『半沢直樹』(TBS系)はテレビドラマ苦境時代を逆手に取った成功例だ。作品プロモートやメディア戦略を計画的に実行していき、最終回は視聴率30%超えの結果を残した。テレビドラマのバリュー最適化を図った『半沢直樹』から学べることとはいったい何か?

『半沢直樹』最新シリーズの放送では、ラジオドラマや朗読劇のネット配信なども展開し、話題性を高めた(C)池井⼾潤(C)TBS
『半沢直樹』最新シリーズの放送では、ラジオドラマや朗読劇のネット配信なども展開し、話題性を高めた(C)池井⼾潤(C)TBS

7年でメディア環境が変化

 TBSテレビのドル箱枠「日曜劇場」から生まれた数あるヒット作の中でも、ドラマ『半沢直樹』は突出したコンテンツだ。2013年放送の前作は、最終回が40%超えの視聴率をたたき出し、社会現象にまで発展した。平成歴代1位のドラマとも称される。

 20年7月から放送された新シリーズも、令和に入って放送されたドラマで最高となる平均世帯視聴率32.7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を最終回で記録。コロナ禍の影響でスタート時期が3カ月ずれ込んだのは想定外でも、それ以外は既定路線だっただろう。今作の裏には、テレビドラマが今置かれている環境を踏まえた用意周到なプロモート戦略があったからだ。

 『半沢直樹』の前作と新シリーズの間には約7年の空白があるが、この間にテレビ番組の視聴環境は大きく様変わりした。要因は、タイムシフト視聴の普及に象徴されるように、テレビ視聴方法の分散化が急速に進んでいることだ。背景には生活者(視聴者)のライフスタイルの多様化や視聴デバイスの選択の広がり、動画配信サービスの普及などがある。

 また、インターネット広告費が6年連続の2桁成長でテレビの広告費を抜き、19年には初めて2兆円を超えた今、首座を奪われたテレビの宣伝メディアとしての価値を見直す動きも出てきた。

 こうした流れを受け、ビデオリサーチは20年2月6日に視聴率調査のリニューアルを発表。同年3月30日からテレビメディアの価値をより正しく示せる視聴率データの測定を始めた。新しい視聴率データの1つが「個人視聴率」と言われるもの。「どのような視聴者がどのような環境で視聴しているのか」といった視聴傾向を重要視するようになっている。

 『半沢直樹』では、不在の間に進んだこれら視聴環境の変化に適応しつつ、テレビドラマの再価値化を図るプロモート戦略が段階的に展開された。

Twitter活用はもう当たり前

 その1つがTwitterをはじめとするSNSを利用したプロモート戦略だ。今、SNS上で盛り上がる話題にはテレビ番組を起因としたものも多く、Twitterのトレンドが放送・配信中のドラマで占められる事例は数えきれない。ファンの囲い込みに成功した作品ほどファン自ら積極的に発信する傾向が強く、作中シーンやセリフを中心に話題の渦が広がりやすい。

 TBS「日曜劇場」の宣伝チームも戦略上、SNSを重視していることを明らかにしている。19年の国際放送機器展「InterBee」に同枠の宣伝プロデューサー・川鍋昌彦氏が登壇した際、「『半沢直樹』の最初のシリーズが放送された13年当時は今ほどTwitterが(ターゲットとなる視聴者に)浸透していなかったため、Facebookを活用して宣伝効果を狙った」と語っている。その後も「日曜劇場」ではTwitter、Facebook、Instagramなど、作品に合わせたSNS戦略を展開している。

 今回の『半沢直樹』はTwitterに狙いを定めたはずだ。堺雅人演じる東京中央銀行の型破りなバンカー・半沢直樹が行内の不正を次々と暴く姿の健在ぶりはもとより、登場人物のキャラクター化がより際立ったコントさながらの演出がその理由だ。半沢と宿敵・大和田暁(香川照之)の2人が登場するシーンで見せた「おしまいDEATH!」をはじめとするセリフの数々は、実際にTwitter上をにぎわした。

 新シリーズも前作同様、池井戸潤の「半沢直樹」シリーズを原作とし、全10話を『ロスジェネの逆襲』編と『銀翼のイカロス』編の2部構成にして映像化したわけだが、前半の『ロスジェネの逆襲』編の導入部分から、前作よりもバラエティー色を強めた印象を持たせていた。これは新シリーズに新鮮味を持たせようとする狙い以上に、SNSとの親和性を巧みに利用した戦略と見ていいのではないか。

 それと並行して、大型話題作ならではの戦略も欠かさなかった。「半沢直樹イヤー」と称し、20年1月から、グループ企業のメディアも巻き込んだ計画的なプロモーションを展開。1月にはスピンオフドラマ『狙われた半沢直樹のパスワード』をTBS系で放送、2月にはTBSラジオで、『TBSラジオ オリジナルドラマ 「半沢直樹」 敗れし者の物語 by AudioMovie』を放送した。

 ラジオドラマは9月12、13日の2日間、新国立劇場中劇場で開催された特別企画『感謝の恩返しスペシャル企画 朗読劇「半沢直樹」』にも発展する。ドラマ本編に登場したキャストが、本編では描かれないストーリーを朗読するというもので、その様子はドラマ終盤と重なる9月16~27日に動画配信サービス「Paravi」で独占配信された。

「感謝の恩返しスペシャル企画 朗読劇『半沢直樹』」(C)TBS/TBSラジオ
「感謝の恩返しスペシャル企画 朗読劇『半沢直樹』」(C)TBS/TBSラジオ

 これ以外にも、放送期間中は『半沢直樹』を強烈プッシュしたTBSレギュラー番組での番宣も多く見られ、既存のやり方もなぞりながら、テレビドラマが今できる効果的なプロモーションに総合的に取り組んだ。

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