『あつまれ どうぶつの森』の大ヒットが話題となった2020年、実はその陰にもう1本、販売本数が1000万本に届くようなゲームタイトルがあった。17年発売の『マリオカート8 デラックス』だ。さらに20年11月発売の『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~ 』もヒット街道をばく進している。ここに「巣ごもり消費」だけではない、コロナ禍でもゲーム産業が伸長した真の理由がある。

2017年発売ながら、コロナ禍の2020年に1000万本クラスの販売数をたたき出した『マリオカート8 デラックス』(任天堂、Nintendo Switch用ソフト)。
2017年発売ながら、コロナ禍の2020年に1000万本クラスの販売数をたたき出した『マリオカート8 デラックス』(任天堂、Nintendo Switch用ソフト)。

 コロナ禍に見舞われた2020年。ゲーム産業は右肩上がりの成長を見せた。とりわけ任天堂の好調ぶりはすさまじく、21年3月期第2四半期の売上高が前年同期比73.3%増の7695億円、営業利益が同209.3%増の2914億円という数字をたたき出している。

 その象徴として話題になったのが、世界累計販売本数2604万本(20年9月末時点)の『あつまれ どうぶつの森』である。ただ、その大ヒットの陰でもう1本、販売本数が年間1000万本に届きそうなヒット作があったことは、あまり話題になっていない。

コロナ禍の中、全世界で記録的なヒットを記録した『あつまれ どうぶつの森』(任天堂/Nintendo Switch用ソフト)(c)2020 Nintendo
コロナ禍の中、全世界で記録的なヒットを記録した『あつまれ どうぶつの森』(任天堂/Nintendo Switch用ソフト)(c)2020 Nintendo
『あつまれ どうぶつの森』では現実と同じように時間が流れ、日によって違うイベントが発生する。これは2021年を迎えた瞬間の光景だ(c)2020 Nintendo
『あつまれ どうぶつの森』では現実と同じように時間が流れ、日によって違うイベントが発生する。これは2021年を迎えた瞬間の光景だ(c)2020 Nintendo

 それが、『マリオカート8 デラックス』だ。17年発売のレースゲームで、20年9月末時点の世界累計販売本数は2899万本と、Nintendo Switch用ソフトとして最も売れたタイトルになっている。

 注目すべきは、3年前のタイトルでありながら、20年1~9月の間に603万本も売れているということだ。これは19年末発売の話題作『リングフィットアドベンチャー』の世界累計販売本数584万本、20年の新作『スーパーマリオ3Dコレクション』の同521万本を上回る。

 しかも、これは20年の春から秋にかけてNintendo Switchが世界的な品薄状態となり、店頭での購入が困難だった逆風下の数字だ。秋には品薄状態は解消され、年末商戦に活況が戻ったことを考慮すると、20年末までの販売本数は、1000万本前後になっている可能性が高い。

 実はこの『マリオカート8 デラックス』の現象こそが、コロナ禍でのゲーム産業の真の強さを象徴していると筆者は考えている。

『マリオカート8 デラックス』はマリオやピーチ姫、さらには多くの任天堂キャラが登場する全年齢向けレースゲームとしてロングランヒットとなっている(c)2017 Nintendo
『マリオカート8 デラックス』はマリオやピーチ姫、さらには多くの任天堂キャラが登場する全年齢向けレースゲームとしてロングランヒットとなっている(c)2017 Nintendo

ゲーム産業のビジネスモデルは十数年で変化

 一部のメディアは、コロナ禍でゲーム産業が躍進したのは外出自粛の中での「巣ごもり需要」があったからだと分析しているようだが、それだけではあまりに表層的だろう。その分析が正しいのであれば、自宅で楽しめるコンテンツを提供する産業は全て飛躍的に伸びたはずだ。しかし、必ずしもそうはなっていない。

 では何が要因か。筆者としては、『マリオカート8 デラックス』のような発売済みコンテンツが、長期的に利益を出すビジネス構造になっていることを指摘したい。長期にわたって売れ続け、遊ばれ続けるロングランヒットを複数の企業が持っていることが、今のゲーム産業の最大の武器であり、他のコンテンツ産業との違いなのである。

 これはゲーム業界が、この十数年で作り出した環境だ。30歳以上の人は知っているだろうが、ほんの20年前まで、多くのゲームファンは常に話題の新作を追いかけていた。大作ソフトであっても、発売後しばらくするとユーザーからの注目は失われ、価格が落ちていくことも珍しくなかった。1つのゲームを延々と遊び続ける人や、昔のゲームを楽しむ人もいるにはいたが、少数派だったと言っていい。

 このため、ゲーム産業は常に新しい刺激を提供しなければ生き残れない過酷な生存競争の場となった。だからこそ魅力的なゲームが次々に生まれるという好結果も生んだものの、「話題の新作を出し続けなければあっという間に失速する」という危機感と隣り合わせの不安定な産業でもあったのだ。

 この不安定さから脱却するため、2000年代に入った頃からゲーム産業は体質改善に乗り出した。新作でユーザーの興味をつなぎ留めるのではなく、1本のタイトルを継続的にプレーしてもらい、そこから利益を得るビジネスモデルへの転換を目指したのだ。

