パソナグループが淡路島で運営するアニメパーク「ニジゲンノモリ」にゴジラの迫力を体感できる世界初のアトラクションが2020年10月10日にオープンした。NARUTOにクレヨンしんちゃん、ハローキティといった人気キャラクターの施設を、島内に次々と開設するパソナの狙いは何なのか。
巨大ゴジラに突入するアトラクションが人気
新アトラクションの名称は「ゴジラ迎撃作戦 ~国立ゴジラ淡路島研究センター~」。ニジゲンノモリ内の約5000平方メートルの敷地に、オリジナル映像が見られるシアターやジップライン、ミュージアムなど4つのアトラクションを用意した。淡路島に上陸し、活動を封じ込められたゴジラを、架空の施設である国立ゴジラ淡路島研究センター(略称NIGOD)の一員として参加者が監視するというストーリー設定だ。
ゴジラエリアに到着してまず驚かされるのが、全長約120メートルという実物大の巨大ゴジラ。口を大きく開けたゴジラは今にも動き出しそうなくらい迫力があり、真っ赤に発光する表皮や不ぞろいなするどい牙などは、映画「シン・ゴジラ」のゴジラを思い起こさせる。その巨大ゴジラの体内に飛び込み、警戒監視のミッションを行うという設定でスリルと迫力を味わえるのがジップライン(ワイヤロープを滑車で滑り降りる遊び)だ。体内に入る162メートルのコースと体表を監視する152メートルのコースがあり、専用ハーネスとヘルメットを装着した後、ゴジラに向かって突入していく。
内覧会に参加したお笑いタレントのたむらけんじさんは、ジップラインを体験したときの感想を「最初はなめていたけど、めちゃくちゃスピードがあって怖かった。ゴジラに食われる感覚は新鮮」と話していた。
透明のスマホホルダーを借りられるので、突入の瞬間を撮っておくのもおすすめ。巨大ゴジラの模型の近くにはフォトデッキが用意されているので、ゴジラをバックに自撮りもできる。
ジップラインを降りたら、ゴジラの体から飛散した細胞を専用の銃でせん滅するシューティングゲームへ。ゴジラ細胞からの攻撃に当たるとスコアが減点される仕組みで、120秒の間に攻撃をかわしながら、もぐらたたきのごとく細胞を潰していく。一度に8人から10人が参加できるので、友達同士や家族と一緒に盛り上がれるゲームになっている。
ゴジラファン必見の世界初常設ミュージアム
ゴジラアトラクションは、チケット売り場横の「シアター」でブリーフィング映像を鑑賞するところからスタートする。ここでしか見ることのできないオリジナルストーリーの映像は、映画「シン・ゴジラ」の製作にも参加した中川和博氏が監督を担当。淡路島を舞台に東宝が企画製作した「ゴジラ迎撃作戦」の全容が描かれている。ゴジラを迎え撃つ特撮のシーンは映画さながらの迫力で、参加者は一気にゴジラの世界へ引き込まれる。
ゴジラファンにとって一番の見どころが、世界初の常設ゴジラミュージアム(2020年8月8日開設)。「ゴジラの展示会はこれまで期間限定で全国を巡回してきたが、常設展示は世界でも初めて。撮影時の貴重な資料や小道具、ジオラマ、フィギュアが一堂に展示されている様は圧巻」と、ゴジラ映画を製作配給する東宝の常務兼チーフ・ゴジラ・オフィサー、大田圭二氏はアピールする。
館内に入ってすぐに目を引くのが、16年に公開された映画「シン・ゴジラ」のCG撮影に使用されたジオラマだ。東京駅での戦いのシーンが表現されている。その奥には、映画撮影で実際に使用されたゴジラとメカゴジラのスーツやモスラを展示。さらに怪獣フィギュア100体以上を展示するほか、歴代ゴジラ作品で使用された東宝映像美術所蔵のプロップス、ゴジラ映画製作に欠かせない怪獣たちの造形検討用原型など、ファンのみならず楽しめる貴重な映画資料が展示されている。併設のミュージアムショップでは、ここでしか買えないオリジナルグッズを含め200点以上が販売されている。
入場料は大人(12歳以上)3800円(税込み、以下同)、小人(5~11歳)2200 円、ちびゴジラなかよし作戦(小人)800円など。ニジゲンノモリの入園料は無料だが、アトラクションごとに入場料が設定されていて、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の1デイ・スタジオ・パスのような1日券は用意されていない。ジップラインは1回限定なのでやや割高の感はあるが、往年のゴジラファンにとっては一度は訪れたいスポットになることは間違いないだろう。
日本のアニメをテーマにしたエンタメ施設を毎年開業
パソナグループは20年9月1日、東京の本社機能を23年度末までに淡路島へ移し、本社社員のうち約1200人が淡路島に移住することを発表した。コロナ禍でビジネス環境が急速に変化し、リモートワークなど多様な働き方を模索する機運が高まる中、このニュースは世間の耳目を集めた。ただ兵庫県の井戸敏三知事によると「本社移転の話は5~6年前から聞いていた」と言う。
当時、兵庫県は県立淡路島公園の活性化策として民間事業のアイデアを公募。その際に採用されたのが、雄大な自然を生かして新たな観光客の誘致を目指したパソナグループの「淡路マンガ・アニメアイランド事業」だった。ゴジラの企画はその頃から構想されていたそうだ。
17年7月には「クレヨンしんちゃん」「火の鳥」など人気アニメ・マンガと自然を融合させた体験型アニメパーク「ニジゲンノモリ」を開設。18年4月にハローキティをモチーフにしたレストラン「ハローキティスマイル」、19年4月に忍者アニメ「NARUTO」と「BORUTO」をテーマにした新アトラクションを、同年8月にはシアターレストラン「ハローキティショーボックス」を開業し、インバウンドの集客にも成果を上げてきた。海外の評価が高いジャパンコンテンツの誘致を加速し、インバウンド需要の拡大を目指す戦略だった(関連記事:淡路島の田んぼに巨大キティちゃん パソナがシアターレストラン)。
ゴジラに着目したのも「日本だけでなく世界中で愛されている。アジアや米国などインバウンド客を呼ぶのが一番の狙い。実際、世界中のメディアから問い合わせがある」と、パソナグループ代表の南部靖之氏は話す。3年前に企画を持ちかけられた東宝側は「実物大のゴジラは正直無理だと思った」(大田常務)が、難題をクリアし、3年越しのプロジェクトが完成した。
しかし、コロナ禍が観光産業を直撃。外出自粛や施設の休業などの影響により、パソナの淡路島の施設も大幅に売り上げを落としている。「インバウンドを中心に考えていたのでこの先どうなるかと思ったが、ゴジラのアトラクションが開業すれば、日本の方が楽しめる場所になる」(南部代表)と、当面は国内観光客の集客を図る考えだ。一方で「来年はゴジラ映画の新作が公開される。コロナ禍が過ぎれば淡路島はインターナショナルアイランドに変わっていると思う」と、南部代表はコロナ後の盛り上がりにも期待を寄せる。
さらに今後2~3年の間に日本のアニメのアトラクションを複数誘致する。同時に本社機能を淡路島に移転したのは、AI(人工知能)やあらゆるものがネットにつながるIoTの技術者をグローバルで確保する狙いもあるという。「アニメやアート、音楽はパソナグループの第2の産業として考えている。世界中から芸術家や技術者が集まる島にしたい」と南部代表。
withコロナ時代を迎えた今、実物大ゴジラのインパクトがどれだけの威力を発揮するのか注目していきたい。
(写真/橋長初代)