音楽配信サービス大手Spotifyの日本法人スポティファイジャパン(東京・渋谷)が2020年11月26日、日本のアーティストのパフォーマンスを国内外に配信する有料オンラインライブイベント「Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020」を開催する。人気アイドルグループ「嵐」や「Perfume」など計7組が出演し、日本を含め米国やアジア各国など12の国と地域で有料配信する。同社がオンラインライブを配信するのは初。オンラインで開催することで海外の音楽ファンにも訴求し、日本のアーティストの楽曲再生数増加や海外展開につなげたい考えだ。

左より、イープラス 常務執行役員 松田勝一郎氏、スポティファイジャパン コンテンツ統括 芦澤紀子氏、クリエイティブマンプロダクション 代表取締役 清水直樹氏
左より、イープラス 常務執行役員 松田勝一郎氏、スポティファイジャパン コンテンツ統括 芦澤紀子氏、クリエイティブマンプロダクション 代表取締役 清水直樹氏

 チケット販売のイープラス(東京・渋谷)とサマーソニックをはじめとするロックフェスやライブの企画制作で知られるクリエイティブマンプロダクション(東京・渋谷)と3社で実施する。

 出演アーティストはスポティファイジャパンの人気プレイリスト(音楽リスト)「Tokyo Super Hits」をコンセプトにして決めた。「嵐」「Perfume」「End of the World」「[Alexandros]」「ビッケブランカ」「Vaundy」「マカロニえんぴつ」の7組が出演予定で、ライブは20時から約2時間30分の予定。海外に配信するため時差を考慮して2020年11月27日の24時間、見逃し配信も実施する。チケットの価格は日本国内の場合3500円(税込み)。

 利用者は、イープラスのチケット制ライブ配信サービス「Streaming+」を使ってライブを視聴する。スポティファイのユーザーなら、出演するアーティストのコンサート情報などからイープラスに移動して、ライブチケットを購入できる仕組み。クリエイティブマンプロダクションは、アーティストのブッキングやステージ運営などを担当する。

新規ユーザーの獲得につなげたい

 スポティファイジャパン コンテンツ統括 芦澤紀子氏は、日本でもストリーミングが浸透し、プレイリストを通じて音楽を聴くという習慣が定着しつつあると語る。

 「海外では人気プレイリストがブランドとして確立され、1つのメディアのような力を持ち始めている。日本の音楽シーンではTokyo Super Hitsが代表的なプレイリストとして国内外に発信されて人気がある。このプレイリストをより多角的に楽しんでほしいと考え、ライブと掛け合わせた形で提供しようと考えた」(芦澤氏)

スポティファイジャパン コンテンツ統括 芦澤紀子氏
スポティファイジャパン コンテンツ統括 芦澤紀子氏

 海外のスポティファイでは、人気プレイリストをコンセプトにしたリアルでのライブを開催したところ、新規ユーザーが爆発的に増えたという。それを日本でも行うのが狙いだ。スポティファイでは初となるオンラインライブとして世界に向けて配信すれば、海外のリスナー獲得にもつながる。

 「コロナ禍で音楽フェスやアーティストのツアーが中止されている。しかし消極的な意味でオンラインライブをするのではなく、海外のリスナーにも見てもらえるなど、オンラインの利点を生かした新しいライブイベントのやり方があるのではないか。日本のアーティストを世界に紹介し表現の場を提供することで、日本の音楽業界を活性化できるのではと考えた」(芦澤氏)

 世界的にサービスを展開して3億2000万人のユーザーを持つスポティファイは、アーティストがどの国や地域でどんなユーザーに聴かれているのかといった、膨大なリスニングデータを持っている。日本のアーティストが出演するイベントのチケットを海外で売るために、そのデータを活用している。

 「スポティファイには“ファンズファースト”と呼ぶ仕組みがある。アーティストそれぞれについて、リスニングデータからトップリスナーと呼ぶ熱心なファンを算出し、その人にライブ情報やチケット購入リンクなどをメールで直接知らせる仕組みだ。ファンズファーストは全世界で行っているが、今回はオンラインライブを開催する12カ国・地域のトップリスナーに対して、この仕組みを使って告知をしている」(芦澤氏)

 そのほか、出演アーティストや近いジャンルのアーティストの楽曲を聴いている人に向けてバナーを表示するなどのプロモーションも行っている。

スポティファイでアーティストのコンサート情報が分かり、そこからイープラスに移動して、ライブチケットを購入できる
スポティファイでアーティストのコンサート情報が分かり、そこからイープラスに移動して、ライブチケットを購入できる

 スポティファイジャパンは動画配信の仕組みを持っていないため、イープラスやクリエイティブマンプロダクションと共同で行うことになった。イープラスは16年よりインバウンド需要向けに海外でもチケット販売を行っており、その仕組みを利用する。

 イープラス 常務執行役員 松田勝一郎氏は、アーティストがきちんと収益を上げられる仕組みが大事だと語る。「イープラスは全世界にライブ配信が可能な仕組みを持っている。12の国と地域への配信になったのは、出演者にきちんと還流できるように、著作権処理や納税処理に対応できるところに限定したため」という。

イープラス 常務執行役員 松田勝一郎氏
イープラス 常務執行役員 松田勝一郎氏

 スポティファイの強みは、全世界的なリスニングデータを持っていて、世界のリスナーとアーティストをつなげられることだ。それがwithコロナでのリアルライブにつながると、クリエイティブマンプロダクション 代表取締役 清水直樹氏は語る。

 「スポティファイを通じてどこでどれだけ音楽が聴かれているかが分かるし、チケットもどこでどれだけ売れたか分かる。そうしたデータから、そのアーティストの人気が高い国や地域を分析できれば、人気がある地域を選んでライブを開催するなど、経費を抑えて無理のないツアーができるようになる。そうした面から、スポティファイやイープラスと組むことは我々にとってメリットが大きい」(清水氏)

クリエイティブマンプロダクション 代表取締役 清水直樹氏
クリエイティブマンプロダクション 代表取締役 清水直樹氏

 プレイリストの名前を冠したライブイベントをオンラインで開催するのはスポティファイにとって初となる。2回目以降の予定はまだないが、芦澤氏は「今回の結果を踏まえて前向きに検討していきたい。今回の取り組みはスポティファイ社内でも注目されている」と話す。

 人気プレイリストのブランドとオンライン開催により、国内外の音楽ファンに広く訴求する今回のライブイベント。日本のアーティストの再生数増加や海外進出につながれば、日本の音楽シーンの活性化につながりそうだ。

スポティファイジャパンでは注目の新進アーティストを集めたライブ「Spotify Early Noise Night」を17年5月よりこれまで12回開催している。3社の協業はそれをきっかけに始まった
スポティファイジャパンでは注目の新進アーティストを集めたライブ「Spotify Early Noise Night」を17年5月よりこれまで12回開催している。3社の協業はそれをきっかけに始まった

(写真/武田光司)

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