昭和40~50年代当時のデザインを復刻したプリントグラス「アデリアレトロ」シリーズは、発売から2年余りで26万個以上を販売したヒット商品だ。意外にも、その人気を支えているのは20代から30代前半の女性だという。令和も3年目を迎えたが、昭和レトロブームはまだ終わっていないようだ。
創業200年の老舗だからできた昭和柄の復刻
アデリアレトロシリーズを販売しているのは1819年創業の石塚硝子。同社のアデリアシリーズは1961年から続く食器ブランドだ。アデリアレトロは石塚硝子がアデリアシリーズの1つとして65年から85年にかけて販売していたプリントグラスを復刻したもので、発売から2年余りで販売数26万個を達成している。10万個売れればヒット商品といわれるこの価格帯のプリントグラスとしては異例の売れ行きだ。
アデリアレトロが大ヒットした背景には「いまだに続く昭和レトロブームがある」と、石塚硝子 市販部 販促マーケティンググループの後藤鉄平氏は言う。2019年初頭に起こった昭和レトロブームは、現在も若い世代にとってキーワードの1つとなっているようで、インスタグラムで「#昭和レトロ」をハッシュタグ検索すると100万件以上がヒットする。また「#クリームソーダ」「#純喫茶」「#銭湯」といった昭和を象徴するアイテムの注目度も高い。
石塚硝子が昭和当時のデザインを復刻した背景には、すでに廃版になっているアデリアのプリントグラスの写真をインスタグラムで共有し、盛り上がっているコアなファンの存在があった。それを知った坪井美幸氏ら女性開発担当者3人が企画・商品化したのがアデリアレトロというわけだ。
商品化に当たって3人は、アンティークショップなどに足を運んで店主に話を聞いた。「アデリアというブランドはアンティークの世界ではよく知られていて、高値で取引されているという話を初めて聞いた」と坪井氏は明かす。昭和のデザインを復刻したところで本当に売れるのか半信半疑だった坪井氏だが、店主たちの反応から確信を得た。「アデリアを作っている会社の人間に会えたと、うれしさで目を潤ませる人もいた」(坪井氏)
デジタルネーティブには“目新しい”
また石塚硝子が20~39歳の女性300人を対象に実施した調査では、「レトロ感のある新品を使ってみたい」という回答が95%に上った。新品が好まれるのは「(高価な)ヴィンテージ食器を壊してしまうのが怖い」「人が使っていた食器に抵抗がある」といった理由からだ。逆に、ヴィンテージ食器の代わりに同じデザインの新品を低価格で提供すればヒット商品になり得ると3人は考えた。
後藤氏と同じ販促マーケティンググループの川島健太郎氏は「今、20代から30代前半にかけての女性たちの間で流行している昭和レトロの本質には『知らない昭和に懐かしさを感じる』ところがある。デジタルネーティブと呼ばれる世代の女性たちにとって、CDに比べると音質で劣るレコードやカセットテープ、現像しないと写真を見られないフィルムカメラなどが、逆に目新しさ、温かみを感じる対象になっている」と分析する。
アデリアレトロの販売が始まったのは18年11月30日。翌19年4月末に平成が終焉(しゅうえん)を迎え、昭和を懐かしむムードが高まったことが、昭和当時のプリントグラスの復刻版であるアデリアレトロが注目されたきっかけだ。
アデリアレトロのプリント柄は当初、ギザギザの花びらをあしらった「アリス」のみだったが、19年10月からは「野ばな」「風船」「ズーメイト」などが順次追加され、現在は10種類に。また生活雑貨チェーン「ヴィレッジヴァンガード」のみだった販路も「LOFT(ロフト)」や「one'sterrace(ワンズテラス)」「niko and ...(ニコアンド)」などへと広がっている。
昭和レトロブームに乗って異例のヒットとなったアデリアレトロだが、そのプリント柄は、発売前から石塚硝子の女性社員の間で「かわいい」「新鮮」と想定以上の好評価だったとのこと。仮にレトロブームがなくても一定の実績を挙げたことだろう。
(写真提供/石塚硝子)