eスポーツイベントの運営や配信、コンサルテーションを手掛けるRIZeST(東京・千代田)は2020年10月2~4日、eスポーツ大会「EDION VALORANT CUP」を開催した。注目すべきは、NEC、富士通、レノボといった国内外のPCブランドが競合関係を超えて協賛に名を連ねたことだ。旗振り役のエディオンに取材した。

2020年10月2~4日に開催された「EDION VALORANT CUP」の様子
2020年10月2~4日に開催された「EDION VALORANT CUP」の様子

 「EDION VALORANT CUP」はライアット・ゲームズ(東京・港)が開発・運営するゲーム『VALORANT』を使ったeスポーツ大会だ。招待された国内6チームが、賞金総額300万円相当をかけてトーナメント形式で対戦。試合は、プロゲーミングチームのSCARZが優勝した。試合を含めた同大会関連動画の視聴再生数は110万回を超えた。

 大会名に入っているように、同大会は、家電量販店のエディオンがトップスポンサーを務めている。また、デバイスサポートとして、マウスコンピューター(ブランド名「G-Tune」)、ロジクール(同「ロジクールG」)、ハーマンミラー、日本エイサー(同「Predator」)が、サポートとしてインテル、日本マイクロソフト、レノボ・ジャパン(同「レギオン」)、エムエスアイコンピュータージャパン、デル・テクノロジーズ(同「ALIENWARE」)、日本HP(同「オーメン」)、ASUS JAPAN(同「ROG」)、NECパーソナルコンピュータ、富士通クライアントコンピューティング、Dynabook、大塚食品(同「e3」)が協賛した。

VALORANT初となるオフライン大会。選手が会場に集まり、対戦した
VALORANT初となるオフライン大会。選手が会場に集まり、対戦した

 ここで注目すべきは、デバイスサポート、サポートの企業に、競合するPCメーカーがずらりと並んでいることだ。

 eスポーツに限らずイベントで協賛企業を募る場合、競合を排除する傾向が強い。1業種1社といったルールを決めている例もあるほどだ。だが、同大会ではトップスポンサーであるエディオンが旗振り役となって各メーカーに参加を促したことで、賛同を得られた。その背景には、エディオンとPCメーカー双方が持つ、eスポーツを盛り上げていきたいという思いがあった。

ゲーミングPC未参入のNEC、富士通も協賛

 エディオンはなんば本店にeスポーツコーナーを常設し、歴史の長いeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」のスポンサーを務めるなど、eスポーツに力を入れている。コロナ禍の中、観戦だけでなく選手の対戦もリモートで行う完全オンラインのeスポーツイベントが多い中、同社は「eスポーツを盛り上げるためにオフラインで大会をすべき」と判断した。無観客での開催、観戦はオンラインのみとなったが、参加した各チームは会場に集まり、特設ステージで対戦する形を取った。

「EDION VALORANT CUP」は特設ステージを設け、チームを集めて行った
「EDION VALORANT CUP」は特設ステージを設け、チームを集めて行った

 eスポーツを盛り上げるために、もう一つ注力したのが協賛企業の獲得だ。同社は店舗で取り扱っているPCのメーカーに声を掛けた。「eスポーツは、話題にはなっているものの、世間的にはまだまだ浸透しているとは言い難い状態。eスポーツを盛り上げ、市場を拡大するためにも、PCメーカーには協力してもらわなければならないと考えていました。各メーカーにお声掛けしたところ、eスポーツを盛り上げたいという考えは一致していたので、競合関係を超えた大会協賛が実現しました」(エディオン営業本部商品統括部情報家電商品部長の田坂寛氏)。

 近年のeスポーツの盛り上がりは、ゲーミングPC市場の活況につながっている。エディオンのPCの売り上げも拡大している。ただ、期待するところまではもうひと伸びが必要。そのためにもeスポーツのさらなる周知や盛り上げが不可欠なのだという。

 この狙いは成功し、同大会開催期間に当たる20年10月上旬のエディオンのゲーミング関連製品売り上げは、前年対比で192%増になった。

 同大会の協賛企業には、競合するPCメーカーが足並みをそろえたことに加え、もう一つ注目したい点がある。それは、ナショナルブランドであるNECと富士通が入っていることだ。どちらも現時点ではゲーミングPCを発売しておらず、eスポーツに対する姿勢が分かりにくい状態にあった。それが今回、協賛企業に名を連ねたことは、ゲーミングPC市場への参入の布石とも考えられるからだ。

 「今回の大会には、協賛いただいたPCメーカーの方々もいらっしゃいました。eスポーツを生で見るのは初めてという方もいた。プレー中の臨場感や緊張感、実況による盛り上がりを目の前で見たことで、熱い気持ちになったようです」と田坂氏。現場でのそうした経験が、会社を動かすこともあるだろう。

 もしNEC、富士通の2ブランドが参入したとしても、日本のゲーミングPCのシェアが大きく変動するかは未知数だが、ゲーミングPCがより多くの人に周知されるのは間違いない。PCメーカーとして幅広い年齢層に浸透しているこの2ブランドが加われば、宣伝効果は数倍にも膨れ上がると考えられるからだ。

業界一体で動くには第三者が必要?

 今回のEDION VALORANT CUPは、コロナ禍でのeスポーツイベントであることに加え、上記の2点で新たな動きと言っていい。

 ただ、今回これだけのPCメーカーが協賛できたのは、家電量販店として各社とかかわってきたエディオンからの声掛けがあってこそという側面もある。競合するPCメーカー同士で誘い合っても、なかなか話はまとまらなかっただろう。そのことは、エディオン自体、競合他社と並んでeスポーツイベントに協賛した経験がないことからも推察できる。

「EDION VALORANT CUP」の協賛企業にはPCメーカーがずらりと並んだ
「EDION VALORANT CUP」の協賛企業にはPCメーカーがずらりと並んだ

 エディオン以外の家電量販店やPC量販店のなかにも、eスポーツに関心を示し、何かしらのアクションを起こしているところはある。例えば、上新電機やソフマップが店舗内にeスポーツ施設を開設したり、ヤマダ電機がeスポーツ大会を主催したりしている。しかし、それらが手を組んで何らかの取り組みをするまでには残念ながら至っていない。

 彼らが手を組めるようになるのは、PCメーカーに対する量販店のように、それぞれに働きかけられる第三者的な存在が登場しないと難しいのかもしれない。それは、大会で使われるゲームタイトルを持つIPホルダーなのか、eスポーツ大会を開く運営会社なのか、それともeスポーツ関連の団体なのかは分からない。ただ、PCメーカーがeスポーツを盛り上げたいという気持ちで一致したのだから、量販店にもできないことではないはずだ。今回の大会を大きな第一歩とし、eスポーツやゲーミング関連の業界を挙げた取り組みの活性化につながることに筆者としては期待したい。

エディオン営業本部商品統括部情報家電商品部長の田坂寛氏
エディオン営業本部商品統括部情報家電商品部長の田坂寛氏

 エディオンは今後も、EDION VALORANT CUPをはじめとするeスポーツ大会、アリーナ運営、チームスポンサーなど、eスポーツ関連の事業を続けていく方針だ。「まだ始まったばかりですし、やってすぐにやめるわけにはいきません。EDIONのEはeスポーツのEと呼ばれるくらいに浸透させていきたい。エディオンは若年層向けにプログラミングの授業も行っていますから、PCと若者をつなげ、eスポーツとつなげ、結果、我々ともつながるようにと考えていきたいですね」と田坂氏は結んだ。

(写真/岡安学)

1
この記事をいいね!する