黎明(れいめい)期からeスポーツをけん引してきた2社が2021年2月1日付で合併した。eスポーツイベント運営会社のウェルプレイド(東京・渋谷)とRIZeST(ライゼスト、東京・千代田)だ。新社名はウェルプレイド・ライゼスト。合併の狙いとeスポーツ業界の今、今後について、代表3人に聞いた。
今回合併した2社の業務には、競合するものが多い。ウェルプレイドは「ゲームプレイに対する肯定を、ゲーム観戦に熱狂を、ゲームにもっと市民権を」を理念に、eスポーツイベントの企画・運営・配信を行う企業。eスポーツ選手のマネジメントなども手掛けている。2020年3月にはレッドホースコーポレーション(東京・江東)などとの協業で、大阪府吹田市に日本最大級のeスポーツ専用施設「REDEE(レディー)」をオープン。ゲームコミュニティーの発展にも寄与してきた(関連記事「日本最大級の“学び系”eスポーツ施設 憧れのゲーム実況体験も」)。
かたやRIZeSTは「eスポーツを持続可能な、文化的・経済的・社会的なものとする」をミッションに掲げ、eスポーツ番組の制作、放送、大会・リーグ運営、プロモーションを手掛ける。11年には東京・秋葉原に日本初となるeスポーツ施設「e-sports SQUARE」をオープンし、年間180本を超えるイベントやコンテンツ運用を行っている。
いずれも、ゲームやeスポーツに関わる人ならよく知る企業。その2社が1つになる。社名はそのまま2社を合体させてウェルプレイド・ライゼスト。ウェルプレイドの社長だった谷田優也氏と高尾恭平氏、RIZeSTの社長だった古澤明仁氏が3人で代表を務める。まさに対等な合併だ。
目的は加速のためのリソース確保
合併の理由について、3人は「目的を達成するためには、それぞれでやるよりも一緒になったほうが手っ取り早い」と口をそろえた。近年、盛り上がりを見せるeスポーツ。ウェルプレイド、RIZeSTの業績も好調だが、市場自体はまだまだ拡大フェーズだ。このため、“競合”といえど、シェア争いをするライバルというよりは、市場の拡大、eスポーツの発展という命題に向けて心を同じくする“同志”に近い関係だったという。
代表の1人、高尾氏はこう話す。「古澤さんとは数年前からフランクに話ができる関係性。2年ほど前に飲みに行ったとき、お互いが目指す先が同じだと感じ、それなら一緒に何かをやっていきたいと思っていました。個々では解決できない案件も、一緒にやることで達成できる可能性がある」。
一方の古澤氏は、「18年が“eスポーツ元年”といわれ、今もeスポーツは伸び続けている。でも圧倒的に足りないのがリソースです。マンパワーも資本金もノウハウも足りない。次のステップに進むには、組んだほうがいいと判断しました」と説明する。
個々の企業、さらには市場の規模を大きくするうえで足踏みとなりがちな、人材育成やノウハウの共有といった課題をクリアするために、育成された人材がそろっており、ノウハウもある競合他社と手を組んだというのが実情だ。「自分たちだけなら5年かかることを2社が組んで2年でやり遂げられるなら、それが最良の選択」ともう1人の代表である谷田氏も話す。
異なる得意分野で強みを発揮
ただし、「単純に2社の規模を足し上げ、事業規模を拡大することだけが目的ではない」とも強調する。両社には共通する事業がある半面、互いに得意分野も異なっているからだ。
「例えば、ウェルプレイドにあってRIZeSTにない事業領域の1つがeスポーツ選手のマネジメント。『クラッシュ・ロワイヤル』のけんつめし選手や『大乱闘スマッシュブラザーズSP』のすいのこ選手などを担当しています。RIZeSTとの合併でリソースを強化・整理することで、マネジメント事業にもより注力しやすくなると思います」(谷田氏)。
両社およびそれぞれの代表の“カラー”の違いも大きい。もともと、格闘ゲーマーとして活動していた谷田氏と高尾氏が設立したウェルプレイドは、ゲームファンが集まるゲームコミュニティーとのつながりが強い。また、『クラッシュ・ロワイヤル』など、モバイルゲームのイベント運営や選手マネジメントにも強みを持つ。一方、PC周辺機器メーカーのマーケティングに携わった経験も持つ古澤氏のRIZeSTは、プロリーグの運営や自治体との共同事業などの実績を持つ。ゲームタイトルでは『リーグ・オブ・レジェンド』などPCゲームに強いのが特色だ。
「漢字で表現するならウェルプレイドは“柔”、RIZeSTは“剛”。ウェルプレイドはファンやコミュニティーを巻き込むのが得意ですが、RIZeSTは質実剛健なイベントに精通している」と谷田氏。実際、筆者の目から見ても、ウェルプレイドはゲームを楽しみ、慈しみながら業務まで楽しんでいる印象なのに対し、RIZeSTはナショナルクライアントや自治体が共に仕事をするうえで安心感を得られる企業としての生真面目さが感じられる。
