ホンダが展開する最新の安全運転支援機能「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」。今後、搭載を進めるうえでの課題とは何か。運転の主体がドライバーからシステムへと移行する「自動運転レベル3」の機能について解説する。

ホンダが2021年3月5日に発売した「レジェンド」には、自動運転レベル3に該当する運転支援機能、「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」が搭載されている(写真/大音安弘)
ホンダが2021年3月5日に発売した「レジェンド」には、自動運転レベル3に該当する運転支援機能、「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」が搭載されている(写真/大音安弘)

 ホンダが自動運転レベル3に該当する、運転支援機能「ホンダ センシング エリート」を搭載したフラッグシップセダン「レジェンド」を2021年3月5日に台数限定で発売した。ホンダ センシング エリートは、14年10月に同社が発表した安全運転支援システム「Honda SENSING(ホンダ センシング)」に、高速道路走行時の運転負荷を軽減する新機能を追加したものだ。

 新機能の1つである「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」は、自動運転レベル3に該当。この自動運転レベル3の機能が市販車に搭載されるのは、レジェンドが世界初となる。

レベル3以上で運転主体がシステムに

 まず「自動運転」の定義とは何か。日本政府は自動運転を5段階に分類、定義している。

国土交通省「自動運転化レベルの定義の概要」を基に筆者が編集
国土交通省「自動運転化レベルの定義の概要」を基に筆者が編集

 現在、市販化されている⾃動運転⾞に搭載されている⾃動運転機能は、アクセル、ブレーキ、ステアリングのいずれかを制御することで運転を支援する「レベル1」、そしてアクセル、ブレーキ、ステアリングの制御を複合的に組み合わせることで運転を支援するのが「レベル2」となる。どの機能が作動しているときでも、あくまで運転支援。そのため、ドライバーには常にシステムによる運転の監視義務がある。

 例えば、⽇産の運転⽀援技術「プロパイロット2.0」は、⾼速道路や自動車専用道路で一定条件をクリアすれば、同⼀⾞線でのハンズオフ機能を備えるので、条件がそろえばハンズオフ(⼿放し)運転が可能となる。ただし、この機能が作動しているときも、ドライバーは前⽅を注視しなければならない。もちろん、システムの要求に応じて、ドライバーは運転操作をする必要がある。そのため、赤外線センサーでドライバーの視線を監視するシステムを搭載しており、運転交代に応じられない場合も想定し、緊急停車機能も備えている。つまり、運転の責任は常にドライバーにあるのだ。

 これがレベル3以上になると、作動中の運転の主体はシステムになる。

 ホンダ センシング エリートの機能の1つ、トラフィックジャムパイロットは、⾼速道路や自動車専用道路での渋滞時運転を想定した機能で、特定の⾛⾏環境条件を満たす限定された領域において、システム主体の運転が可能となる。つまり、トラフィックジャムパイロットの作動中は、システムが周辺の交通状況を監視するので、ドライバーは「前方の監視」の必要がなくなり、その間は運転操作から解放される。そうなると、これまで行えなかったナビの操作やテレビ、DVDの動画視聴なども可能になる。

 ただし、システムが求めた場合、ドライバーは運転操作を行わなくてはならない。よって、ドライバーが睡眠するなど即座に運転が交代できない状況では利用できない。

システムが求めた場合、ドライバーは運転操作を行わなくてはならない
システムが求めた場合、ドライバーは運転操作を行わなくてはならない

 ホンダは今回の自動運転の実現のために、高速道路や自動車専用道路の3次元高精度地図や全球測位衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)などのデータを用いて、自車位置や周辺の道路、交通状況を、極めて高い精度で把握できるようにした。

 走行中は車載センサーを使って自車の周囲360度の状況を検知し、ドライバー自身も車内のカメラでモニタリングされる。これらの情報を基に、アクセル、ブレーキ、ステアリングを高度に制御して運転を支援し、さらに条件が満たされた場合に、渋滞時の自動運転レベル3機能が活用可能となるのだ。

