キリンビールの「本麒麟」が過去最大規模の投資額となる3度目のリニューアルを行う。2020年は酒税改正による税率アップやコロナ禍といった逆境が襲ったものの、販売実績は前年比132%と、発売以来、最高になった。好調なのに大型刷新を決断したのは、まだ本麒麟を飲んだことのない新規層にも価値を伝え、さらなるブランド強化につなげるためだ。
好調だからこそのリニューアル
「リニューアルはテコ入れの意味合いでいわれることが多いが、本麒麟は違う」。2021年2月22日に開催したリニューアル方針発表会で、キリンビール本麒麟ブランドマネージャーの永井勝也氏はそう言い切った。事実、18年の発売以来、右肩上がりで販売実績が推移しているにもかかわらず、本麒麟は毎年リニューアルを繰り返している。3年連続でのリニューアルはキリンビール初のことだ。
異例の連続リニューアルの背景には、布施孝之社長が15年の就任後、徹底して推し進めてきた3つの変革の柱がある。「投資ブランドの絞り込み」「お客様機軸での判断」「ブランド育成の強化」だ。
「投資がいろんなブランドに分散し、戦略不在だった。さらに判断基準が会社都合になっていた。ブランドを強くすることが競合優位の源泉になる。組織風土自体もお客様をどこの会社よりも一番に考えるようにし、CSVマインド(社会貢献と企業利益を両立させる考え方)×戦略で成果につなげていく」(布施社長)
布施社長の言葉通り、今や看板商品の1つともいえる本麒麟に、「一番搾り」と並ぶ投資ブランドとして注力し、消費者のニーズに応えるようリニューアルを繰り返してきた。3年で達成する計画だった10万キロリットル(790万ケース、大瓶換算、以下同)を1年で達成し、新ジャンル市場自体の拡大もけん引してきた本麒麟は、20年の酒税改正による税率のアップやコロナ禍による外食自粛といったピンチもチャンスに変えた。業務用が冷え込む中、「安くても本格的なビールの味を楽しめる」と家庭用の需要が大きく伸び、前年比132%で着地した。これは市場平均を大きく上回る結果だ。
同社で“定番商品”の基準となる30万キロリットル(2370万ケース)を早期に達成すべく、21年は約28万キロリットル(2230万ケース)を販売目標に据える。
経済性と本格的な味で毎年ファンを増やしてきたものの、永井氏は「認知度は約7割、飲用体験に至っては約4割」とし、新規層拡大のポテンシャルはまだ大きいとみる。そこで、3度目のリニューアルとなる今回は、「圧倒的に大きい投資規模で長期にわたるマーケ施策を展開し」(永井氏)、新規層獲得を目指す。
今回のリニューアルでは原料の大麦とドイツ産ヘルスブルッカーホップを増量し、本格的なビールの味わいを高めた。パッケージデザインも、ブランド価値である品質の良さや作り手のこだわりがより伝わるように変更した。
上述の永井氏の発言にもあった通り、マーケティング施策は例年よりも長期にわたり実施する。テレビCMを最大出稿量で投下するとともに、SNSを通じたデジタル施策を強化。40~60代がメインユーザーである新ジャンル価格帯だが、本麒麟はインスタグラムを中心としたSNSでの口コミや評判が広まるにつれて、20~30代にも支持層が広がった経緯があるからだ。
コロナ禍においてスマホの使用時間が増加するといった消費者態様の変化も捉え、デジタルのみのコンテンツも追加する。「生産者や消費者の実際の“声”を知ることでブランドを好きになってもらえるので、単にテレビ広告をそのまま流すだけでなく、専用の施策やコンテンツを準備し、消費者の評価が見えるような仕組みも取り入れる」(永井氏)とした。
このほか100万人規模のサンプリング施策にもSNSを積極的に活用する。店頭販促では本麒麟に合う専用グラスやおつまみが絶対にもらえるキャンペーンでお得感を演出する。
布施社長は、「コロナ禍で社会的使命を再認識した企業が多いと思う。求められる価値をしっかりと伝えることがキリンビールの使命であり、本麒麟を通じて日本中のビール好きの毎日をうれしくすることができるブランドへ育てたい。21年目標の28万キロリットルをしっかり達成して、早期に30万キロリットルのメガブランドに育成していきたい」と意気込んだ。