大臣が20GBプランに満足する理由

 このアクション・プランが打ち出された直後から、携帯電話各社は早速動きを見せた。政府の批判対象となっている3社の中で、料金面で明確な引き下げの姿勢を打ち出したのがKDDIとソフトバンクである。

 KDDIはアクションプラン公表の翌日となる20年10月28日、UQコミュニケーションズ(東京・港)から事業承継し同社のサブブランドとなった「UQ mobile」で、新料金プラン「スマホプランV」の投入を発表した。これは20GBの高速データ通信が月額3980円で利用できるプランとなる。

KDDIが「UQ mobile」ブランドで提供を予定している「スマホプランV」。通信量20GBで月額3980円での利用が可能なことから、世界的にも安い水準にあることをアピールしている
KDDIが「UQ mobile」ブランドで提供を予定している「スマホプランV」。通信量20GBで月額3980円での利用が可能なことから、世界的にも安い水準にあることをアピールしている

 ソフトバンクも同日、「ソフトバンク」「ワイモバイル」両ブランドのMNP転出手数料を無料にするとしたほか、ワイモバイルブランドで新料金プラン「シンプル20」を提供すると発表した。こちらも高速データ通信量20GBのプランで、月額4480円とUQのスマホプランVよりやや高い代わりに、1回当たり10分間の定額通話が付くのが特徴となる。

ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドで提供予定の「シンプル20」。月額4480円で20GBの通信量と1回当たり10分間の定額通話が付くが、割引オプションの適用はできない
ソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドで提供予定の「シンプル20」。月額4480円で20GBの通信量と1回当たり10分間の定額通話が付くが、割引オプションの適用はできない

 なぜ20GBで4000円前後のプランを提供するのかといえば、先の内外価格差調査で、東京の20GBプランの料金が最も高いとされたためだ。同調査では「シェア上位3または4事業者(サブブランドを含む)が提供する料金プランのうち、最も安いポストペイド型の一般利用者向けのもの(新規契約の場合)」の月額料金を比較しており、東京の最安プランの料金は6877円とされている。これを踏まえた上で菅氏のかつての発言を受け、同金額よりおよそ4割安い、4000円前後のプランを提供するに至ったと言える。

 ただこのプランはあくまでサブブランド向けで、より多くの人が契約している「au」「ソフトバンク」の料金プランには手が付けられていない。そういう意味ではメインブランドの料金水準を守りながら、政府に値下げをアピールするために作られた料金プランとも言えるもので、SNSなどでの一般ユーザーからの評価は決して高いとは言えない。それでも武田大臣は20年10月30日の会見で、「各社ともアクション・プランに対してしっかりと対応していただいておるんだろうと思っている」と話すなど、これらプランを評価しているようだった。

 この政府の姿勢には冷ややかな視線を送る一般ユーザーも多いものの、先の内外価格差調査ではサブブランドも比較対象になっているし、そもそも政権肝煎りとはいえ、自由化されている携帯電話市場に対し、政府が打てるのは規制や行政指導などによる市場競争の公正性を確保する施策まで。携帯電話市場の料金を直接コントロールすることはできない。そこでひとまずは、競争促進のためのアクション・プランを打ち出したことと、値下げを携帯2社から引き出したことを成果とし、今後の市場の動きを見たいというのが政府の考えなのだろう。

「ドコモのサブブランド」が今後の焦点

 料金に関する今後の動向を見据える上で、焦点となるのはやはり、3社の中でまだ態度を明らかにしていないNTTドコモの動きだ。同社については20年9月29日に、日本電信電話(NTT)が完全子会社化することを発表。20年11月16日まではNTTによる株式公開買い付け(TOB)が実施されていたため、株価に大きく影響する可能性が高い料金関連の施策を打ち出しにくいという状況があった。

 このため、同社が料金施策を打ち出すのはTOB以後となりそうだが、その施策として有力視されているのがサブブランドの設立だ。NTTドコモはこれまで、回線を多く貸し出しているMVNOへの配慮などもあって、サブブランド展開には否定的だった。だが、今後NTTが経営を主導する形となるため、方針を転換する可能性は十分考えられるだろう。

 ただし、同社のサブブランド展開は、携帯3社の市場寡占を一層加速する可能性も秘めている。そもそもKDDIやソフトバンクがサブブランドに力を入れるのは、自社内で低価格のサービスを提供することで顧客が他社に流出するのを防ぐ狙いが大きいのだ。

 実際2社がサブブランドに力を入れて以降、低価格を求めて携帯大手から流出する顧客を獲得して急成長してきたMVNOは苦境に陥り、純減に転じる事業者も出始めている。もしNTTドコモがサブブランドを始めれば、大手3社から流出する顧客は一層減少し、顧客基盤が弱いMVNOが窮地に立たされかねない。それはMVNOだけでなく、20年に本格サービスを開始したばかりで顧客基盤が弱く、エリア整備も途上でまだ大手と直接対抗する実力に乏しい、楽天モバイルにも言えることだ。

 菅政権肝煎りの携帯電話料金引き下げ。動向は今後のNTTドコモの出方次第だが、こうした取り組みが大手3社のサブブランド強化につながり、政府が懸念する寡占を加速する可能性があるというのは、何とも皮肉な話である。

2020年11月4日にMNP転出や契約事務手数料の無料化など「ZERO宣言」を打ち出し、攻めの姿勢を続ける新興の楽天モバイルだが、NTTドコモのサブブランド展開は同社にとって大きな痛手となる可能性が高い
2020年11月4日にMNP転出や契約事務手数料の無料化など「ZERO宣言」を打ち出し、攻めの姿勢を続ける新興の楽天モバイルだが、NTTドコモのサブブランド展開は同社にとって大きな痛手となる可能性が高い

(写真/佐野 正弘)