360度、どの位置からもライブ空間を楽しめる――新型コロナウイルス感染症で中止を余儀なくされている音楽ライブで、新たな可能性を見いだすネットライブ配信が開催され、話題となった。2020年8月2日に配信された「いきものがかり Volumetric LIVE ~生きる~」だ。ソニーがグループ横断で実施した3D映像のすごいエンターテインメント、その可能性を探った。

様々な角度からアーティストを見られる技術を使ったライブをいきものがかりが実施した
様々な角度からアーティストを見られる技術を使ったライブをいきものがかりが実施した

 いきものがかりが実施したのは、「ボリュメトリックキャプチャ」技術を使った世界初の生配信ライブ。この技術は、空間を演者ごと3Dデータとして取り込めるのが特徴。数十台のカメラで撮影したデータを、任意の方向から見た3D映像として再現できる。

 音楽ライブであれば、アーティストの足元から見上げたり、ステージの上から俯瞰(ふかん)してみたり……。視聴者は向きを自在に変えながら楽しめる。従来のオンラインライブとは違う新たな楽しみ方――その先に広がるのは新たなライブビジネスの可能性だ。ソニー、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)、ソニー・ミュージックレーベルズ(SML)などがソニーグループの横断プロジェクトとして進める。

 ソニーがボリュメトリックキャプチャ技術で目指す究極の姿は、空間伝送の世界だ。映画『スター・ウォーズ』で、R2-D2がレイア姫を3Dで映し出したように、例えばライブハウスで歌うアーティストが空間ごと配信されるような感覚。自宅にいてもライブハウスにいるように会場の雰囲気が楽しめる。テクノロジーを活用した新しいエンターテインメントの創出を目指している。

 「ボリュメトリックは演算量がものすごい技術で、カメラも何十台もある。今まではこれをリアルタイムで伝送すると品質があまり上げられなかった。今回はクラウドサービスを使うことで、演算量を上げることができた」(ソニーR&Dセンター Tokyo Laboratory 09 統括部長兼RL準備室の田中潤一氏)。インフラが整ってきたことで、世界初の生配信ライブが実現できたわけだ。

 3D技術を活用した新たなコンテンツの開発は、ソニーが数年前から取り組んできた。ボリュメトリック技術とは違うが、19年に宇多田ヒカルの音楽VR(Virtual Reality)コンテンツ「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018-“光”&“誓い”-VR」をPlayStation VR向けに配信したのも、こうした取り組みの一環。こちらは「Project Lindbergh(プロジェクト・リンドバーグ)」として進めている。

ボリュメトリックライブ
「いきものがかり Volumetric LIVE ~生きる~」は、アーカイブ映像をYouTubeで公開している

 同グループは、従来から開発を続けてきたボリュメトリック技術の活用や、VRを使ったメタバース(仮想空間)の開発などを加速する。「20年4月にRL(リアリティーラボ)準備室を作り、リモートで再現した空間でエンターテインメントを作りたいという話を進めている」と言うのは、SIE VR推進室室長兼ソニーRL準備室室長の松井康範氏。

 18年から始めたProject Lindberghでは、PlayStationVRでのゲーム以外のコンテンツを開発してきた。4Kカメラ2台と6Kカメラ3台を使った宇多田ヒカルの映像コンテンツをはじめ、3種類の4K映像を送ってユーザーが切り替えて見られる「22/7(ナナブンノニジュウニ)」トライアングルストリーミングライブなど、これまでに20本程度のコンテンツを送り出している。「いわゆるメタバースの世界に入って、展示会を楽しんだり、コンサートを見たり。終わったらバーチャルハイタッチでOne-to-Oneコミュニケーションができる、といった一連のメタバース空間を19年から作り始めた」(Project LindberghプロジェクトリーダーでSME EdgeTech プロジェクト本部 VR チームのチーフマネージャーである田中茂樹氏)。「ソニーが今持っていないD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のプラットフォームをきちっとメタバースで作っていくのがProject Lindberghの活動」と説明する。

 「空間全体を送ろうという目標に対して、ようやく折り返し地点に来たのかなという状況」と語るのは田中潤一氏だ。「ソニーは01年にすでにPlayStation 2を使った全天球映像を作るなどしていたが、視点自由度が足りないということでボリュメトリックを使った映像コンテンツの開発を続けていた」(田中潤一氏)。19年に開催されたイベント「Sony Technology Day」で、ボリュメトリック技術を使ったダンサー2人が踊る映像のクオリティーが評価され、CMなどでも活用されるようになった。「ボリュメトリック技術を使ったリアルタイム伝送を世界で初めて実現できたら」ということで実施を決めたのが、いきものがかりのライブだったという。「技術的には昔からあったものが、最近のテクノロジーの進化によって興行レベルに来たのかなという段階」と田中潤一氏。しかし「みんなが夢見てるものはもっと先にある」という。

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