米アップルは米国時間の2020年10月13日、5Gに対応した「iPhone 12」やカメラ機能を強化した「iPhone 12 Pro」を発表した。iPhone 12の価格は8万5800円(税別)からで、10月16日から予約を受け付ける。低迷が続く日本の5G市場を加速する突破口になるか。
5G対応「iPhone 12」にコンパクトモデルも
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、例年よりiPhone新機種の投入が遅れるとしていたアップルだが、米国時間の20年10月13日に新製品を発表。注目を浴びた新iPhoneの1つは「iPhone 12」シリーズで、その最大の特徴はやはり5G対応だ。
アップルは主要なスマホメーカーの中で唯一、5G端末を投入していなかった。そのためアップルは今回の発表に合わせて、米国最大の携帯電話会社であるベライゾンの最高経営責任者(CEO)であるハンズ・ベストバーグ氏をゲストに招き、5Gの性能や5Gがもたらすサービスを強くアピールした。
5Gでは後発ということを逆に強みに変え、iPhone 12シリーズはアンテナの効率化などによってより多くの5G周波数に対応しているとのこと。日本ではNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社のネットワークに対応するという。ただし30GHz以上の「ミリ波」と呼ばれる高い周波数帯に対応するのは、米国向けのモデルに限られる。日本をはじめ米国以外の国や地域に向けたモデルが対応するのは、「サブ6」と呼ばれる6GHz以下の周波数帯のみとなる。
ボディーはかつての「iPhone 5」シリーズをイメージさせる、ややスクエアな印象のデザインに変更されたほか、ディスプレー素材も液晶ではなく有機ELの採用で薄型軽量化を図っている。チップセットは第4世代「iPad Air」で採用した最新の「A14 bionic」を搭載し、高度なゲームなども快適にプレーできる性能を実現している。
カメラは広角・超広角のデュアルカメラ構造で、画素数はともに1200万画素。構成はiPhone 11と変わらないが、暗い場所での撮影性能が27%向上するなど、機能・性能面での向上が図られている。
新たな仕組みとして注目なのが、磁石を使ってワイヤレス充電の位置合わせをしやすくする「MagSafe」。アップルはMagSafeをワイヤレス充電だけでなく、新しいアクセサリーを装着するインターフェースとしての活用を考えているようだ。発表でも背面に装着できるカードケースなど、さまざまなアクセサリーを提案していた。アクセサリーメーカーにとっては新たなビジネスチャンスとして期待されるだろう。
もう1つ、iPhone 12シリーズのサプライズとして紹介されたのが「iPhone 12 mini」だ。標準モデルの「iPhone 12」は、ディスプレーサイズが6.1インチとスタンダードなサイズ。それに対しiPhone 12 miniは5.4インチディスプレーを採用し、現行の第2世代「iPhone SE」よりもコンパクトなボディーを実現している(関連記事:新型iPhone SEが変える「今欲しいスマホ」の価値観)。価格もiPhone 12が8万5800円(税別、以下同)からなのに対し、iPhone 12 miniは7万4800円からと安価に設定されていることから、とりわけコンパクトなスマホが好まれる日本では、iPhone 12 miniが人気モデルとなりそうだ。
「iPhone 12 Pro」で、プロ向けの位置付けを明確化
アップルはiPhone 12と同時に上位モデルとなる「iPhone 12 Pro」シリーズを発表。こちらもディスプレーサイズのなどの違いで「iPhone 12 Pro」と「iPhone 12 Pro Max」の2機種を用意している。デザインやチップセットの性能、そして5G対応である点などはiPhone 12シリーズと共通しているが、カメラ機能が大きく異なる。
iPhone 12 Proシリーズは「iPhone 11 Pro」シリーズと同様のトリプルカメラ構造を採用している。広角・超広角に加え、1200万画素の望遠カメラを搭載。望遠カメラの光学ズームレンジはモデルによって異なり、iPhone 12 Proは4倍、iPhone 12 Pro Maxは5倍となっている。
さらにiPhone 12 Pro Maxは、広角カメラにピクセルサイズが1.7マイクロメートル(マイクロは100万分の1、μm)と、より大型のセンサーを採用している。暗所での撮影が87%改善し、センサーシフト方式による手ぶれ補正も加わり、動画撮影時の手ぶれが大幅に軽減されるという。なお両機種ともに機械学習技術を活用して、ノイズを減らすなどによって画像を鮮明にする「Deep Fusion」が、超広角から望遠まですべてのカメラに搭載されるとのことだ。
