI(人工知能)システム「KAORIUM(カオリウム)」を新宿店と銀座店に導入した。自分のイメージする香りに近い香水を選んでもらう際に役立てるのが狙いだ。
香水文化を破壊する嗅覚のデジタライゼーション
BIOTOPE INC.(ビオトープ インク、東京・港)が運営するノーズショップは、ニュウマン新宿(東京・新宿)や東急プラザ銀座(東京・中央)、グランフロント大阪(大阪市北区)など国内6店舗で12カ国40ブランド、約600点の香水を扱う香水専門店。カオリウムは、「嗅覚のデジタライゼーション」に取り組んでいるSCENTMATIC(セントマティック、東京・渋谷)が開発したAIシステムだ。
ノーズショップ店内に設置されたカオリウムでは、同店の顧客から得た5000件を超える「香りを表現する言葉」をAIが解析、ノーズショップが扱っている香水のうち代表的なもの20種類の特徴を「かわいい」「あまい」といった一般人がイメージしやすい言葉で表現した。
ポップアップでは、来店客がいくつかの香水を嗅いでみて、気に入った香水からイメージする言葉を選んでいくと、それらの香水に共通する言葉を選び出してくれる。つまり、自分好みの香りが言語化されるわけだ。
調香師の間では香りを表現する言葉としてオリエンタル、グルマン、パウダリーといった専門用語が使われているが、一般人が自分の言葉で香りを表現するのは難しい。「そのため香水を選ぶ際は、自分で嗅いでみて気に入るものを探すしかなかった。そうしていくつもの香水を嗅いでいくうちに『分からなくなった』と購入を断念してしまうお客さまも少なくない」とビオトープ インクの中森友喜社長は言う。
ノーズショップが扱う香水は、100ミリリットルで数千円から数万円。「これだ!」という確信を持てないまま購入する気にはなれない価格だろう。
「お客さまが自分の好みの香りを言葉で伝えられない香水は、非常にマーケティングの難しい商品。カオリウムの存在を知って、イメージに近い香水を選んでもらうのに役立つのではないかと思った」と中森社長。
実際、数百もある香水をすべて試してから買うのは現実的ではない。香水には調香師のメッセージも添えられているが、例えばイタリアの香水ブランド、メンデットローザの「オサング|聖ジェンナーロ」(100ミリリットル、税込み5万5000円)に添えられたメッセージ(抄訳)は以下のようなものだ。「火山の噴火、地震や疫病などあらゆる災厄からナポリを守る聖人。血液の奇跡、何百年も保存されてきた聖人の乾いた血が、年に3度、大聖堂で液化して街を鎮め、愛で包む。これは肌の上の消えない祈り。」。イタリア・ナポリの守護聖人をイメージした香水なのだが、この文章を読んで香りを想像できる人はいないだろう。
好みの香りを言葉で伝えられない、香水選びに迷っているという人の背中を押してくれるのがカオリウムというわけだ。
一方、セントマティックの栗栖俊治社長は「カオリウムはさまざまなビジネスへの展開が期待できる。利用されればされるほどAIの精度も高くなっていく」と話す。実際セントマティックは、2020年12月に日本酒の風味を言語化する日本酒ソムリエAI「KAORIUM for Sake(カオリウム フォー サケ)」を発表。こちらはBAY-ya横浜高島屋店(横浜市)と日本酒バル AKA-KUMA(アカクマ、東京・新宿)で導入済みだ。
ちなみにセントマティックでは、米サンフランシスコ発のチョコレートブランド、ダンデライオン・チョコレートと組んだ「KAORIUM for Chocolate(カオリウム フォー チョコレート)」、教育開発や人材開発などを手掛けるリバネス(東京・新宿)と組んだ「KAORIUM for School(カオリウム フォー スクール)」などの開発も進めている。
中森社長によれば「本来の香水は、調香師が作り出した香りに加え、香水の名前やボトルのデザイン、香りをイメージさせるメッセージまで含めて楽しむ芸術品。調香師のファンやメッセージに共感した人が買っていく」とのこと。「好みの香りをAIがデータに基づいて機械的に選び出すカオリウムは、そうした香水文化を壊してしまうものかもしれないが、ノーズショップでも、ミニサイズ(1.5~2ミリリットル)の香水がランダムで出てくる『香水ガチャ』のような香水文化に反することをやっている。業界の異端児にぴったりなポップアップだと思う」(中森社長)と、カオリウムの本格導入に前向きな姿勢を示した。
(写真提供/BIOTOPE INC、SCENTMATIC)