劇場版「鬼滅の刃」が歴史的なヒットを記録している一方、供給作品の減少や密を避けて客足が遠のくなどコロナ禍のあおりを受けている全国の映画館。対応策は各社さまざまだ。ドライブインシアターに力を入れるシネコンや、独自路線で満席が続出したミニシアターも。新時代の映画館戦略を探る。
間引き販売継続イオンシネマの新施策
映画館は、2020年9月19日にコンサートや演劇などイベント開催時の制限が緩和されたことに伴い、それまで半数にとどめざるを得なかった映画館の座席販売が全席販売可能になった。ただし、業界団体である全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)が作成した映画館の感染拡大防止ガイドラインに基づき、全席販売の場合はフードの販売ができず、持ち込めるのは飲み物だけ(12月1日施行版では制限付きで上映中の食事を許可)。観客側に全席販売への不安があることを鑑み、あえて全席販売を控える映画館もある。映画館の規模や客層、立地条件などによって、各社の判断は分かれるというのが現状といっていい。
大手シネコンは、109シネマズ、ティ・ジョイ、テアトルシネマ、チネチッタ、TOHOシネマズ、ユナイテッド・シネマなどほとんどが、一部上映日を除いて全席販売に踏み切った。
そんな中、全劇場で間引き販売を継続しているのが国内最大の92劇場を抱えるイオンシネマだ。原則、前後左右を1席ずつ空けているため、満席でも動員数は通常の50%となる。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で映画館から客足が遠のく中、動員数の減少は痛手だが、間引き販売による観客の安心感を優先した。その結果、「間引き販売をしているからイオンシネマを選んだと足を運んでくださる方が増えた」とイオンシネマの担当者。今後、全席販売に戻す場合も一定期間の告知期間を設けて周知を徹底する方針だ。
劇場での間引き販売を続ける一方、新たな観客獲得策にも力を入れる。屋外の大型スクリーンに映し出された映画を車に乗ったまま鑑賞できる「ドライブインシアター」だ。会場はイオングループ施設の駐車場で、20年7月31日にイオンモール千葉ニュータウンなど全国10会場でスタート。同日の動員数は全会場合わせて800人(車両数は300台)を超える盛況だった。
現在は40会場以上で実施しており、収容台数は会場によって30~120台。料金は1台3000円(新作は3300円)で2人分のポップコーンとドリンクが付く。なお、車の乗員定員数内であれば2人以上でも鑑賞できる。
ドライブインシアターはコロナ禍で注目され、単発のイベント開催もされている。しかし、イオンシネマはあくまで“日常使い”に重点を置く。毎週10会場以上で上映し、新作からヒット作などの上映作品を幅広く取り扱う。「『くらしに、シネマを。』をコンセプトに、できるだけ多くの地域の皆さまが日常の中でふと非日常を味わえる空間にしたい」と、イオンエンターテイメント新規事業部事業部長の久保野純也氏。20年10月末時点での上映回数は200回に上った。
客層は友人同士や家族が多く、映画館では味わえないプライベート空間でリラックスしながら映画を楽しんでいるという。「中でも小さいお子さまを連れたご家族が多い。周囲に気を使わなくていいため、久々に家族で映画を楽しめたという声もいただいている」(久保野氏)。
実施時間に制約があり、天候にも左右されるため課題も多いが、同社のドライブインシアターはもともと「劇場のない地域にも映画を」という思いで19年からスタートした移動上映に端を発する。それが期せずしてコロナ禍の窮状を救う一手となった。
「グループには集客イベントが軒並み中止に追い込まれている店舗も多い。そんな中、屋外で実施できるドライブインシアターは、他のショッピングモールとの差異化にもつながるのではないか」と久保野氏は期待をかける。
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