「今年のハロウィーンは渋谷の来街自粛を」。長谷部健区長がそう呼びかける中、渋谷区公認のVR(仮想現実)空間内で、ハロウィーンフェスが20年10月26日~31日に開催された。街を模したデジタル空間は、人々が集い、ビジネスを生み出す場となり得るのか。実際にバーチャル渋谷を歩いてみた。
例年、多くの仮装した若者が集まり大きな盛り上がりを見せる一方で、ゴミや路上飲酒などが問題になっていた渋谷のハロウィーン。2020年は「3密」を避けるため、渋谷区がハロウィーンを目的にした街への来訪を自粛するよう呼びかけた。
リアルな渋谷に集まれない代わりに、長谷部健区長をはじめ渋谷区が呼びかけのは「ステイバーチャル」。仮想空間につくられた「第2の渋谷」でハロウィーンを楽しんでほしいという意味だ。20年10月26~31日の6日間にわたって開催された「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」だ。
会場となった「バーチャル渋谷」は、KDDI、渋谷区観光協会、一般社団法人・渋谷未来デザイン(東京・渋谷)の三者が中心となり立ち上げた「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の取り組みの一つで、日本初となる“自治体公認”のバーチャル空間。プロジェクトには東急やパルコなど50社以上の企業が参画しており、クラスター(東京・品川)のVRプラットフォーム「cluster(クラスター)」を使っている。
オンライン空間に集まってコンテンツを楽しむ潮流は新型コロナウイルスの影響で急速に広がったが、バーチャル渋谷が特徴的なのは、現実に存在する渋谷という街をそのままつくり上げた「バーチャル版」であることだ。渋谷をモデルにした架空の街ではなく、ゲームやアニメの拡張コンテンツでもない。
今回の取り組みは、渋谷を舞台として自然発生的に生まれた人々の営みをデジタルに移行できるか、という一種の社会実験として捉えることもできる。渋谷駅の乗降人数は1日に300万人とされ、毎日多くの人が街を訪れる。街のにぎわいや、イベント時の熱狂までバーチャル空間に再現することができるのか。実際にハロウィーンフェスへ参加して確かめてみた。
バーチャル渋谷へは、PCやスマートフォンにclusterのアプリをインストールすればいつでも訪れることができる。自分でアバターの見た目をカスタマイズして「仮装」する上級者もいるが、既存の初期アバターを選ぶことも可能。事前にチケットを購入したり、予約したりする必要はなく、参加方法はかなり手軽だ。
アバターを選んで入室ボタンを押すと、バーチャル空間にあるスクランブル交差点のど真ん中に転送される。街並みは想像以上に渋谷そのままだ。渋谷109やハチ公などのランドマークはもちろん、センター街入り口にあるTSUTAYA、道玄坂下のマツモトキヨシなど、日ごろ渋谷を訪れる人なら見覚えのある店舗が現実と同じ場所に並んでいる。
散策できるのはハチ公前広場と、スクランブル交差点から渋谷109の手前まで。範囲は限られるが、細部まで作り込まれた街並みは情報量が多く、渋谷になじみのある人ほど再現度の高さに驚くだろう。
フェス期間中は街がハロウィーン仕様に彩られ、フォトスポットでの記念撮影や渋谷を舞台にした謎解きゲーム、日替わりの隠しキャラクターを探すミニイベントなど、街を歩き回りながら楽しめる企画が複数用意されていた。
こうしたイベントはすべて無料だが、物販を通じてリアルな渋谷の街へ還元する仕組みもある。
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