キリンビバレッジの緑茶ブランド「生茶」が、これまで「キリン生茶 デカフェ」で採用していた100%リサイクルペットボトルの使用製品を2021年3月中旬から拡大した。3月23日からは量販、ECチャネル限定でラベルレス製品も導入。21年度CSV経営の柱の一つ、「環境」のフラッグシップブランドとして循環型社会の実現に向けた取り組みを加速させる。

(左から)全国のコンビニで販売する「キリン生茶」「キリン生茶ほうじ煎茶」(各600ミリリットル)は100%リサイクルペットボトルを使用。量販店で販売する「キリン生茶ラベルレス6本パック」「キリン生茶ほうじ煎茶ラベルレス6本パック」、EC限定の「キリン生茶ラベルレス」「キリン生茶ほうじ煎茶ラベルレス」はラベルレス製品となる
(左から)全国のコンビニで販売する「キリン生茶」「キリン生茶ほうじ煎茶」(各600ミリリットル)は100%リサイクルペットボトルを使用。量販店で販売する「キリン生茶ラベルレス6本パック」「キリン生茶ほうじ煎茶ラベルレス6本パック」、EC限定の「キリン生茶ラベルレス」「キリン生茶ほうじ煎茶ラベルレス」はラベルレス製品となる

ボトルtoボトル率、12.5%の現実

 再生ペット樹脂を100%使用したリサイクルペットボトルの使用を拡大するのは、全国のコンビニエンスストアで販売する600ミリリットルの「キリン生茶」「キリン生茶ほうじ煎茶」、量販店で扱う「キリン生茶ラベルレス6本パック」「キリン生茶ほうじ煎茶ラベルレス6本パック」、EC限定の「キリン生茶ラベルレス」「キリン生茶ほうじ煎茶ラベルレス」の6種。

 生茶ブランドでは、2019年6月から「キリン生茶デカフェ」に100%リサイクルペットボトルを採用し、自販機ではラベルの短尺化を図るなど、プラスチック使用量削減に積極的に取り組んできた。今回、対象製品を増やすことで、生茶ブランドを同社のCSV経営(社会課題を解決することで企業利益も享受する経営手段)の柱、「健康」と「環境」のうち「環境」のフラッグシップブランドにする考えだ。20年9月に発売したキリン生茶ほうじ煎茶はおいしさが支持されて発売から50日間で年間販売目標を達成。販売数量も2800万箱に上るなど、コロナ禍で縮小した市場において同ブランドの販売規模を前年並みに維持させた。CSVを基軸としたポストコロナに向けた再成長のドライバーとして期待がかかる。21年度の販売計画は20年比6%増の2980万箱に設定した。

まだ低いボトルtoボトルの比率

 同社によると、19年の国内のペットボトルリサイクル率は85.8%(PETボトルリサイクル推進協議会)と世界でも高水準であるにもかかわらず、大部分は食品トレーや繊維などに再利用され、使用済みペットボトルから新たにペットボトルを再生する「ボトルtoボトル」のリサイクル比率は12.5%とかなり低いことが分かったという。

使用済みペットボトルから新たにペットボトルを再生する「ボトルtoボトル」のリサイクル比率は12.5%とかなり低い
使用済みペットボトルから新たにペットボトルを再生する「ボトルtoボトル」のリサイクル比率は12.5%とかなり低い

 そのためペットボトル製品の製造には新たに多くの石油由来のペット樹脂を使用しなければならず、環境負荷が大きい。「キリングループ環境報告書2020」によると、リサイクルペットボトルを使用すれば石油由来樹脂の使用量は90%削減でき、製造時のCO2(二酸化炭素)排出量も50~60%減らせる。

 一方、同社が1000人を対象に実施したインターネット調査では、消費者の90%がプラスチック問題への取り組みが必要と考え、95%がペットボトルの分別を実施、30%がラベルレス商品を意識的に購入し、80%がリサイクルペットボトル商品に魅力を感じているものの、ボトルtoボトル率の低さの認知率は20%未満だった。21年3月22日の「キリン 生茶 事業戦略&新CM発表会」に登壇した同社執行役員マーケティング部長の山田雄一氏は、「リサイクルの実態と意識に乖離(かいり)がある」と指摘する。

