コロナ禍で化粧品業界の接客も変化への対応を余儀なくされている。ポーラは対面販売と並行して、2020年6月から全国でオンラインカウンセリングを取り入れ1200以上の店舗で実施している(21年1月現在)。肌質診断など個別最適化された接客にこだわる同社は、オンラインでもその姿勢は変えないという。顧客体験はどう変化するのか。

ポーラは2020年6月から全国1200店舗以上でオンラインカウンセリングを取り入れた
ポーラは2020年6月から全国1200店舗以上でオンラインカウンセリングを取り入れた

 ポーラのオンラインカウンセリングは、事前予約制で1回約30分。ビデオ会議ツールの「Zoom」を使用し、「ビューティーディレクター(BD)」と呼ばれる販売員が、肌やライフスタイルの悩み、理想の肌などを顧客から聞き取って、季節に合わせた手入れや実践的なスキンケア、メーク、生活習慣などをアドバイスする。その中でお薦めの商品を紹介。店舗で購入した商品のアフターフォローや、家でできるセルフマッサージ、メーク方法などを教える1対多のワークショップも行っている。

 2020年6月から全国で導入を始めた。当初は同年9月までに1000店舗を目標としていたが、1カ月前倒しの8月に達成。21年1月13日時点では1254店舗にまで拡大した。

 ポーラTB市場企画部顧客戦略チームリーダーの小池章仁氏によると、準備を始めたのは1回目の緊急事態宣言が発令されていた20年4月下旬のこと。「顧客とこれまで通りのコミュニケーションが取れなくなったBDの支援策としてスタートした」(小池氏)。コロナ禍の外出自粛下であっても顧客とブランドとのエンゲージメントを高め、接点を増やすことが狙いだった。

 創業90年を超えるポーラはセールスレディーの先駆け「ポーラレディ」による訪問販売から事業をスタート。個人の肌質や悩みに合った商品をその場で提供するカウンセリングサービスを強みとした。ポーラレディがBDと呼ばれるようになった現在でもそれは受け継がれており、カウンセリング後の商品は店舗での購入を原則としていたり店舗でエステを実施していたりと、一人ひとりにパーソナライズされたコミュニケーションを重視している。

 それが外出自粛で難しくなったため、オンラインでもカウンセリングができるシステムとして採用した。緊急事態宣言が明けた20年5月7日から首都圏でテストマーケティングを行い、手応えを得られたため、6月から全国で展開した。

 導入開始当初に掲げた1000店舗というのは、同社が抱える全国約4000店舗の約25%に当たる。初めから高いハードルを設定したのは、「新しいことを始めるときには、“やれる感”が伝わらないと有効ではないから。そのため、無理やりでも高い数字を設定した」と、小池氏。5月のテストマーケティングでの成功もスピーディーな全国展開を後押ししたという。「規模は小さくてもいいから成功モデルを作ることが鍵になる」と話す。

ポーラTB市場企画部顧客戦略チームリーダー小池章仁氏
ポーラTB市場企画部顧客戦略チームリーダー小池章仁氏

 実は、コロナ禍以前からオンラインカウンセリングの導入は検討していたという。

 「AI(人工知能)にできない血が通ったコミュニケーションを大事にしている。その一方で、世の中の変化に沿ってその姿勢を体現する方法は進化させる必要がある。リアルを大事にしながらオンラインをうまく活用する方法を検討していたが、コロナ禍でデジタル施策が“重要”から“必要”に切り替わった。そのタイミングでスタートしたいと考えた」(小池氏)

 ツールにZoomを選んだのは、「できるだけシンプルで、双方向のコミュニケーションが取れる、使い勝手のいいもの」だったからだ。シンプルであれば社内、顧客ともに教育がスムーズで、スピードアップにつながるし、ユーザビリティーも上がる。初めて利用する客には図で使い方を提示するなど、デジタルリテラシーの低い顧客も支援する。

 「取り組んでもらうためのウルトラCはない。徐々に慣れてもらうこと。ハードルを下げて“できる感”を持ってもらうというマインドセットが大切。一度体験してみると、『案外できるかも』と感じるようになる」(小池氏)