高精度なセンサーも制御系も多重装備

ホンダ「レジェンド」走行時のイメージ
ホンダ「レジェンド」走行時のイメージ

 システム主体の運転を実現するためには、先述のように精度の高い地図およびカメラ、高度な予測制御など、技術に支えられた信頼性の高いシステムの構築が重要だ。

 ⾞両周囲360度のセンシングを⾏うため、歩⾏者や⾞線・標識などの画像による形状認識のための「フロントカメラセンサー」を2つ、レーザー光による物体の検知・測距に適した「ライダーセンサー」を5つ、ミリ波電波による物体の検知と測距に適した「レーダーセンサー」を5つ備える。センサーだけで3タイプを装備しているのだ。⾞両を制御するブレーキやステアリングも2重で内蔵するなど、いずれかのデバイスに何らかの故障が⽣じた場合の安全・信頼性にも⼗分配慮したシステムに仕上げているという。

 さらに自ら事故を引き起こさないシステムを目指し、約1000万通りのシミュレーションと実験車による全国約130万キロメートルの実証実験を行うなど、検証も徹底した。

 ホンダ センシング エリートを搭載したレジェンドの価格は1100万円(税込み)で、非搭載モデルより375万1000円高い。価格差の理由はもちろんホンダ センシングエリートにあり、その⽬⽟機能が⾼速道路および⾃動⾞専⽤道路での渋滞時に利用できる、自動運転レベル3の機能となるトラフィックジャムパイロットというわけだ。

ホンダ センシング エリートの中でも「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」の実現に大きく貢献する多数のセンサー
ホンダ センシング エリートの中でも「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」の実現に大きく貢献する多数のセンサー

 ホンダ センシング エリートで注目すべきは、トラフィックジャムパイロットだけではない。それがハンズオフ機能付きの運転支援機能だ。⾼速道路および⾃動⾞専⽤道路での同一車線内走行支援に加え、ハンズオフ走行による⾞線変更も支援してくれる。つまり条件を満たせば、⾼速道路の⾛⾏時の多くのシーンでハンズオフが可能となる。そうなると長距離移動のドライバーの疲労軽減に加え、ストレスと疲れが溜まりがちな渋滞時運転中に起こりやすい追突事故などの防⽌にも役⽴つだろう。

世界に技術力をアピールする意味も大きい

 ホンダ センシング エリート搭載⾞を今のタイミングで出す意味は何か。搭載されたレジェンドは税込み1100万円と⾼価格で、なおかつ限定100台でリースのみ。開発費用や高価なセンサーの搭載、販売体制づくりを考慮すれば、恐らく売っても儲からないだろう。そうなると、⾃動運転レベル3の機能を搭載するクルマの存在意義を世の中に問う意味が⼤きいと考えられる。

 世界的にもレベル3のクルマは開発が進んでいるが、自動運転車に対する考えは各社異なるのが現状だ。ホンダのように一歩ずつステップを踏んで、自動運転を進化させていくメーカーもあれば、特定条件下ならばシステムがすべての運転を担う、高度自動運転のレベル4の実現を優先して目指すメーカーもある。性能面ではレベル4のほうが上だが、ヒューマンエラーによる交通事故の削減という意味では、実現可能な範囲でより安全なクルマを積極的に展開していくことも大切だ。ホンダが今、レベル3を市場に投入する狙いもそこにある。

 市販により、ユーザーから得られるフィードバックも大きな価値がある。購入者層は限定されそうだが、「夢の自動運転車」に一歩近づいたという事実は、より広い層の関心が得られるだろう。

 ホンダの技術力を世界にアピールする意味でも、世界初の称号は大きい。実際のユーザーがその恩恵をどう感じるか次第で、拡大の速度にも影響が出るだろう。

(写真提供/ホンダ)

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