JR有楽町駅から新橋駅に至る高架下に2020年9月10日、商業施設「日比谷OKUROJI」(ヒビヤ オクロジ)が開業した。築100年を超える赤れんがのアーチを生かした空間を、JR東日本とJR東海が手を組み、「通な大人の通り道」として再開発。銀座・有楽町・新橋に回遊を生み出せるか。

築100年を超える赤れんがの空間を生かして開発された「日比谷OKUROJI」
築100年を超える赤れんがの空間を生かして開発された「日比谷OKUROJI」
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「次の100年」に向けた街づくりに寄与

 有楽町から新橋の駅間には、1910年に造られた赤れんがのアーチが特徴的な高架下空間がある。そこに新たな通路を開通し、個性的な物販店・飲食店を集めたのが「日比谷OKUROJI」だ。出店数は30店舗。年内にはさらに6店舗が開業する予定で、最終的に約50店舗を目指す。通路は20年12月より24時間開放する予定だ。

有楽町~新橋の駅間の高架下に新たな“通路”が生まれ、「日比谷OKUROJI」が開業。物販・食物販14店舗と飲食16店舗がオープンした。通行は午前10時~午後11時。20年12月より24時間開放する予定
有楽町~新橋の駅間の高架下に新たな“通路”が生まれ、「日比谷OKUROJI」が開業。物販・食物販14店舗と飲食16店舗がオープンした。通行は午前10時~午後11時。20年12月より24時間開放する予定
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明治末期に造られた⾚れんが⾼架橋が街に溶け込んでいる。設計はベルリンの高架橋建設に携わった鉄道技師が主導し、腕利きの職人たちが組み上げた
明治末期に造られた⾚れんが⾼架橋が街に溶け込んでいる。設計はベルリンの高架橋建設に携わった鉄道技師が主導し、腕利きの職人たちが組み上げた
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 日比谷OKUROJIのネーミングにはどんな意図があるのか。開発を手がけたジェイアール東日本都市開発(東京・渋谷)によると、この立地が日比谷と銀座の中心地から少し離れた「奥」にあり、高架下通路の秘めたムードを「路地」という言葉に置き換えることで「オクロジ」と命名したとのこと。“通な大人たち”が何かを探し求めたくなるような期待感と、100年の歴史が潜む穴場感を表現しているという。

傘のカスタマイズ専門店「Tokyo noble」(トウキョウノーブル)。生地、持ち手、飾り房、柄の長さを自由に選んで組み合わせられる
傘のカスタマイズ専門店「Tokyo noble」(トウキョウノーブル)。生地、持ち手、飾り房、柄の長さを自由に選んで組み合わせられる
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北海道旭川で100年以上続く印染メーカーの「水野染工場」。職人による手染めの温かみ、独特の風合いが感じられる手ぬぐいなどを販売する。希望の柄入りや名入りのオーダーも可能だ。店内で藍染の実演も披露
北海道旭川で100年以上続く印染メーカーの「水野染工場」。職人による手染めの温かみ、独特の風合いが感じられる手ぬぐいなどを販売する。希望の柄入りや名入りのオーダーも可能だ。店内で藍染の実演も披露
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 さらに銀座でも有楽町でも新橋でもなく「日比谷」を冠したのは、18年3月に開業した「東京ミッドタウン日比谷」がけん引する、新しい街づくりとの一体感を印象づけるのが狙いだ。「お客の流れを見ると、日比谷一帯は今やビジネス街である以上に飲食の街。日比谷の一員として勢いのあるエリアに入り、そのにぎわいを広げようと考えた」とジェイアール東日本都市開発総務部担当部長(広報)の菅野昭彦氏は話す。

 ノスタルジーを誘う赤れんがは残しつつも、目指すのは次世代に向けた街づくりだ。「仕事や用事で来た半径1キロ内にいる人に、ついででもいいので立ち寄ってもらいたい。先輩が残したものを引き継ぎ、“次の100年”に歴史をつなぐスタートになれば」と菅野氏は期待を寄せる。

