新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う巣ごもり需要も追い風となり、動画配信サービスは視聴回数、視聴時間とも堅調に伸びている。一方でサービスが乱立し、激しい競争の時代に入った。この状況をゲーム動画配信プラットフォームの最大手の米Twitchはどう見ているのか。アジア地域担当上級副社長のスニータ・コール氏に話を聞いた。

Twitchのトップページ
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ゲームに加え音楽系動画が成長

 世界中でソーシャルディスタンスや外出自粛が求められたコロナ禍において、動画配信サービスの需要は全般的に高まった。それはTwitchも同様で2020年3月は、ワールドワイドの動画視聴時間がそれ以前よりも57%伸びたという。

 サービス立ち上げ時からの強みであるゲーム実況に加え、視聴される動画のジャンルも広がっている。Twitchによると、ゲーム実況以外のジャンルの配信コンテンツは4倍に伸びた。

Twitchアジア地域担当上級副社長のスニータ・コール氏
Twitchアジア地域担当上級副社長のスニータ・コール氏

 そのうちの1つがeスポーツだ。eスポーツもゲーム関連コンテンツではあるが、特定の配信者(ストリーマーと呼ぶ)のプレーを視聴するゲーム実況とは違い、試合観戦を楽しむエンターテインメントの側面が強い。この分野でもTwitchは存在感を示してきた。人気の高いeスポーツ大会が動画配信プラットフォームを選ぶ際、Twitchが選ばれることが多いのだ。

 「(eスポーツ大会には)こちらから営業をかけることもありますが、大会運営側から話をいただくことも多々あります。社内にはeスポーツ部門があり、様々な大会に対応しています。20年はアジア太平洋地域でいろいろな大会が行われましたが、いずれも成功しました。大会の大小を問わず、配信に注力してきた結果だと思います」とコール氏は説明する。

 Twitchで伸びているもう1つのジャンルが音楽だ。「Twitchはもともとゲーム動画配信専門のプラットフォームとして開始したサービスですが、その後、ゲームに限らず、すべてのジャンルの動画配信が可能になりました。現在でも主力はゲーム実況ですが、最近では音楽系の動画の配信にも力を入れています」(コール氏)。

 具体例として、米国出身のロックバンド、リンキン・パークのボーカルのマイク・シノダがTwitchで配信する中でアルバムを制作したことや、人気ラッパーのLogicがTwitchで音楽やゲーム関連の動画を配信していることを挙げた。「音楽は潜在性が高いジャンルだと考えています。今後もTwitchしかできないような音楽配信をしていきます」と意気込みを見せる。

競争激化の中、強みはライブ配信であること

 その一方で、近年は動画配信プラットフォームが続々と立ち上がり、競争が激化しているのも事実だ。プラットフォーム間では、人気が高いストリーマーを高額の契約金で取り合うような動きも出てきた。コロナ禍での動画視聴の伸長という追い風と、競争過熱の向かい風が一度に吹いている状態で、Twitchは競合企業とどのように相対するのか。

 コール氏は「Twitchの強みはライブストリーミング配信であること」と主張する。Twitchにもアーカイブを残す「VOD(ビデオ・オン・デマンド)」という機能はあるが、標準的なユーザーが保存できるのは14日だけ。それ以上残せるのは配信のダイジェストやTwitchにアップロードした動画だけだ。

 「こうしたTwitchの特性上、視聴者は主にライブ(生)で見ることになります。ライブでは、ストリーマーと視聴者はインタラクティブに動画を配信、視聴することができるので、個性的なコミュニティーが形成されやすいのです」(コール氏)

 また、インタラクティブ性は視聴者を動画に長時間引きつけるのにも効果的だ。人気配信の場合、視聴者は一度視聴し始めると長時間見続けることが多い。2時間程度になることもある。「(ストリーマーと視聴者の)コミュニティーの強さが配信の質を向上させ、それが視聴者に還元されていく。ストリーマーと視聴者のエンゲージメントが高くなります」。

