「本当においしいブラックコーヒーは、甘い」。ファミリーマートはこんな刺激的なコピーを掲げ、「ファミマカフェ」のブレンドコーヒーを刷新。世界一のバリスタとの共同開発による「甘味焙煎」で、商品力を高めた。顧客づくりに適した商材と位置づけるコンビニコーヒー(カウンターコーヒー)に力を注ぐ。

CMキャラクターに稲垣吾郎を起用し、コーヒーなのに「甘い」をアピールするファミマカフェの新ブレンドコーヒー
CMキャラクターに稲垣吾郎を起用し、コーヒーなのに「甘い」をアピールするファミマカフェの新ブレンドコーヒー
[画像のクリックで拡大表示]

 ファミリーマートは、カウンターで販売するファミマカフェの主力商品「ブレンドコーヒー」をリニューアルした。2016年に、世界一のバリスタを決める国際大会「World Brewers Cup」でアジア人として初めてチャンピオンになった粕谷哲氏と組み、取り組んだ同商品のコンセプトは「本当においしいブラックコーヒーは、甘い」。豆の配合や抽出方法を一から見直した結果、たどり着いたのが「甘味焙煎」だった。

 甘味焙煎とは、温度と時間を徹底管理することで化学反応をコントロールし、豆本来の甘さを際立たせる焙煎方法のこと。深煎り豆の配合率を従来比1.5倍以上に増やしたことによるコクと、甘味焙煎で際立たせた“コーヒーの甘さ”が特徴だという。

 商品設計では「『甘い』という新しい視点の味覚と、もう一口、もう1杯と飲みたくなるような味づくりにこだわった」と粕谷氏。「苦味やコクといった従来のコーヒーの評価基準以外の視点で、ファミマのコーヒーを楽しんでもらえたら」と期待を込める。価格は100円(税込み)。20年10月20日から全国のファミリーマート約1万6000店で発売した。

深煎り豆の配合率を従来比1.5倍以上に増やしたコクと、甘味焙煎で引き出したコーヒー豆本来の甘さを特徴とする
深煎り豆の配合率を従来比1.5倍以上に増やしたコクと、甘味焙煎で引き出したコーヒー豆本来の甘さを特徴とする
[画像のクリックで拡大表示]

コーヒーなのに「甘い」を追求した理由

 ところで、コーヒーなのに「甘さ」を追求した理由は何か。ファミリーマート商品・マーケティング本部ファストフーズ部カフェ・スチーマーグループの高見沢祐介氏は、こう説明する。

 「コーヒーの味は大体、コク、酸味、苦味という概念になる。しかし、どの食べ物においても『おいしい』と感じるのは、甘みが主だろう。それはコーヒーも同様だ。コーヒー豆はもともとコーヒーチェリーと呼ばれる果実(の種)。果実本来の甘みを感じてもらうことが、一番のおいしさだと考えた」(高見沢氏)

 近年は、飲料全般で「甘さ離れ」が著しい。だが、新たなブレンドコーヒーで訴求したのは、砂糖のような分かりやすい甘さではない。高見沢氏はこれを「(飲んだときの)ファーストインプレッションではなく、味覚の奥で感じる『なぜかおいしい』という印象につながる甘さ」と表現する。そして、この「『なぜかおいしい』につながる味こそ甘さなのだということを顧客にも知ってもらいたくて、全面的にアピールしている」と言葉に力を込めた。

 同時に、共同開発のパートナーとして粕谷氏を選んだのは「世界一のコンビニコーヒーを作るため」(高見沢氏)ともいう。リニューアル前のブレンドコーヒーも自信を持って販売している商品だったが、味わいへのこだわりが顧客にまで届いていないという課題を感じていた。そこで、コーヒーを熟知する粕谷に協力を求めた。粕谷氏には同社のコーヒーマシンでできることをすべて理解してもらい、「豆の配合と焙煎を掛け合わせる無限のパターンから“ベスト”を追求した」と高見沢氏は自信を見せた。

