ニトリホールディングスが家具・ホームセンターを展開する島忠の買収に名乗りを上げた。島忠はその提案を受け入れる模様だ。揺れ動く状況の中、「島忠 ホームズ尼崎店」が2020年10月27日、改装オープンした。パートナーは蔦屋書店(東京・渋谷)。1号店の成功を受け、書店とのコラボで新たな客層を開拓する。
新業態1号店のホームズ新山下店は全国トップに
蔦屋書店と協業した1号店「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」が開業したのは2018年12月(関連記事:家具が買える書店 島忠がTSUTAYAと新業態)。家具とブック&カフェを融合したライフスタイル型の新業態は、業績が下降線をたどっていた島忠にとっては、起死回生の切り札だった。
「島忠ならでは、という思い込みに縛られ、変化への対応が遅れてしまい、多様化する生活者のニーズと期待に年々応えられなくなっていた」と、島忠の櫛田茂幸専務は振り返る。
そこで新たな戦略を模索するため、島忠は18年8月にTSUTAYA(現・蔦屋書店)とフランチャイズチェーン(FC)契約を締結。中期経営計画の中でも掲げている「お客様の生活に寄り添ったライフスタイルの提案」を目指し、家具売り場と相乗効果を生む新業態の開発に社運をかけることにした。
リニューアル当初は既存客が離れる不安もあったが、旧来型のビジネスからの脱却を図ったことが奏功し、レジ客数、来店頻度、客単価ともに右肩上がりで推移。「20年8月期には、これまで不動の一番店だった横須賀店を抜き、新山下店がトップに躍り出た」(櫛田専務)。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も軽微にとどまっている。家具の需要は減っているものの、ホームセンターが好調を維持し、店舗全体では売り上げ、客数ともに伸ばしている。
新業態の導入でホームズ新山下店に来店する客層も大きく様変わりした。Tポイントのデータによると、とりわけ35歳以下の若年層が大幅に増え、そのうち新規来店者が34%を占めるという。この順調な滑り出しを切った1号店の運営ノウハウを踏襲し、西日本初出店で提携2号店となる「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ尼崎店」は、1号店よりもさらに家具とブック&カフェの融合を進化させている。
メインターゲットは30代のニューファミリー
「ホームズ尼崎店」は21年1月でオープン20周年を迎える。店舗は2層で約1万400平方メートル。顧客のニーズを吸い上げてこなかっただけでなく、建物の老朽化が進んでいたことも全面リニューアルを決意するきっかけとなった。
リニューアルのコンセプトは「だから、ずっと、つきあえる。」とし、2階にはSDGs(持続可能な開発目標)を意識した売り場も設け、新たな店舗イメージを発信している。ターゲットは従来の顧客である40代以上のファミリーとプレミアエイジに加え、30代のニューファミリー層をメインに設定した。1階ホームセンターフロアには顧客からの要望が多かったスーパーマーケットを誘致し、関東で「食生活 ロピア」を51店舗展開するロピア(川崎市)が関西2号店を出店。リニューアル後の売り上げ目標は、前年比10%増を目指している。
蔦屋書店と協業した2号店「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ尼崎店」は2階フロアに位置し、店舗面積は約6600平方メートル。家具とホームファッション売り場が約5300平方メートル、雑貨・文具とアウトドア、キッズスペースも含めたブック&カフェ売り場が約1300平方メートルで、蔦屋書店のフランチャイジーとして島忠が運営する。
書籍は約13万冊を取り扱い、そのうち児童書は約1万5000冊、コミックは約3万7000冊で市内随一の品ぞろえを誇る。「尼崎の『くらし』を楽しく豊かにするBOOK & CAFE」をコンセプトに、食、美容・健康、暮らしなど7つのテーマを設け、書籍と関連雑貨を融合したゾーニングで売り場を設計。そこに家具も加えたことで、生活シーンをイメージしやすく、より暮らしが豊かになる発見につながる体験型の売り場となっている。
「フロア全体がカフェのような居心地のいい空間になるように設計した。カフェのソファとテーブルでコーヒーを飲みながらくつろいでもらい、お気に入りの一点を見つけてほしい」と、島忠・新店イノベーション部の寺澤俊作氏は話す。
雨天でも遊べる大型遊具とアウトドアコーナーも
新山下店との違いは、体験型売り場をより進化させた点。「1号店では、本と家具をショールーム的に見せることに注力したが、尼崎店では仕掛けとしてさまざまな体験を随所で演出している」と関西TSUTAYA(大阪府吹田市)の久保田加津也社長。
例えば飲食店運営のカフェ・カンパニー(東京・渋谷)が手がけるカフェスペース「ル・ガラージュ」のテーブルや椅子は、すべて島忠で販売している商品を使用。コーヒーを飲みながら“書斎での読書”を体験できるようになっている。座ってみて気に入った家具があれば購入も可能。驚くのは家具売り場のソファやダイニングテーブルでも、ドリンクを片手にそこで読書ができることだ。
店内に2カ所ある「キッズスペース」には、“雨の日でも室内で遊べる公園”をテーマに遊具コーナーを設けた。アスレチック風の遊具やお絵描きができる黒板、ボルダリングなど小さな子供が自由に遊べる遊具を配置し、親子がゆっくり過ごせるように工夫した。児童書コーナーにも購入可能な子供椅子が置かれ、自由に遊べる空間と知育グッズが用意されている。
キッズスペースに隣接したアウトドアコーナーには、アウトドアグッズとともにキャンプや山登り、釣りなどアウトドア関連書籍や旅行書を販売。アウトドア用のテーブル、チェア、テントを使って、親子で外遊びの体験ができる。
さらに家具売り場には、いくつかのテーマに沿って家具と本、雑貨を融合したコーナーがあり、見ているだけでも楽しい。「せかいにひとつだけ」という名称のコーナーでは、間伐材のひのきを使った家具を陳列し、本棚には環境系の書籍が並べられている。「おかたづけはたのしい」のコーナーには、ポップな収納グッズと絵本や収納本が並び、親子で収納を学べる空間になっている。
「提案型の区画というよりも、家具売り場や本売り場などが自然につながっている売り場づくりを目指した」と久保田社長。他にもキッチン雑貨の横に料理本、収納用品売り場には収納のノウハウ本など、本と関連性のある商品を軸にした売り場は、客単価のアップが期待できる。
これまで島忠ホームズの強みといえば、ニトリやイケアよりも品質、価格面で上をいく家具を取り扱い、生活に関するすべてのものがワンストップでそろうことだった。しかし、商品の品質と接客だけでは優位性を保てなくなった今、リアル店舗での差別化はますます困難になってきている。「居心地のいい空間や、新たな価値の発見がある店舗が求められている。そんな期待が持てる店にしていきたい」と寺澤氏は話す。
今後の計画は公表していないが、家具専門店の在り方を探ってきた島忠にとって、蔦屋書店との協業店が新たな収益の柱になる可能性は高い。
(写真/橋長 初代)