キリンビールは2021年2月24日、前年4月に発売したノンアルコールビール「キリン グリーンズフリー」を大幅刷新した。旧缶と同様、主原料はビールと同じ麦とホップで、甘味料や香料は不使用。クラフトビールに使われる希少なホップを新たに使うことでおいしさが向上したという。「ノンアル休眠層」を取り込むのが狙い。
失われた約1400億円市場を掘り起こす
新しくなったキリン グリーンズフリーには、ニュージーランド産のネルソンソーヴィンホップを採用した。これはキリンビールのグループ会社でクラフトビール製造などを手掛けるスプリングバレーブルワリーの看板商品「on the cloud」で使用されている世界的に希少なホップだという。
キリン グリーンズフリーの開発では、さまざまな原料を用いた100回を超える試作において、ネルソンソーヴィンホップをふんだんに使用した試作品が満場一致でおいしいと評価された。スプリングバレーブルワリーのマスターブリュワーである田山智広氏は、「コストアップにはなったがおいしさには代えがたかった」と、とことん味を追求したことを明かす。
コストアップも辞さないほど味に妥協しなかった背景には、ノンアルコール市場の拡大と同社が約1400億円と推計する「ノンアル休眠層」の存在がある。ノンアル休眠層とは、過去にノンアルコール・ビールテイスト飲料を飲んだことがあるものの何らかの理由で飲まなくなった人たちを指す。
キリンビールの推計によると、ビール類の2020年の出荷数量は09年に比べ72%と減少しているのに対し、ノンアルコール・ビールテイスト飲料は433%と驚異的な伸びを示す。一方で、市場規模はビール類が1.5兆円でノンアルコール・ビールテイスト飲料が725億円(富士経済「2021年食品マーケティング便覧No.2」による)、ユーザー数もビール類が5442万人、ノンアルコール・ビールテイスト飲料が1703万人(インテージ「SCI」 19年12月~20年11月)と、まだまだ拡大するポテンシャルを秘めている。
同社が8039人を対象に行った独自調査でも、ノンアルコール・ビールテイスト飲料を飲まない人たちのうち休眠層は約30%で、推計人口は約1670万人になると分かった。さらに、仮に日常的に飲用する人たちの年間飲用本数を休眠層が飲み続けていた場合、市場規模は約1400億円になっていたと推計する。
2509人を対象にした別の調査では、ノンアルコール・ビールテイスト飲料を飲まなくなった主な理由として「おいしくない」「人工的な味」といった味へのネガティブな意見が最も多かった。一方で、「味がおいしくなったら飲んでみたいと思う」と答えた人は全体の約6割で、味の改良こそが休眠層の掘り起こしの最大のポイントだと同社は捉えた。
ただ、グリーンズフリーはこれまで満足のいく味を造るのが難しかった。一般的にビールは麦やホップなどの主原料を発酵させることで麦汁由来の独特の香りが生まれるが、同時にアルコール成分も発生することから、ノンアルコール・ビールテイスト飲料では香料を用いて香りをつけたり甘味料で味を調えたりすることが多い。だが、グリーンズフリーは20年2月の発売当初から「自然派ビールテイスト炭酸飲料」とうたい、自然由来の原料のみを使用するという制約を課したため、こうした香料や甘味料を使わなかったからだ。ノンアルコール・ビールテイスト飲料としては過酷な条件下で製品化したものの、「発売直後からもっとおいしいものを作りたいという思いが開発部全員にあった」と田山氏。ネルソンソーヴィンホップを配合することで、ついに納得のいく味ができたと同氏は胸を張る。
休眠層への試飲調査では、8割以上がおいしいと答え、6割以上がノンアルコール・ビールテイスト飲料への価値観が変わったと答えた。
キリンビールでは、21年も引き続きノンアルコール飲料カテゴリーの伸長が続くと見込み、ノンアルコール飲料全体で前年比123%となる430万ケースの販売を目指す。市場の伸びと共に多様化するニーズを各ブランドで充足する。本格的な味への需要には「ゼロイチ」、健康需要には「カラダFREE」、気兼ねなくゴクゴクと飲める爽快感への需要には「グリーンズフリー」と、振り分けて訴求するが、「21年に最注力するのは爽快感ニーズに応えるグリーンズフリー」(キリンビール)と、リニューアル製品への期待を込めた。
ノンアルコール・ビールテイスト飲料カテゴリーならではのマーケティング施策としては、サンプリングなどで飲用体験の創出に注力する。「我慢して飲むものだというネガティブイメージの強いノンアルアルコール飲料は、1本買ってみることに障壁がある。しかし、1度飲んでみれば態度変容する」(キリンビール)との考えだ。
リニューアル前は「ビールテイスト炭酸」という新カテゴリーを創出し訴求したものの、消費者から「立ち位置が分かりづらい」と指摘を受け、今回から「ノンアルコール・ビールテイスト飲料」として訴求することにしたグリーンズフリー(参考記事:「キリンが『ビールテイスト炭酸』新発売 ノンアルと呼ばない理由」)。単体での21年販売目標は、リニューアル前実績の約3倍となる170万ケースだ。
(写真提供/キリンビール)