それぞれの得意分野と代表3人の持ち味が組み合わさり、対応できる案件の幅も広がっているという。「ウェルプレイド時代も、高尾と私で得意分野や相性の良い取引相手などが違いました。そこに古澤さんという新しい“手札”が増え、取りこぼしが少なくなった。グーとパーしかなかったジャンケンにチョキが加わって、どんな相手や状況にも対応できるようになったという感じです」(谷田氏)。
eスポーツの知見が他分野でも生きる
今後の展望として両社が見つめるのが、アフターコロナ時代のeスポーツ市場だ。大勢の人が集まり、接触する状況を避けなければならないコロナ禍において、予定されていた大会やイベントは中止や延期に追い込まれた。その一方で、eスポーツならではの強みも浮き彫りになってきた。
eスポーツ以外のライブエンターテインメントは、オンライン化するにしても、できるのは無観客試合、無観客公演まで。だが、eスポーツは、選手やMC、実況・解説もリモートで参加できるため、大会やイベント運営のほぼ全てをリモートからのオンラインに置き換えても、オフラインに近いことができる。
加えて、コロナで新たに生まれたニーズもある。その一例が、凸版印刷が21年1月に行った社内運動会「TOPPAN eSPORTS FESTIVAL」だ。同社では10年からグループ企業の社員とその家族を対象とした社内イベント「TOPPAN SPORTS FESTIVAL」を開催している。だが、今年はコロナ禍で開催が困難に。そこで、同イベントを実施した。当日はトッパングループ全世界の従業員約5万人とその家族、21年卒の内定者有志を対象にチーム対抗のトーナメント戦やクイズ大会などが催された。この技術協力をしたのが合併前のウェルプレイドだ。
社員の交流の場にeスポーツのノウハウを生かす、いわばeスポーツのツール化。コロナ禍も2年目となり、各種イベントのオンライン化を中心に、ニューノーマルへの対応が本格的に進むだろう。「21年こそオンライン化に予算を割く企業や自治体も増えるはず。eスポーツイベントの運営で培ってきたノウハウを、eスポーツはもちろん各種オンラインイベントでも商材として生かすチャンス」(古澤氏)と捉えている。
コロナ後のeスポーツはどうなる?
コロナ禍による急速なオンライン化はウェルプレイド・ライゼストの追い風になった。その一方で、エンターテインメントビジネスとしてのeスポーツの発展はどうか。一部eスポーツイベントの入場料有料化などマネタイズが始まった段階でコロナ禍となり、有料化しにくいオンラインに移行したことはeスポーツのエコシステムを構築するうえでの新たな課題を生み出さないか。
「eスポーツはコミュニティー発という側面があります。無料での視聴、参加の文化は残していきたい。ただ、遅かれ早かれ有料コンテンツも成立するようになると思います。例えば、音楽にはサブスク型のサービスがあるように、eスポーツでも基本は無料ながら、特別な試合などプレミアムなものは有料化していくのではないでしょうか」と古澤氏。スポンサービジネスについても「eスポーツへの投資を考えている企業に話を聞くと、単純に(企業や商品の)認知を高めるということではなく、もっと具体的な、解決すべき課題に直面していることが分かってきました。その課題を解決できる手段やマーケティングツールをイベントや大会の運営、配信で提供できれば、おのずと協賛企業は増える。協賛メニューの細分化などで対応できる」(古澤氏)と希望を語る。
eスポーツが隆盛し、動画配信やリアルイベントが人気といっても、視聴者数の数字だけを追うと、テレビなどのマスメディアにはかなわない。また、動画配信はプラットフォーム数が増え、配信のハードルが下がってきたことで、誰でも参加できる半面、質の悪い動画も増えてきた。だが、玉石混交になったからこそ、クオリティーの高いコンテンツが視聴料を稼ぐ道も開けるだろう。さらにそうした動画の数が集まることで、“eスポーツ”としてのコンテンツの幅も広がる。取材では、eスポーツ関連動画のサブスクリプションサービスの可能性についても3人の口から飛び出した。
eスポーツイベントは、感動のシーンを生み出す場として存在する。特定の場で特定の選手が神がかったプレーをしたとき、感動が生まれるからだ。そして、その感動体験こそがコンテンツの価値へとつながっていく。そうした場をつくることこそ、ウェルプレイド・ライゼストの役目だと言う。さらに、「eスポーツの価値が認識されていないところにも、その価値を伝えていきたいと考えています。それが我々の理念です。この理念を実現するため、我々は手を組んだわけですから」と高尾氏は締めくくった。
(写真/志田彩香)