 今回の100%リサイクルペットボトル使用拡大とラベルレス化により、21年のプラスチック樹脂使用量は約1400トン、二酸化炭素は約1300トンの削減が期待できるという。CO2の削減量は国内の1世帯1日当たりの排出量で換算すると、約11.4万世帯分に上る。

三菱ケミカルとリサイクル技術を開発

 こうした取り組みの背景にあるのは、キリングループが19年に策定した「キリングループ プラスチックポリシー」、20年に策定した「キリングループ環境ビジョン2050」だ。前者では27年までに日本国内におけるペット樹脂使用量の50%をリサイクル樹脂にすることを、後者では50年までに容器包装を100%リサイクル材やバイオマスなどを使用した持続可能な素材にすることを目標に掲げている。

 そのため、容器包装の研究開発に取り組むキリンホールディングスのパッケージイノベーション研究所では、3R(リデュース、リユース、リサイクル)の観点から、軽量アルミ缶やワインペットボトル、リターナブルびん、100%再生プラスチック製ペットボトルなど環境に配慮した容器包装の開発に取り組んでいる。会員制生ビールサーバーサービス「ホームタップ」用に、専用のビール用バリアペットボトルを開発するなど、新価値創造にも注力する。

 実際、同研究所の技術開発により、03年から19年までに2リットルペットボトルの重量は63グラムから28.3グラムまで34.7グラムも軽量化した。前述の通り、キリン 生茶 デカフェのボトルを100%リサイクルペットボトルにしたのもその成果だ。

 さらに20年12月には、三菱ケミカルとの共同プロジェクトもスタートした。このプロジェクトでは、ボトルtoボトルにとどまらず、ペット製品toペット製品のリサイクルを実現する技術の検討と事業化を目指す。

 キリンビバレッジによると、現在、同社を含む複数のメーカーが実施しているボトルtoボトルには、「メカニカルリサイクル」という技術が用いられている。しかし、この技術には、3つの難点があるという。

 1つ目は、「リサイクルごとに原料のペット樹脂の品質が低下し続ける」こと。1度劣化したペット樹脂の品質は上げられない。2つ目は、「ペットボトル以外からはペットボトルに戻せない」こと。ボトルtoボトルに必要な使用済みペットボトルの回収競争が各社で激化しているという実情もある。

 3つ目は、「リサイクルの環から外れてしまったロス分を石油で補充している」こと。1つ目に挙げたように、リサイクルするたびにペット樹脂の品質は低下し続けるため、それらは再びペットボトルにはできず、ボトル以外の繊維やフィルム、トレーなど別のプラスチック製品として再生するしかない。その分の原料を補填するには、新たに石油由来のペット樹脂を用いなければならないのだ。

半永久的に再生できる新技術

 一方、同社と三菱ケミカルが取り組む「ケミカルリサイクル」という新技術では、リサイクル過程で化学分解処理(解重合)を行い、ペットの中間原料まで分解、精製したものを再びペットに合成するため、リサイクルを繰り返しても一定の品質を維持し続けられるという。

 これが実現すれば、リサイクル量は拡大する。キリンビバレッジによると、現在、ペット樹脂の生産・輸入量は年間約191万トンで、そのうちペットボトルとして販売されるのは約63万トン。それ以外の約128万トンはその他のペット製品に加工される。ケミカルリサイクルでは、ボトル以外のペット製品からもペットを回収して再資源化できる。つまり、ペット製品toペット製品が可能になるため、リサイクルの幅が一気に広がるのだ。

 現状の課題は解重合技術の確立だ。ただ、ケミカルリサイクルを商業ベースで確立した企業はまだないとのことで、将来的にはペット素材を使う他社への技術提供も視野に入れている。26年までに国内外のオープンイノベーションも含め、技術の検討を重ねる。

(写真提供/キリンビバレッジ)

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