コロナ禍で再び注目を集めているドライブインシアター。これに積極的に取り組んでいるのがハッチ(東京・目黒)が運営するシアタープロデュースチーム「Do it Theater」だ。トヨタグループで車のサブスクを手がけるKINTO(名古屋市)と共同で、ドライブインシアターイベントを開催。3日間で計300台以上が参加した。新しいモビリティーエンターテインメント文化の醸成と、新規顧客開拓という両者の狙いが合致した。
そのイベントは、2020年12月25~27日に横須賀市で開催した「ドライブインシアター2020 meets KINTO」だ。25日に『秒速5センチメートル』(監督:新海誠)、26日に『時をかける少女』(監督:細田守)、27日に『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(原作・脚本・総監督:庵野秀明)と、いずれも日本を代表する監督のアニメ作品を上映した。
横須賀市の長井海の手公園の特設会場には、3日間で計300台以上の車が止まり、それぞれの車内から巨大スクリーンに映し出された映画を楽しんだ。KINTOは、各日の収容台数180台のうち50台分の入場券付き1日乗車権をプレゼントするキャンペーンを実施(KINTO営業所から会場の往復)。15日間という短い応募期間にもかかわらず募集が殺到し、大きな反響があったという。
「コロナ収束後も続く新しいモビリティーエンターテインメントとして普及させたい」。Do it Theaterの伊藤大地代表はコロナ禍で需要が急拡大したドライブインシアターの今後について、こう語った。
チケット代は8000円超でも好評
Do it Theaterは14年秋に「ドライブインシアター浜松」で、国内におけるドライブインシアターを復活させて以来、全国で数々のドライブインシアターを手掛けている。コロナ禍においてドライブインシアターへの関心は急速に高まっているといい、「19年までの全国での開催は年間で3~4件ほどだったが、20年10月末までで80件に上り、11月も全国各地で行われている」(伊藤氏)。
20年夏に東京タワー、大磯ロングビーチ、大阪万博記念公園、千葉ニュータウンで開催した「ドライブインシアター2020」には、4カ所で計940台、2100人が参加した。開催に当たりクラウドファンディングで250万円の資金を募ったところ、90日間で573万円が集まった。チケット代は特典によって1台につき8000~1万5000円と高額だったが、1日を除いて売り切れたという。
コロナ禍でエンターテインメントが少なくなっているなか、プライベート空間で楽しめるドライブインシアターへの期待の高まりが見て取れる。
伊藤氏は、「この事業がコロナ禍でのストレス緩和になり、かつ芸術活動の場として活用してもらえると期待している。クラウドファンディングにしたのも、多くの人を巻き込んだムーブメントにしたかったから」と語る。
クラウドファンディングによって得た資金は、「ドライブインシアター2020プロジェクトの中⻑期的な継続」に加え、「新型コロナウイルス対策活動基金およびミニシアター支援基金への寄付」にも活用した。
ただ、最近は大手シネコンなどもドライブインシアターへの取り組みを始めている。イオンシネマは、コロナ禍で映画館から遠のいた客足を取り戻すためにドライブインシアターに力を入れ、活路を見いだした(関連記事:「“鬼滅の刃バブル”の陰で苦戦続く コロナ禍での映画館存続戦略」)。
国内におけるドライブインシアター復活の先駆者とはいえ、大手参入への対抗策は苦労するのではないかと邪推してしまうが、「競合は意識しない」と伊藤氏。というのも、Do it Theaterは「シアター=意思を持つ人々が集う、新しいコミュニケーション空間」ととらえている。ただ映画を上映するのではなく、イベント会場に仕立て、その体験自体を付加価値として楽しんでもらう「新しいエンターテインメント」(伊藤氏)としてドライブインシアターを提案しているのだ。
例えば、ドライブインシアター2020ではコスチューム姿のスタッフがアメニティーを配り、複数のフードトラックが食事を準備した。アメニティーの写真をSNSにアップする人も多く、「イベント体験そのものを楽しみにしてくれる人が多い」(伊藤氏)。
その一方で、観客は一切車外に出さず、食事はスタッフが配膳するようにしたり、医師の監修のもと、会場で感染予防に関するチラシを配布したりと、感染予防対策を徹底した。この姿勢がコロナ禍に対応したシアター体験として評価され、ドライブインシアター2020は20年度の「グッドデザイン賞」を受賞している。
今回のドライブインシアター2020 meets KINTOの開催は、こうした成果に注目したKINTOから声が掛かったものだ。息の長い新しいモビリティーエンターテインメント文化をつくるために、ドライブインスタイルの新しい可能性を追求したいDo it Theaterは、各分野の企業とコラボレーションをしたいと考えており、新規顧客を開拓したいKINTOの狙いとマッチした。
Do it Theaterの主なターゲットは20代~30代。この層は乗用車を持っていない人が多い。29歳以下の乗用車普及率は52.8%と、約半数にとどまる(内閣府「消費動向調査」2020年3月調査、世帯主の年齢階級別)。車がないと参加できないドライブインシアターと月額制の新車販売サービスの利用を推進したいKINTOが組んで双方の利用者を増やせれば、まさにWin-Winの関係となる。
Do it Theaterでは、今後も映画祭や音楽、エコといったテーマを掲げて、次なる企業とのコラボレーションを検討していくという。映画を見る場としてはもちろん、さまざまな企業と消費者をつなぐコミュニケーションの場としてもドライブインシアターが活用されそうだ。
(写真提供/Do it Theater)