オンラインで顧客獲得機会を拡大

 予定より前倒しで、当初の目標を超える1200店舗以上にオンラインカウンセリングを導入したポーラ。今後はさまざまなサービスのオンライン対応を進め、顧客獲得機会の拡大につなげる。21年1月時点でオンラインカウンセリングやワークショップなどからの新規顧客獲得数は全体の7%だが、21年度中には15%に引き上げ、顧客との接点の柱に育てたい考えだ。

 具体的な取り組みの一つが、店舗で実施しているエステの予約のオンライン化。リクルートライフスタイル(東京・千代田)のオンライン予約システム「ホットペッパービューティー」に窓口を集約した。特に首都圏では利用率が高い。店舗が運営するSNSからの流入もあり、首都圏に絞れば、オンラインでの新規顧客獲得比率はすでに目標を大きく上回る25%に達しているという。

 近年は他社とのコラボレーションにも積極的に取り組む。20年は結婚相談所や大学、専門学校など向けにオンラインのメークレッスンを行った。「カーディーラーの店舗など、これまでもリアルな店舗とのコラボは行っていた。オンラインでも親和性が高いところとは組んで、新規顧客獲得機会の開拓に活路を見いだしたい」と、小池氏は意欲を示す。

 ただし、オンラインカウンセリングをはじめとしたオンライン化の取り組みは「最終的には(店舗での)商品購入につなげるのが目的であり、あくまでも手段。リアルの置き換えではなく顧客体験を高めるもの」と小池氏は語る。

 では、その顧客体験は実際どのように変化したのか。既存客へのフォローアップをメインにスタートした際は、「久しぶりに顔が見られてうれしい、気を使ってもらえてうれしい」と顧客の満足感が高まったという。「自宅で受けられるため、自分だけの時間といったプライベート感をより味わってもらえている」と、小池氏は実感したという。

 新規顧客からも、「ちょっとした隙間時間や仕事終わりに気軽に試せるのがオンラインならではのメリット。いきなり店舗に行くのは緊張するし、物理的な距離もあるが、そのハードルは下がった」と好評だ。

 リアル店舗で購入した後、短時間でできるフォローアップとしてオンラインを利用する新規顧客も多く、リピート意欲も高いという。カウンセリングを実施するBDからも、「ダイレクトに喜んでもらえるのは励みになる」「盛り上がりすぎて時間が足りない」などとポジティブな声が多い。加えて、1対多で行うワークショップはカウンセリングへの足掛かりにもなる。

 ちなみに新規顧客がこうしたサービスを利用するきっかけとしてとりわけ多いのが、すでに利用している人からの紹介だという。3世代にわたって顧客になるケースもある同社では、すでに商品を愛用している顧客から紹介されて来店する新規顧客がもともと多い。それに加えて、オンライン対応でカウンセリングのハードルを下げたことで、同社のカウンセリングを初めて体験した顧客が別の新たな顧客との縁を運んでくるというケースも増えている。

 小池氏は「ポーラの店舗は地域に根差しており、各店舗の特性がはっきりしている。全ての店舗にオンラインへの対応を無理強いする必要はない」としながらも、オンライン化が働く側にもたらすメリットに言及した。「BDによってはオンラインカウンセリングのほうが合う人もいる。デジタルへの親和性など、個々の持つ強みを分散でき、人の価値、個性をより発揮しやすくなる。また、BDは委託販売契約に基づく個人営業主。個々の判断によって、新型コロナウイルス感染症の収束後もオンラインカウンセリングを顧客とのタッチポイントとして活用することに利点を見いだす人が多い」と言う。

 その上で、オンラインカウンセリングを定着させるには、「BD自身が成果を実感できることが必要」との見解を示した。現状はオンラインカウンセリングで薦められた商品も原則店舗でしか購入できない。カウンセリング後に直接購入できれば、BDのやりがいにつながるだろう。「今後はECチャネルとの連携といったインフラ整備が課題になる」(小池氏)。

 小池氏は「あくまでも対面重視の姿勢は変わらない。リアルとオンラインを有機的に融合させて、ポーラらしい新たなコミュニケーションを構築したい」と結んだ。

(写真提供/ポーラ)

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