 Twitch側でも、ストリーマーと視聴者のインタラクティブなやりとりを後押しするための仕組みを用意している。Twitchにはストリーマーがライブ配信を収益化する手段として「サブスクリプション」(毎月一定額を支払って特定のストリーマーを支援する)、「ビッツ」(投げ銭)、広告の3つがあるが、「特にサブスクリプションとビッツは、ストリーマーと視聴者を結ぶ重要な手段になっています。(これらで支援してくれた)視聴者にストリーマーが直接チャットでお礼を言うなど、コミュニケーションにつながります」(コール氏)。

 先述のように、複数の動画プラットフォームで人気ストリーマーの取り合いも起こるなど競争は激化しているものの、Twitchのように安定した動画配信ができるインフラを実装したライブストリーミングサービスはほとんどないとコール氏は自信を示す。

 「世界的な人気ゲームストリーマーのNinjaやshroudは一時はTwitchを離れ、別のプラットフォームを拠点としましたが、現在はTwitchに戻ってきています。Twitchを離れ、再び戻ってきたストリーマーは有名無名を問わず、少なくありません。プラットフォームが増えていることは把握していますし、新しい事業やサービスが始まると追随していろいろな企業が参入するのはどの世界でも一緒だと思っています。競争は激しくなりますが、今はライブ配信というサービス自体を知ってもらえるチャンスです。また、多くの人が配信の世界に入りやすくなっており、ストリーマーが育つ環境にもなっていると思います」(コール氏)

言語対応、IP許諾には順次対応

 今後の課題の1つは、言語を中心とした多様性への対応だろう。Twitchでは日本人ストリーマーも多く活動しており、フォロワーの数も多い。例えば、プロゲーミングチーム「DeToNator」に所属するプロゲーマーのSHAKAは約34万人、加藤純一は約18万人、プロゲーマーのももちとチョコブランカが配信するmomochocoが約7万3000人を数えている。ただ、世界各国のトップストリーマーと比べると見劣りするのも事実だ。例えば、先に挙げたNinjaのフォロワーは約1606万人、shroudのフォロワーは約838万人となっている。

Twitchで人気のストリーマー、clutch_fi氏の配信の様子
Twitchで人気のストリーマー、clutch_fi氏の配信の様子

 その理由の1つが言語だ。英語圏は人口が多いため、英語で配信するストリーマーと日本語を含む他言語を使うストリーマーとの差はどうしても開いてしまう。これについては、同時通訳やローカライズされたミラーリングなど、今後、改善できる課題として考えているという。

 もう1つの課題が、ゲームのIP(知的財産)ホルダーによる許諾の問題だ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPlayStationがゲーム画面やプレー動画をシェアする機能を標準で搭載したり、任天堂が同社タイトルの動画配信に関するガイドラインを制定したりしたことで、ゲーム配信ができる土壌自体は出来上がりつつある。ただし、現在はさらに次の段階に移る過渡期だ。動画配信プラットフォームごとにIPホルダーと包括的な契約をし、配信を行う動きも出てきた。その過程で、いくつかのIPホルダーから配信禁止を言い渡された新興プラットフォームもある。

 「Twitchはゲーム配信がルーツ。そのため、これまでからゲームメーカーなどIPホルダーと密に付き合い、様々な話をしてきました。これからもイベントを開催するなどしてメーカーと深く関わりながら、話し合っていきたいと考えています」(コール氏)

 最後に、Twitchのアジア太平洋地域を担当する立場から同地域の今後の展開についても聞いた。

 「ゲーム市場はアジアで急速に成長しており、アジア太平洋地域においてゲーマー人口はその約63%といわれています。Twitchとして重要性が高い地域です。同時にゲーム以外のコンテンツ配信の場としても広まっていけば、ストリーマーやクリエイターと一緒にTwitchも成長できるのではないでしょうか。アジア太平洋地域の中でも日本の市場は大きく、重視しています」(コール氏)

 PlayStation 4ではプレー動画の配信プラットフォームとしてTwitchがデフォルトで選択できる設定になっていたこともあり、日本での知名度は大きくアップした。20年11月12日に発売されたPlayStation 5によって、動画配信プラットフォームの動向が変わってくる可能性もある。競争激しい動画配信プラットフォームの今後の動きに注目したい。

(写真提供/Twitch)

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