今では大作ソフトも、発売後に追加シナリオ・追加マップをリリースし、長期的にプレーしてもらうモデルに変化している。写真は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(c)2017 Nintendo
今では大作ソフトも、発売後に追加シナリオ・追加マップをリリースし、長期的にプレーしてもらうモデルに変化している。写真は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(c)2017 Nintendo

1つのゲームを長期的に遊ぶゲームスタイルが定着した

 日本における転換点は、02年にPlayStation 2(PS2)向けソフト『ファイナルファンタジーXI』(スクウェア、現スクウェア・エニックス)がシリーズ初のオンラインゲームになったことだろう。日本で最もブランド力のあるシリーズの1つが月額料金で収益を上げるビジネスモデルを採用したのだ。

 05年にはPSP向けソフト『モンスターハンター ポータブル』(カプコン)が発売。若者を中心に何百時間と遊び続けるプレーヤーが続出した。そして09年にはニンテンドーDS向けソフト『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(スクウェア・エニックス)が登場。ゲーム機を近づければ自動的に無線通信する「すれちがい通信」を活用した遊びを搭載するなど、携帯ゲーム機向けのソフトでもストーリークリア後にプレーできる要素が一般化していった。

 こうした動きは、熱心なゲームファンに限ったことではない。05年に発売されたニンテンドーDS用ソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』(脳トレ、任天堂)を筆頭に、カジュアルゲームの分野でも毎日コツコツと楽しむゲームスタイルが提案され、一大ムーブメントとなった。

 その後、この流れは携帯電話/スマートフォン向けゲーム市場に発展する。07年の『釣り★スタ』(グリー)を皮切りに、課金で利益を得る「ソーシャルゲーム」が一般化。1つのゲームを長期にわたって提供し続け、課金によって利益を上げるビジネスモデルが定着した。

 全世界規模でも同じ現象は起きている。最大の成功例は、11年リリースの『マインクラフト』(スウェーデン・モージャン、米マイクロソフト)だ。世界そのものを改造していく楽しさに満ちたこのゲームは、あらゆる大作ソフトを押しのけ、19年にはゲーム史上最も売れたゲームに上り詰めている。

 こうしたゲームが普及するにつれ、ゲームユーザーのゲームスタイルは変化していった。新作を追いかけるのではなく、お気に入りのゲームを延々と楽しむことが一般的になっていったのだ。今では、1つのゲームを1000時間、2000時間とプレーし、実力を磨き続けるプレーヤーも珍しくはない。近年、急成長を続けるeスポーツも、このような人たちが増えたことで生まれたエンターテインメントの1つだ。

 ユーザーの意識が変わったことで、ゲーム産業は話題の新作を作り続けなければ破綻する不安定なビジネスモデルから脱却し、定番タイトルさえ確保すれば長期にわたって利益を上げられるようになった。新型コロナウイルス感染症の拡大により、20年の3~9月には大作ソフトがほとんど投入されなかったが、それがダメージとならなかった理由がここにある。ゲーム産業は、すでに長期的に愛される定番ソフトを持っていた。新作ソフトが発売されなくても、定番ゲームを提供し続けることで、コロナ禍を乗り切ることに成功したのである。

『桃鉄』が象徴する「定番こそ最強」時代

 withコロナの時代となる21年以降も、この流れは変わらない。ゲームユーザーは新作かどうかを気にせず、昔のゲームも手に取るようになっている。今後のゲーム市場は定番や長く楽しめるゲームが勝つ時代がしばらく続くことになるだろう。

 その証左であるかのように、日本では20年11月に発売された『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~ 』(桃鉄、コナミデジタルエンタテインメント)が発売から2カ月を待たずして累計販売本数200万本(ダウンロードを含む)を突破するヒットを記録した。ファミコン時代から30年以上続く人気シリーズの最新作がロケットスタートを切り、過去のシリーズ作を凌駕(りょうが)する大人気となっている。

 これは日本全国を舞台にした双六(すごろく)のようなゲーム。どれだけシリーズを重ねても、ゲームの骨格をまるで変えず、のんびり楽しむことを最重視するゲームだ。このため、かつて多くのユーザーが話題の新作を追いかけていた時代には、知名度こそあったものの、ゲーム市場の主役にはならない、いわば名脇役のような存在だった。

 その『桃鉄』が20年の年末商戦の主役に躍り出たのは、長く遊べる定番ソフトこそが求められる時代になったからと分析することが可能だろう。シリーズ開始から30年以上の時を経て、ついに『桃鉄』の時代がやってきたのである。

日本全国を旅していく、双六のようなゲーム『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(コナミデジタルエンタテインメント/Nintendo Switch用ソフト)(c)さくまあきら(c)2020 Konami Digital Entertainment
日本全国を旅していく、双六のようなゲーム『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(コナミデジタルエンタテインメント/Nintendo Switch用ソフト)(c)さくまあきら(c)2020 Konami Digital Entertainment
ファミコン時代からゲームの基本ルールは変わらないが、2020年という時代にピタリと合致した(c)さくまあきら(c)2020 Konami Digital Entertainment
ファミコン時代からゲームの基本ルールは変わらないが、2020年という時代にピタリと合致した(c)さくまあきら(c)2020 Konami Digital Entertainment