アサヒ飲料は2021年1月26日に事業方針説明会を開催。20年はコロナ禍で清涼飲料市場全体が落ち込むも、三ツ矢・ウィルキンソン・カルピス(希釈用)の3ブランドが過去最高の販売数量を更新したと発表した。21年度はこの3ブランドを集中的に強化しつつ新価値の創造にも力を入れ、19年並みの水準まで回復を目指す。
100年超の長寿ブランドが躍進
アサヒ飲料の米女太一社長は冒頭で2020年の実績を振り返り、「イベントの中止や外出自粛でコンビニや自販機、業務用チャネルで苦戦した。(緊急事態宣言明けの)6月以降は盛り返したが、清涼飲料業界全体でも2年連続で前年を下回る結果になった」と、コロナ禍での売り上げへの影響を総括した。
一方で、家庭内需要やECチャネルで「自分では作れない価値のあるものが伸長した」とし、100年超の歴史を持つ「三ツ矢」「ウィルキンソン」「カルピス(希釈用)」が過去最高の販売数量を更新したことを明かした。
三ツ矢の販売実績は4075万箱で前年比104.1%、ウィルキンソンは2966万箱で同110.1%、カルピス(希釈用)は474万箱で同105.6%だった。老若男女に安心・安全な飲み物として信頼を得たことが要因だと分析し、「このような年に過去最高を更新できたことは大きな成果」と手応えをにじませた。
上記3ブランドに「ワンダ」「アサヒ 十六茶」「アサヒ おいしい水」を加えた重点6ブランドの合計は1億7964万箱で同94.5%、飲料全体としては2億4867万箱で前年比93.8%だったものの、業界平均は若干上回って着地した。中でも炭酸飲料が好調だった。有糖炭酸の「三ツ矢サイダー」「カルピスソーダ」などや無糖炭酸の「ウィルキンソン」に、「モンスターエナジー」や「ドデカミン」といったエナジードリンクを加えると、炭酸飲料だけで1億箱を達成したという。「清涼飲料業界で2番目に大きい炭酸カテゴリーで強い存在感を示せた」と、米女社長。
さらに、新価値創造商品の実績も評価した。カルピスで初めて豆乳を使用した「GREEN CALPIS」は、これまで乳製品アレルギーでカルピスが飲めなかった人にも受け入れられたという。また、「『三ツ矢』特濃シリーズ」や限定復刻商品が若年層を中心とした”休眠層”の獲得につながった。
21年はさらなる成長を期待
続いて21年の事業戦略を説明した。まず清涼飲料業界全体の見通しとして、市況は引き続き厳しいものの、新たな生活様式の定着やワクチン接種などが進むとみており経済回復への期待を込めて「前年を2%程度上回る伸びではないか」と推察した。
その中でブランド強化と新価値創造で業界のリーディングカンパニーを目指すとし、「社会やお客様の変化する生活に寄り添い、生活を充実させる商品を提案」することを戦略骨子に、全体で前年比105%の2億6200万箱を販売目標に据えるという強気の姿勢を示した。これは19年並みの水準だという。柱としては、三ツ矢・ウィルキンソン・カルピスの100年ブランドの強化と十六茶など無糖領域の拡大を掲げる。
三ツ矢は「三ツ矢サイダー」本体の強化に加え、09年に発売した「三ツ矢サイダー オールゼロ」以来12年ぶりの大型新商品「『三ツ矢サイダー』レモラ」を投入する。過去に何度か期間限定で発売したところ好評だったため、レギュラー化した。
年間約3億箱を販売する炭酸飲料市場において、有糖炭酸と無糖の炭酸水を併飲する“中間領域”はユーザー構成比で32%と大きく、そこを捉えるため「甘すぎる炭酸に不満を感じる」ニーズにも応える。レモンとライムの爽やかさが特徴のさっぱりした甘さだといい、単独のテレビ広告で大々的に訴求し、21年は300万箱の販売を目標とする。
カルピスは、汎用性を生かした提案をした希釈用が20年はヒットした。21年は「つくる楽しさ」を提案するデジタル販促を実施する。並行して、希釈が不要なストレートシリーズでは軽い甘さが特徴の「『CALPIS』Light Blue」を発売。ほどよい甘さは欲しいが砂糖が気になる働く女性をターゲットに、こちらも単独CMでプロモーションを展開する。目標販売箱数は100万箱。
10年で3倍に拡大する炭酸水市場で、ウィルキンソン タンサンは13年連続で最高売上を更新し、20年のシェアは47%と圧倒的な存在感を示す。21年は健康価値もアピールし、女性や新規ユーザーの拡大を目指す。
「十六茶」はリブランディングで環境訴求
清涼飲料で最も大きなカテゴリーである無糖茶の代表ブランド「アサヒ 十六茶」はリブランディングを図る。競合商品が続々参入する中で、「固定層がいるものの16種類のブレンド茶というだけではニュース性がなく、他社製品と比較するとポジションが弱くなっていた」と米女社長。ブランドパーソナリティーの希薄化という重大な課題を指摘した。
東洋健康思想やカフェインゼロといった基本価値に立ち戻り、リブランディングの基本方針を「人にやさしく、地球にやさしい」と設定。自然を感じる素材や発酵技術を取り入れたり、環境に優しいサステナブルなボトルを採用したり、賞味期限を9カ月から12カ月へ延長しフードロスにも対応したりといった施策を進める。
アサヒ飲料のCSVの重点領域の一つは「環境」で、30年までにプラスチック製容器包装の全重量の60%にリサイクルPETや植物由来の環境配慮素材を使用することを目指す。十六茶は同社の環境配慮を体現するブランドとしての存在感を高めることで、年間販売数2370万箱を目指す。
同じく環境への配慮を強化するのが「アサヒ おいしい水」だ。シール面積を極小化したシンプルエコラベルを採用することで、プラスチック利用量を従来の8割以上削減する。化石プラスチックは約5トン、CO2排出量は約14トンの削減になるという。
また、ラベルレスの場合は箱売りが中心だが、小さくラベルを配するため、バラ売りも可能。自販機にも投入できるので、販売チャネルが広げられる。18年から業界に先駆けてラベルレスを導入したアサヒ飲料の新たな取り組みは、業界全体のプラスチック削減策の可能性をさらに広げるものと言える。
CSVの取り組みとしては健康も掲げており、体調管理・睡眠改善商品の強化や、18年から参画するスポーツ庁の健康推進プロジェクト「FUN+WALK PROJECT」への取り組みを推進する。これまでもスニーカー通勤を推奨するなど社員に対して歩く習慣をつける活動をしてきたが、今後は社員の歩いた距離をポイント化し、そのポイント数に応じて商品を社外の健康イベントなどに寄付するという。詳細は今後決定していくとしているが、社内外両方に向けたメッセージとなりそうだ。
(写真提供/アサヒ飲料)