関東大震災でも倒壊を免れ、100年を超えてたたずむ赤れんがのアーチ。耐震補強⼯事と併せて再開発が行われた
関東大震災でも倒壊を免れ、100年を超えてたたずむ赤れんがのアーチ。耐震補強⼯事と併せて再開発が行われた
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 もともと日比谷は近代化に向けて開明的な地だった。歴史をひもとけば、1883年に鹿鳴館、1890年に帝国ホテルが完成。日本で最初の鉄道が新橋~横浜(現在の汐留~桜木町)駅間に開業したのが1872年。明治末から大正初めにかけて東京駅まで鉄道が延伸し、有楽町~烏森(現在の新橋)駅間が開通したのが1910年、この年にれんがのアーチが誕生した。設計はベルリンの高架橋建設に携わった鉄道技師が主導し、全国から集められた腕利きの職人たちによって組み上げられた。幸い、関東大震災でも倒壊を免れ、建設当時のまま残っている。

趣のある空間を緻密な照明計画で演出。アーチ形状が美しく見えるように、角度や照度を念入りに調整した
趣のある空間を緻密な照明計画で演出。アーチ形状が美しく見えるように、角度や照度を念入りに調整した
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 この立地は有楽町と新橋の間、銀座と日比谷の間にあり、商用価値の高いエリアとされる。にもかかわらず、開発されないまま半世紀が過ぎた。菅野氏によると「開発前の高架下は寂しい状態だった」という。1964年には、東京オリンピックに向けて街の開発が進んだ。そのとき開通した東海道新幹線の高架下に外国人向けのインターナショナルアーケードが造られたが、そこも老朽化し「暗くて1人では通れないほど」(同氏)だったという。つまり今回のプロジェクトは、64年以来の再開発となる。

 敷地の開発規模は約7200平方メートル。有楽町側の入り口から新橋側の入り口まで直線で300メートル。その上を走るのが全部で8本の線路だ。西側のれんがアーチの上を京浜東北線の上下線と⼭⼿線の内回り・外回りの計4線が⾛る。その東隣りを東海道線の上下2線、さらにその隣りを東海道新幹線の上下2線が⾛っている。

 このうち京浜東北線と山手線、東海道線のエリアはJR東日本の用地で、東海道新幹線のエリアはJR東海の用地だ。両社は事業のコンセプトや施設計画を共有し、全体のバランスに配慮しながら、協業して開発を進めたという。ちなみにJR東海は有楽町に近い6区画で「日比谷グルメゾン」を運営する。

「個人的な思いを大切にする店」を重視

 人を呼び込める通路にしたい。施設のコンセプトである「日比谷の奥に潜む、通な大人の通り道」を実現するため、テナント誘致には「個人的な思いを大切にしている店を重視した」と菅野氏。メジャーなチェーン店ではなく、個人店やせいぜい1~2店舗展開の小規模な店舗やブランド、新業態、こだわりを語れる店の誘致に努めたという。

 テナント誘致の営業活動に一から関わった、ジェイアール東日本都市開発開発事業本部開発調査部係長の大場智子氏が指針としたのは次の4つのテーマだ。

  • (1)本物の技に触れる
  • (2)店や商品に物語がある
  • (3)こだわりを大切に育てられる
  • (4)同じ興味を持つ人と交流ができる

 誘致の際は事前にホームページを閲覧したり、街で探して声をかけたりするなど、紹介された店を含めて、300~400軒に当たったそうだ。「個人の方の、人の魅力で店ができている。それが当施設の特徴だ」と大場氏は考え、既存店を体験し、出店者と企画内容を詰めていったという。

 今後は高架下空間の2階に設けたイベントスペースで、ショップ主催の体験教室やトークショーを開催する予定だ。「商品やサービス以外で客と接点を持ち、互いに理解を深めるような文化基地を一緒につくっていけたら」(大場氏)と意欲を見せる。

メンズファッションの「VAN SHOP」(ヴァンショップ)。50年代にアメリカントラッドを日本に浸透させ、60年代にアイビールックやみゆき族の流行をつくった「VAN」の新たな旗艦店
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メンズ専門のオリジナル革財布・革小物を扱う「Hawk Feathers」(ホークフェザース)。「財布屋が考える良い財布」がセールスポイント
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福井・鯖江めがねの中でもグレードの高い、産地統一ブランド「THE291」を中心にそろえた「さばえめがね館 東京店」。鯖江職人の卓越した技術を紹介する“ものづくり”情報も発信。写真は名前も入れられるオーダーメガネ
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そうめん専門店「そうめん そそそ ~その先へ~」。麺は小豆島産「島の光」、最高品質の黒帯や金帯を使用
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(写真/酒井康治)