新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛はバレンタイン商戦にも大きな影響を与えている。人と会う機会が激減し義理チョコの存在が風前の灯であることに危機感を募らせたのが、「義理チョコといえばブラックサンダー」のプロモーションを展開してきた有楽製菓(東京都小平市)「ブラックサンダー」だ。主戦場を活況のEC(電子商取引)に移すため、社長主導の奇策に打って出た。
義理チョコをあおり続けた責任を反省
有楽製菓のチョコレート菓子「ブラックサンダー」が2021年のバレンタインに向け、1月25日に打ち出したコンセプトは「バレンタインをもっと自由に」。これまでのプロモーションでは「義理義理義理義理 言い過ぎました」との反省を込めている。
ブラックサンダーは1994年の発売当初から1本30円の安さを貫き、日常的に楽しめるチョコレート菓子として販売してきた。
2013年のバレンタインシーズンからは義理チョコに絞ったプロモーションを展開。チョコレート市場にとって年に1度の特別なイベントに、日常的なチョコレート菓子としてあえて参加するため、「一目で義理とわかるチョコ」というメッセージを打ち出した。これが大いに受け、社内でも代表的な成功例となった。
しかし近年、国内のバレンタイン事情は変化した。「生活者の価値観が多様化し、恋愛や感謝の表現も自由になったことで、楽しくコミュニケーションを取るはずの義理チョコが閉塞感や義務感を与える存在になってしまった」と有楽製菓の河合辰信社長。義理チョコをあおり続けたブラックサンダーも、義理チョコへの息苦しさを植え付けてしまった責任の一端を担っているのではと考え、反省することにしたという。キャンペーンのオンライン発表会場で河合社長は「義理義理義理義理言い過ぎましたことを、深くおわび申し上げたいと思います。すみませんでした!」と頭を下げた。
潔い謝罪をした後に発表したバレンタイン限定の商品群は、「バレンタインをもっと自由に」という同社の21年の方針を色濃く反映している。
さらにそれらは1月25日にオープンしたECサイト限定で販売する。「それもありでしょ?バレンタイン」と銘打った特設サイトに並ぶのは度肝を抜くユニークな商品だ。
一見ふざけたように見える商品群は河合社長のアイデアが「存分に含まれている」。ネタともいえる商品をあえて販売する狙いは、ECサイトへの集客だ。
河合社長によると、百貨店などのECを使ったバレンタイン施策は好調で軒並み売り切れが続いているほどだという。「義理チョコではなく自分用に好みのものを購入するという傾向がこれまで以上に進む」と分析。そこで、同社もECに注力することにした。
特設サイトでは前述のユニークな商品のほかに、おいしくすることだけを考えて自由に作ったという高価格帯の限定商品も並ぶ。これらには生チョコを使用した。
ツイッターでは、フォロー&リツィートキャンペーンを実施。第1弾は100人にブラックサンダー20本をプレゼントする。第2弾は、抽選で400人に当たりくじ入りの箱が当たり、さらに、その箱の中から当たりくじが出れば、約1年分のブラックサンダーが当たるという手の込んだもの。
今年のプロモーションではターゲットを絞らず、バレンタインは老若男女が楽しむべきイベントだと訴求する。「バレンタイン自体を楽しい元の姿に戻すことを使命にしている。形にとらわれずどんな方法でも楽しんでいいということをブラックサンダー的に提案したい」と河合社長。「バレンタイン需要は今後かなり落ち込む」と予想するからこそ、振り切った施策で全力でバレンタインを盛り上げる。
(写真提供/有楽製菓)