製菓大手のロッテは2021年3月15日、D2Cブランドサイト「YOIYO(ヨイヨ)」で先行予約を受け付けていた洋酒入りチョコレート「YOIYO<KOMAGATAKE>(ヨイヨ<コマガタケ>)」および「ラミーテリーヌ」を発売した。ロッテがD2Cを始めた狙い、洋酒入りチョコレートを選んだ理由とは?
オンラインショップのみ、数量限定で販売されるYOIYO<KOMAGATAKE>は1セット(1箱10粒×10箱入り)で5940円(税込み、送料込み、以下同)、ラミーテリーヌは1箱(約87g×3本入り)で6156円。ロッテの洋酒入りチョコレート「Rummy(ラミー)」「Bacchus(バッカス)」は1箱200円強なので3倍近い強気の価格設定だが、売れ行きは好調だという。
知名度も販路もあり、自社Webサイトでの直販もあるロッテがブランドサイトを立ち上げてまでD2Cを開始した理由は3つある。
1つはD2Cの特徴ともいえる「熱量の高いファンの獲得」。ロッテ マーケティング本部 EC戦略部 商品企画課の田中麻紀子氏は「数は少なくていいので、お客様との深い関係性を築きたかった」と話す。
ブランドサイトを立ち上げたのは、自社のオンラインショップではYOIYO<KOMAGATAKE>のコンセプト、世界観を伝えきれないと考えたからだ。田中氏は「D2Cは、単に商品をネット上で販売するEC(電子商取引)とは違う。D2Cではブランドサイトを通してお客様とコミュニケーションを図り、ブランドへの共感を高めていくことが重要になる」と強調する。
ちなみに今回のYOIYO<KOMAGATAKE>に使用されているクラフト酒は、本坊酒造(鹿児島市)のマルス信州蒸溜所(長野県宮田村)で製造しているシングルモルトウイスキー「駒ヶ岳」だ。蒸溜所周辺の自然が美しい、酒造りにこだわりがある、チョコレートとの相性がいいといった理由で、このクラフト酒が選ばれた。
「駒ヶ岳は流通数が限られているシングルモルトウイスキー。YOIYO<KOMAGATAKE>を通じて駒ヶ岳を知ってほしい。サイトを訪れたお客様が『(蒸溜所のある)信州に行ってみようか』と思ってくれたらうれしい」と田中氏。駒ケ岳の写真を採用したYOIYO<KOMAGATAKE>のパッケージには「信州から絵はがきが届いたような気持ちで受け取ってほしい」という田中氏の思いが込められている。
もう1つの理由は洋酒入りのチョコレートの通年販売の実現だ。チョコレート市場において洋酒入りチョコレートは19年から急成長しているが、先述のRummy、Bacchusといった洋酒入りチョコレートは、品質の維持という理由から冬季(10~2月ごろ)限定販売となっている。しかし、D2Cなら購入者に直接届くため、年間を通しての販売が可能になるわけだ。ロッテはYOIYOのシリーズとして、年4回のペースでクラフト酒チョコレートを販売していく予定。田中氏によれば「どのクラフト酒になるかは未定だが、21年夏頃までに第2弾を考えている」とのことだ。
3つ目の理由は購買層の拡大だ。1960年代からのロングセラーであるBacchus、Rummyの購買層の中心は50~60代。この世代には「家族と過ごす時間を大切にしたい」という思いがある一方で、「家族との会話が少ない」のが現実だという。
そこで田中氏は、夕食を済ませてから床に就くまでの時間帯にクラフト酒入りのチョコレートを食べながら夫婦で会話するシーンを想定した。「YOIYOのブランド名は『良い夜』をアルファベットで表記した造語。夕食後に夫婦の会話を楽しんでほしいというコンセプトから名付けた」(田中氏)。
「お客様との深い関係づくりを大切にしてきたロッテがやるべきことは、こうした消費者の心に残る“体験価値”を提供できる商品づくり」と田中氏はYOIYO<KOMAGATAKE>開発の背景を語る。
YOIYO<KOMAGATAKE>は「ウイスキーは苦手だがチョコレートは好き」という人に向けた、新しいウイスキーの楽しみ方の提案にもなっている。田中氏は「YOIYOをきっかけに、洋酒入りチョコレートを若い世代にまで広げたい」と意気込む。世代を問わず、クラフト酒チョコレートを食べながら、ブランドサイトで知った「駒ヶ岳」のうんちくを語るのも楽しいかもしれない。
(写真提供/ロッテ)