写真のプロユースに向けて「Apple ProRAW」という新たなRAW撮影のフォーマットにも対応した。また動画に関しては、ドルビーの「Dolby Vision」方式による、最大4K・秒間60コマでのHDR(ハイダイナミックレンジ)撮影にも対応する。映像をiPhone上で編集し、高速な5Gで伝送・共有が可能とのこと。
もう1つ大きなポイントが、現行の「iPad Pro」で搭載している、レーザーを使って物体との距離を測定する「LiDAR」の搭載だ。iPhone 12 ProシリーズはLiDARの搭載で暗所でのオートフォーカス性能が6倍速くなったとしているが、より期待されるのがAR(拡張現実)コンテンツの精度向上だ。「ポケモンGO」などのARゲームのリアリティーがより高まる他、ゲーム以外でのAR活用が広がるきっかけにもなりそうだ。
なおディスプレーサイズはiPhone 12 Proが6.1インチ、iPhone 12 Pro Maxが6.7インチで、いずれも素材には有機ELを採用。価格はそれぞれ10万6800円、11万7800円からと高額だ。しかしiPhone 12 miniの投入でiPhone 12シリーズの大衆化路線が明確になったことで、iPad同様に「Pro」シリーズの位置付けが、より高機能を必要とする「プロ向け」であることがはっきりとした。そのため、消費者としては選択しやすくなったともいえる。
これら新iPhoneは、現在のところ国内ではアップルストアでの取り扱いのみがアナウンスされている。だが、大手3社が5Gネットワーク対応を打ち出していることを考えると、例年通りそれら3社からも投入される可能性が高い。日本で圧倒的なシェアを持つiPhoneが5Gに対応するだけでなく、政府の規制上限となる2万円の値引き額を考慮すれば、iPhone 12 miniなどは実質5万~6万円台程度と比較的安価に販売されることが予想される。新iPhoneが、低迷している日本の5Gの普及に大きく貢献する可能性は高い。
ただ1つ気になるのが、iPhone 12/12 Proシリーズともに、生体認証は従来通り顔認証の「Face ID」のみだった点。コロナ禍にありマスクが手放せない中で、生体認証がFace IDのみであることは使い勝手を大きく落とすポイントとなっている。それだけに、第4世代iPad Airのように電源キーに指紋センサーを搭載し、「Touch ID」を復活させるなどの工夫も欲しかった(関連記事:新型iPadとApple Watchで大衆の物欲を巧みに刺激するアップル)。
「HomePod」の新製品も同時に発表
今回、アップルはスマートスピーカー「HomePod」の新モデル「HomePod mini」も発表した。その名前の通り、高さが8.5センチメートルを下回るなどHomePodをよりコンパクトにしたモデル。HomePodとは異なり球状のデザインを採用。価格も1万800円と、HomePodより低価格で販売される。
低価格とはいえ、HomePod miniはチップセットに「Apple Watch SE」などで採用されている「S5」を採用(関連記事:新Apple Watch iPhoneユーザーの「一択」端末を狙う健康推し)。音楽の特性を解析して音量や音質をリアルタイムで制御するなどの機能を備え、360度スピーカーで臨場感あふれる音楽体験を実現できるという。
音声アシスタント機能のSiriによる音声操作に対応し、ニュースや天気のチェックに加え、メッセージ、カレンダーといったパーソナルな情報の確認も可能。他のAppleデバイスと接続して音楽再生もできるとのこと。音楽を再生しているiPhoneをHomePod miniに近づけるだけで、その音楽再生を引き継げる他、20年末にはUWB(Ultra Wideband、超広帯域)の通信を用いることで、iPhone 11シリーズをはじめ「U1チップ」を搭載したiPhoneなどとの連携がより快適にできるようになる予定だ。
HomePod miniは「インターコム」機能を搭載しており、HomePod miniや他のアップル製品を通じて音声によるメッセージを送り合える。この機能は家庭にスマートスピーカーを複数台設置して利用するケースも増えていることから、家族内でのコミュニケーションに活用するために用意されたもの。それと同時に、家庭内におけるアップル製品の利用を促進する狙いもあると思われる。
(画像提供/アップル)