東京ガスが2020年3月に始めた「ふろ恋プロジェクト」が、ここまで好調に推移している。ほとんど宣伝しないのに、対応ゲームアプリはここまで毎月約5000ダウンロードを達成。アプリの翌月継続率も40%とかなり高い。いったいどんなメッセージをユーザーに提示しているのか──。「ふろ恋」の秘密をひもといた。
2020年3月12日にリリースしたスマートフォン向け(iOS、Android対応)ゲームアプリ「ふろ恋 私だけの入浴執事」は、広告出稿はもちろん、プロモーションらしいプロモーションをほとんどしていないにもかかわらず、ほぼ口コミだけで現在まで毎月約5000ダウンロードを継続して達成。しかも、ダウンロードしたユーザーが翌月もアプリを稼働させる「翌月継続率」は約40%に達する。ゲームの分野で最も継続率が高いカジュアルゲームでも15%程度とされるので、かなりの高率だ。
好調なのはアプリだけではない。同時にスタートした公式Twitterのフォロワー数は20年11月末時点で2万弱に上り、Twitter上には「神アプリ」「日々の癒やしになっています」「東京ガスさん、ありがとう」など、アプリに対する感謝のコメントがあふれる。東京ガスの独自調査ではあるが、こうしたアプリユーザーの一定数に「『ふろ恋』のプレイ前後で『東京ガス』への印象は変わりましたか?」と尋ねたところ、回答者の77%が好意的な回答を寄せているという(「とても良くなった」32%、「良くなった」45%)。
20~30代の若い女性を狙った
このふろ恋プロジェクトの狙いは、「20~30代の若い女性を中心に、独身者だけでなく既婚者も含めて、入浴習慣と東京ガスを認知させ、入浴の価値を見直してもらいたい」(東京ガスリビング営業計画部デジタルマーケティンググループの柴田優氏)というものだ。
これまで東京ガスは、「ライフバル」と名付けた拠点会社を営業エリアに幅広く展開し、担当者が在宅時に訪問することで、顧客の開拓やサポートに当たってきた。しかし、若い世帯については、共働きが増えたこともあり、従来のアプローチでは「リーチ」することが難しい。しかも若い女性は入浴をシャワーだけで済ませることも多く、「風呂の価値が機能性だけで測られがちだった」(柴田氏)。そこへ自由化の大波が到来し、顧客獲得競争が激化した。このまま手をこまぬいていれば、将来の重要な顧客である若年層が、東京ガス、ひいては入浴そのものから離れていってしまう可能性が高まる。
そこで、恋愛ゲームと風呂を掛け合わせたゲームアプリを制作し、20~30代の若い女性を中心に、「風呂、つまり入浴には『癒やし』の価値もある」(柴田氏)ことを訴え、入浴習慣を取り戻してもらい、併せて東京ガスのイメージを引き上げることを狙ったのだ。
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