「食&料理×サイエンス・テクノロジー」をテーマにしたイベント「Smart Kitchen Summit JAPAN(SKSJ) 2020」(主催シグマクシス)が2020年12月17日から19日まで3日間にわたって開催された。今回は、世界で注目が集まっている代替プロテイン(タンパク)市場について、SKSJで語られた最新トレンドをリポートする。

米国では植物性代替肉の市場が急成長している。けん引するのは、米ビヨンド・ミートと、インポッシブル・フーズ(写真/Shutterstock)
米国では植物性代替肉の市場が急成長している。けん引するのは、米ビヨンド・ミートと、インポッシブル・フーズ(写真/Shutterstock)

 SKSJ初日には、「急加速する植物性プロテイン市場:日本企業が注目すべきポイント」と「発酵が変える、代替プロテインの世界」というセッションが行われ、世界的に注目が高まっている代替プロテイン(代替タンパク)についての議論が交わされた。

植物性代替肉を支持する「フレキシタリアン」

 まず、なぜ最近、欧米を中心に代替タンパクへの注目が高まっているのか。米国の代替タンパクスタートアップであるEat Justの滝野晃將氏は、「フレキシタリアン」と「サステナビリティー(持続性)」という2つのキーワードを挙げた。

米国の代替タンパクスタートアップであるEat Justの滝野晃將氏(画像右)
米国の代替タンパクスタートアップであるEat Justの滝野晃將氏(画像右)

 フレキシタリアンとは、「フレキシブル」と「ベジタリアン」を掛け合わせた造語で、「ゆるい菜食主義者」などとも呼ばれる新しい食スタイルの人たちを指す言葉だ。植物性タンパクを選ぶ消費者のほとんどがビーガンやベジタリアンだと思い浮かべるかもしれないが、米国でも、それらの人々は1割ほどで、「約9割がフレキシタリアンを含む肉食者といわれている」と滝野氏は語る。

 では、なぜ肉ではなくて代替肉を選ぶのか。その理由が「サステナビリティー」だ。

 「植物性食品は動物性に比べて水や土地の使用が少なく、温暖化ガスの排出が少ないため、より持続性が高い。また、環境だけでなく健康や食料安全のサステナビリティーも大きなドライバーになっている。日本でも最近、高病原性鳥インフルエンザの感染拡大があったが、プラントベース食品ならそういうリスクを低減できる」(滝野氏)

 現在、米国では植物性タンパク市場が50億ドルほどあり、今後年間で10~20%くらいの成長が見込まれていると滝野氏は語る。「その中でも乳製品が一番大きい。19年には市販の牛乳の14%くらいが植物性に置き換わっており、アイスクリームやヨーグルト、チーズなどの植物性代替品も年間10%くらいの伸びを示している。植物性の代替肉は冷凍食品などが多かったが、冷蔵コーナーのひき肉タイプも50%くらい伸びている。その他はシーフードや卵の植物性代替品だ。卵に関してはEat Justの製品もあるが、年平均200%で成長するとみられている」。

 一方、アジア市場は、先行する米国市場やその次に成長著しい欧州に比べると、黎明(れいめい)期だという。「ただ、その中でも、アフリカ豚熱が広がって豚肉供給量が半減し、豚肉の植物性代替肉ニーズが増えている中国市場、食糧自給率を上げたいシンガポールの存在は大きい。日本はまだスタートアップが数えるほどで、大手食品メーカーも『植物性タンパクはビーガンやベジタリアンのもの』という意識があるように思う。植物性食品は日本で流行しないといわれるが、すでに豆乳などは定着しているし、水産物や卵は世界トップクラスの消費地。肉だけでなく卵やシーフードなどの植物性タンパク質はポテンシャルが大きい市場だと考えている」(滝野氏)。

 植物性タンパク市場は数多くのプレーヤーが参入していることでレッドオーシャンになるのではないかという質問に対しては、「既存の動物性タンパク質市場は200兆円といわれており、誰にでもチャンスがある」と滝野氏は続ける。「肉や魚、卵、乳製品などプラントベース製品のラインアップは広がっており、どんどん成長していく。いろいろなプレーヤーが出ることで消費者にも社会にも環境にもいい優れた製品が出てくると期待している」。

代替タンパクの進化は自動車業界に似ている

 では、今後の代替タンパク市場はどのように変わっていくと滝野氏はみているのか。

 「代替タンパク市場は自動車業界に似ていると思う。現在は化石燃料で動くガソリン車からEV(電気自動車)、燃料電池車と持続可能な方向に移行している。タンパク質も特に環境負荷が高い牛肉から鳥に移行しており、植物性や培養肉などに遷移していく。コンサルティング企業のA.T. カーニーが出したデータでは、今はまだ代替肉のシェアは1~2%程度だが、2025年には10%、2030年には20%、2040年には25%と、4分の1がプラントベースに置き換わるという。それに加えて35%が培養肉といわれているので、2040年には約6割が代替タンパクになる計算。このパラダイムシフトは自動車業界のように確実に起こるだろう」

 先行する米国や欧州に対して、日本企業はこの流れにどのように乗っていけばいいのか。ポイントは2つあり、「ビジョンやサステナビリティーを重視した経営・製品開発をすること、スタートアップと大企業の動きが重要」だと滝野氏は語る。

 「本気で環境問題や食料問題に取り組むのなら、自社製品に使われている肉をプラントベースに替えることにとどまらず、代替肉を自社で開発するなど、既存の事業を超えた取り組みが必要になると思う。その中で、なぜそういう取り組みをするのか。どういう世界を作りたいのかというビジョンを描き、それが分かるような製品や事業を開発していく。海外のスタートアップはビジョンが明確なので参考にできると思う」(滝野氏)

 2つ目については、日本において植物性代替タンパクに取り組む環境は、「スタートアップとして取り組む、大企業として取り組む、大企業とスタートアップが協業・提携して取り組むという3つの選択肢がある」と滝野氏は語る。その中で最も期待を寄せるのが、大企業とスタートアップの協業だ。

 「多くのハードルを改善して一番効果が高いのが、大企業が資金や技術面、具体的には開発や試験、製造でスタートアップをサポートし、協業することだと思う。プロフィットシェアにして大企業の販路を活用させてもらう、実験機器やテストプラントを活用させてもらうことはすごく効果的。先日、味の素と植物性代替肉メーカーのDAIZ(熊本市)が製品開発や販路拡大で提携を発表したが、こういう動きが、日本において代替タンパク質が進化するいいロールモデルになるかもしれない」(滝野氏)。

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