「DX」(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが今、注目されている。「データとデジタル技術を使った企業変革」を指すが、マーケティングの改革こそその本丸だ。新たに生じるデータの収集・分析から始めてDXを実践した企業には、明るい未来が待っている。
DXとは一般的に、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、ユーザーや社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することを指す。
大上段な取り組みに見えたせいか、2019年ごろまでは、日本でDXに本格的に取り組む企業はまだ少なかった。ところが、20年に新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大。世界の多くの企業で、テクノロジーの活用による、業務の効率化やユーザー対応の高度化が一気に進んだ。まさにコロナ禍のおかげでDXの推進が加速された格好で、日本でも多くの企業で、「DXの推進」が錦の御旗になっている。
DXの本丸はマーケティング
このDXの本丸とも言えるのがマーケティングだ。
いい製品やサービスを作れば売れた時代はとうに過ぎている。キャッシュレスやD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)、サブスクリプションビジネスなどが普及段階に入ると、ネットとテクノロジーを使ってユーザー(市場)の声を収集することが容易になる。そうして得られたデータを分析し、商品やサービスの開発に反映する。そして適切なユーザーに、適切なタイミングで、適切なメッセージを伝え、商品やサービスを購入したり、利用したりしてもらう。そして再びユーザーの声に耳を傾け、日々改善を続ける……。
こうした、DXをマーケティングや新規事業開発の視点から実行する取り組み、すなわちマーケティングDXが、どんな企業にとっても欠かせないものになってきたのだ。
2年前より17%増えている
実際、日本でも、マーケティングDXを導入し、活用しようという機運は高まっている。データ活用の支援会社であるDataSign(東京・港)が行っている、日本の上場企業のWebサイトでのデジタルマーケティング関連を中心とした調査によると、20年8月は2年前よりも活用しているサービス数が17%増えた。各企業がユーザーの傾向を分析し、マーケティングに生かそうとしていることがうかがえる。
DX先進企業は業績も好調
マーケティングの領域だけにとどまらないが、DXに取り組む企業とそうでない企業との業績差を指摘する調査もある。
経済産業省が東京証券取引所と共同で20年8月に発表した、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」の調査によると、DXに取り組む先進企業は業績が高いというデータがある。3年間の自己資本利益率(ROE)の平均を見ると、DXへの取り組みが優秀であると認定された「DX銘柄2020」の企業は7割以上がROE8%以上となった。
多くの企業にとって、マーケティングDXを実践するには、組織の整備や人材の確保など課題が山積している。とはいえ、実践しない企業に明るい未来は待っていない。まずは新たなユーザーデータを収集・分析し、商品やサービスの開発やプロモーションなどマーケティングの高度化から取り組むのがよさそうだ。

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