バリスタの粕谷哲氏。2015年に「Japan Brewers Cup 2015」で優勝。16年に「World Brewers Cup 2016」で日本人初の決勝進出、アジア人初の世界制覇を達成
バリスタの粕谷哲氏。2015年に「Japan Brewers Cup 2015」で優勝。16年に「World Brewers Cup 2016」で日本人初の決勝進出、アジア人初の世界制覇を達成
[画像のクリックで拡大表示]

コンビニコーヒーは顧客づくりに適している

 コンビニコーヒーは「レギュラーコーヒーの新しい買い方」として近年急速に広がった。「日経トレンディ」(13年12月号)では、13年のヒット商品1位にコンビニコーヒーを選んでいる。1月にコンビニ最大手のセブン-イレブンが価格を100円に抑えたコーヒーを発売したことで各社の競争が激化、市場が急拡大した年だ。

 コンビニは日本では1970年代に誕生して以来、利便性を武器に他の小売り業態から顧客を奪い合うことで成長してきた。しかし、客を奪い合うだけでは成長に限界がある。成長鈍化から脱却するため、コンビニは新しい市場を開拓し、業態そのものを進化させようとしてきた。その施策の1つがコンビニコーヒーの展開である。

 実際、コンビニコーヒーの普及はコーヒー市場に大きな変化をもたらした。全日本コーヒー協会の統計資料「日本のコーヒー需給表」によると、生豆ベースのコーヒー国内消費量は2012年の42万8000トンから19年は45万2900トンへと、7年間で5.5%増加した。一方で、同協会がまとめた「日本国内の嗜好飲料の消費推移」によると、18年の缶コーヒーの年間消費量は12年に比べて16%減少。缶コーヒー苦戦の背景にはペットボトル飲料の人気の高まりに加え、コンビニコーヒーへの乗り換えが進んだこともあると推測される。

 コンビニコーヒーが成功した主要因は、カフェ感覚の入れ立てコーヒーが手軽に安価に味わえること。通勤客のほか、カフェの主な客層である女性や若年層の支持を得て定着したといわれる。

 加えて各社が力を入れる理由は、低コストかつ高い粗利率であること、コーヒーは習慣化する傾向があり顧客を固定化しやすいこと、スイーツやパンとの相性が良く、“ついで買い”が誘発できることなどだ。

 インターネット調査を行うマイボイスコム(東京・千代田)が20年1月1日~5日にインターネットを通じて実施した「コンビニコーヒー」に関する調査(回答数1万314人)でも、コンビニ利用者のうち、直近の1年間にコンビニコーヒーを購入した人は約6割、週1回以上購入する人は2割強を占めた。

マイボイスコム(東京・千代田)が20年1月1日~5日、ネットで実施した「コンビニコーヒー」に関する調査結果。1万314人の回答を集計(出所/マイボイスコム)
マイボイスコム(東京・千代田)が20年1月1日~5日、ネットで実施した「コンビニコーヒー」に関する調査結果。1万314人の回答を集計(出所/マイボイスコム)

 喫煙人口が減少する今、コンビニコーヒーがたばこに代わるマグネット商品(磁石のように店舗に顧客を引きつける商品のこと)になればとの思いは強い。「コーヒーは嗜好性が高く、毎朝◯◯店のコーヒーを買うといった(習慣的な繰り返し購買)商品になり得る。コンビニにとってコーヒーはお客様づくりに適した商材だ」(高見沢氏)。今回宣伝に力を入れるのも、大きな期待の表れだろう。

 コンビニ各社はコンビニコーヒーの価格、味、量、カップ、メニューなどわずかな違いを強調する差異化戦略を展開している。強力なマグネットになるように存在感を高める戦略だ。

リニューアルに併せて、ファミマカフェではすべてのホットドリンクを対象に「香る広口リッド」を採用。香り方や飲み口の違いを強調する
リニューアルに併せて、ファミマカフェではすべてのホットドリンクを対象に「香る広口リッド」を採用。香り方や飲み口の違いを強調する
[画像のクリックで拡大表示]

(写真提供/ファミリーマート)