スマートフォンで解錠・施錠・24時間受け渡しが可能なスマートコインロッカーを提供するスタートアップ、SPACER(スペースアール、東京・中央)が、新市場に乗り出している。施設内の店舗の商品をロッカーで受け取れる小田急本厚木ミロードでのサービスや、ECサイトからのデリバリー利用も視野に入れた駅配サービス「BOPISTA(ボピスタ)」をはじめ、さまざまなサービスを展開する狙いを同社に聞いた。
スマートコインロッカー「SPACER」は、スマートフォンのアプリで開け閉めできるコインロッカーだ。利用の事前予約もでき、クレジットカードや携帯キャリア払いなどキャッシュレス決済が可能。物理的な鍵がなく、現金も不要なので非接触型コインロッカーとして注目されている。
鍵共有でロッカーでの受け渡し可能に
このロッカーシステムを開発したのは、スタートアップ企業、SPACER(スペースアール)だ。旅行客などによる「荷物一時預かり」としてのコインロッカーの需要が急増し、「コインロッカー難民」という言葉が生まれるなか、田中章仁氏(現CEO[最高経営責任者])らが2016年に設立した。
駅や商業施設などに設置されたSPACERのコインロッカーに貼ってあるQRコードを、利用者がスマホで読み取り、アプリもしくはサイトにアクセスすると、「SPACERアプリ」(サイト)にURL鍵が表示され、鍵が開けられ荷物が預けられるようになる。受取時は再度アプリで操作を行う。
事前予約の場合、アプリもしくはサイトから設置場所、ロッカーのサイズ(設置場所によって異なる)、空き状況から預けるロッカー番号を選び登録する仕組み。
スマホ上で鍵のURLを送受信する「鍵の共有」により、知人間・非対面で荷物の受け渡しも可能だ。また、買い物代行、フリマアプリで購入した商品の個人間受け渡しなど、「受け渡し・宅配ロッカー」としても利用できるため、「コロナ時代の物流の発着点になる可能性を秘めている」と田中氏は市場開拓を狙う。
すでにいくつかの実証実験を開始。同社が最も本命と見据えているのが調剤薬局での薬の非対面受け取りサービスだ。
調剤薬局での薬の非対面受け取り
「スマートロッカーを介した調剤薬局での薬の非対面受け取り」の事業化は、すでに自治体の支援も受けて順調なスタートを切っている。
19年度の医薬品医療機器等法の改正により、一定の要件の下、オンライン服薬指導(遠隔服薬指導)が20年9月から全国的に解禁された。これを見越してロッカーを利用してもらおうと仕組みを考えた。
「調剤薬局によっては、1日の処方薬の受け渡しが100件を超えるところもある。しかし対面による薬の受け渡しは、薬剤師と利用者の双方に、新型コロナウイルス感染症の感染リスクが生じる。待ち時間が長いと店内が3密になりやすいといった課題もある。その課題解決に役立つと考えた」(田中氏)
同社はドラッグストア・チェーン「クリエイトSD」を展開するクリエイトエス・ディーと連携し、神奈川県内の4店舗で20年12月15日~21年2月28日に実証実験を実施。この取り組みは神奈川県が公的に支援するもので、20年12月15日には神奈川県の黒岩祐治県知事が公式会見で「薬局オンラインによる薬の受け渡し連携の拡大を進めていく」姿勢を明らかにしている。
同社では実証実験の結果を受け、今後、全国の調剤薬局にローラー的に展開していく予定。今後2年間で、家に薬を届けてもらうかスマートロッカーで受け取るかの選択が常識になるように事業化したいという。
商業施設では無人販売や展示にも活用
一方、商業施設との連携によるサービスを模索するのが、20年12月にスタートした小田急線本厚木駅直結の複合商業施設「本厚木ミロード」での実証実験だ。
これは施設内の3店舗の商品をロッカーで受け取れるというもので、例えば購入商品の裾上げを依頼した場合、従来なら自宅に配送してもらうか、再来店して受け取る必要があったが、スマートコインロッカーを利用すれば、施設の営業時間に縛られることなく、早朝4時から24時まで商品を受け取ることが可能。
また従来のQRコード型受け取りロッカーと異なり、荷物を取り出した人のログが残るので、第三者の不正利用による盗難が防げるという。なお、店舗からの受け取りの場合、ユーザーはロッカー使用料の支払いが不要だ。
さらに三菱地所と提携した「商品の無人販売」を、21年1月8~29日に実施。多機能型市場有楽町「micro FOOD & IDEA MARKET」(東京・千代田)店内に、中が見える透明なアクリルボックス製のスマートコインロッカーを設置。ロッカーの中に置かれた商品を外から見て、欲しいと思ったらロッカーから直接購入できるようにした。非対面・非接触でのショッピングが可能となるため、コロナ禍においては「売る側、買う側ともにメリットを感じてもらえるのでは」(田中氏)と今後のPR戦略を練っている。
同じロッカーではアート作品の展示も実施。銀座の画廊などでは1週間の展示に30万円かかることも多いというが、1週間5000円で展示可能にした。「今のアーティストはインスタグラムで作品をPRしている人が多い。駅や商業施設という好立地のスペースを、低価格で借りられ、手軽にPRできるサービスは、広がる可能性が高い」(田中氏)と期待を寄せている。
西武鉄道の駅での駅配サービスは好調
西武ホールディングスと提携し、西武鉄道の駅でスマートコインロッカーを使った駅配サービス「BOPISTA(ボピスタ)」はECサイトからのデリバリー利用も視野に入れた実証実験だ。専用ウェブサイトで注文したお薦め商品を、西武鉄道の駅構内に設置されるスマートコインロッカーを利用し、自分の好きなタイミングで受け取ることができる。21年2月8日から、西武池袋本店で、スイーツ7ブランド13種類、コスメギフト3ブランド4種類を対象商品としてトライアル導入中だ。
専用ウェブサイトに出店したそごう・西武の広報担当者によると、女性の利用が約6割、受取場所は池袋駅が約6割を占めた。ただしトライアル導入中にバレンタイン催事「チョコレートパラダイス」を開催していた影響か、バレンタイン直前は所沢駅と富士見台駅の女性利用客が急増。昼休みごろに注文して帰宅時間に受け取るケースと、夕方から夜に注文して明朝に受け取るケースが多かったとのこと。またバレンタインならではだったのが、購入者がチョコレートを渡したい相手とロッカーの鍵を共有し、スマートコインロッカーでの受け取りの体験ごとプレゼントするというケース。「当初想定していなかったようなご利用で、今後の可能性を感じている」(そごう・西武の広報担当者)。
ECでの活用、再配達問題解決にも
スマートコインロッカーの起点は、コインロッカー不足という課題解決に向けたものだったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、密を避けた非接触・非対面の購買を求める声に応えるものとして、あるいは、宅配物の再配達問題に挑むものとしても注目される。
ECサイト利用率はコロナ禍以前から上昇しており、経済産業省による「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば2019年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、19.4兆円(前年18.0兆円、前年比7.65%増)、BtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は353.0兆円(前年344.2兆円、前年比2.5%増)に拡大。コロナ禍で非接触型の買い物需要が高まっているとすると、20年はさらに市場が拡大し、宅配利用率も上昇していることが考えられる。これは同時に再配達の増加が懸念されるもとにもなっており、物流各社が解決に向けてさまざまな提案をしている最中だ。
スマートコインロッカーも今後、設置数が増えれば、再配達削減に貢献するのではないかと考えられる。
(写真提供/SPACER)