ユニクロ、GUなどを運営するファーストリテイリングは、コロナ禍で消費者のサステナビリティーへの意識が高まったことを受け、同社が進める持続可能な社会に向けた取り組みを広く伝えるために「サステナビリティレポート2021」を発表した。「リサイクル ダウンジャケット」をはじめとした生産過程での環境負荷軽減や店舗での温暖化ガス排出量抑制などをまとめている。
地球上の問題は一国では解決できない
今回発表した「サステナビリティレポート2021」には、同社の環境負荷低減への取り組みや新型コロナウイルス感染拡大で困窮を極める医療現場に対する衣料支援、2001年にアフガニスタン難民への支援などからスタートし、20年かけて世界中に拡大させている同社の社会貢献活動、環境保全に向けて活動するZ世代や、夢を実現させた元難民へのインタビューなどを収録した。
21年2月2日に開催したメディア向け発表会に登壇したファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は、コロナ禍においてグローバルな人の往来や各国の経済が停滞しているうえ、政治的、経済的にも対立が激化していると指摘。
「ビジネスにも深刻な影響を与えている、まさに危機的な現状」と述べたうえで、「最も必要なことは、世界中の個人や企業がポジティブに考え、すぐに行動して、力を合わせてピンチをチャンスにし、より良い社会を実現すること」と提言した。サステナビリティレポート2021には持続可能な社会の実現を自分事として捉えてもらえるよう、さまざまなコンテンツを盛り込んだという。
柳井氏はまた、「今は目先の利益のことを考えて殻に閉じこもっている状態。世界とつながっているふりをしている」と話し、利己的な状況に世界全体が陥っていると警鐘を鳴らした。
「地球上で起きている問題は一国レベルでは解決できない。全世界に住んでいる人が自分の問題だと考えて行動しなければならない。世界の歴史をよく知って、ポジティブな将来を実現できるために何ができるのか。全世界の人々や企業が人類全体の将来を考えて、経済活動はどうあるべきか、地球環境はどうあるべきか、自分のビジネスはどうあるべきか、本当に真剣に考えて行動しなければいけない」と力説した。
服をリサイクルする「RE.UNIQLO」を開始
ファーストリテイリングは20年1月、「地球の平均気温の上昇を産業革命前との比較で2度よりもはるかに低く抑える」というパリ協定の目標を支持するために、ファッション業界で連携する取り組みを定めた「ファッション業界気候行動憲章」に署名。同年度には店舗のLED導入率93.8%を達成し、温暖化ガス排出量を13年度と比較して38.7%削減した。海外店舗では太陽光パネルの設置も導入している。50年までに排出量ゼロを目指し、21年度中にはさらなる具体策も決める予定だという。
同社は生産過程でも環境負荷の削減に積極的に取り組んでいる。ユニクロでは回収ペットボトルから作った再生ポリエステルを素材の一部に利用したり、店舗で回収した服を原料に新しい服を作る取り組み「RE.UNIQLO」をスタートしたりしている。20年秋冬には「リサイクル ダウンジャケット」を発売した。これまでも回収した衣服を難民などへの衣料支援に再利用していたが、さらなる循環型リサイクルを進める。
また、今回のレポートの巻頭には、フランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏と柳井氏の対談を収録。その中で、アタリ氏が環境問題への取り組みには生態学的だけでなく、経済的、政治的にも機能し、次世代の利益を考慮できる「利他主義」が重要だと指摘したのに対し、柳井氏は「難しい問題は『お上』が判断して、解決するはずだと。私はそれでは駄目だと思っています。個人の意志、企業の意志で行動を始めなければ、変えられるはずのものも変わらない。(中略)国境を越えるような判断や行動は、個人や企業から始めたほうが早く、確実に広がっていく」とした。
今後も同社独自のスピーディーな取り組みを続ける姿勢を示している。
(写真提供/ファーストリテイリング)