新型コロナウイルス感染症の影響もあり、初めてのオンライン開催となった東京ゲームショウ2020(TGS2020 ONLINE)。アジア最大級のゲームイベントは、主催、参加企業、視聴者とも手探り状態の中、公式番組の総視聴回数が国内外で3160万回以上になるなど、一定の成功を収めた。その一方で、オンラインイベントの課題も見えてきた。

初のオンライン開催となった「東京ゲームショウ2020」。オープニング番組の様子
初のオンライン開催となった「東京ゲームショウ2020」。オープニング番組の様子
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 初のオンライン開催となったTGS2020 ONLINEは、2020年9月24~27日の4日間(23日はオンライン商談のみ)で51の公式番組を配信。その総視聴者回数は国内外で3160万回以上を記録した(集計期間は9月24日~10月4日)。リアルイベントと並行して動画配信を行った19年と単純な比較はできないが、同年の公式動画チャンネルの視聴回数が1651万回だったのに比べると、数字を大きく伸ばしたことになる(関連記事「東京ゲームショウ2019の総入場者数は26万2076人【TGS2019】」)。

 しかも、これらは公式番組の数字。20年は各メーカーがTGS2020 ONLINEに合わせて独自のチャンネルでも動画を配信していたことを考えると、開催期間中にゲーム関連動画を見ていた人の数は計り知れない。

 また、一足早い9月23日から始まったオンライン商談も活発だったようで、会期中の5日間に40の国と地域の企業・団体が利用。商談申込数は前年比36%増の6500件に上った。主催者、参加したゲームメーカー、視聴者のいずれにとっても初めて尽くしの中、TGS2020 ONLINEは一定の成功を収めたと言っていいだろう。

オンラインで場所と時間の制約を超える

 TGSがオンラインになったことで、発売前のゲームを試遊したり、参加型のイベントを体験したりはできなくなった。その一方で、来場せずともTGSに参加できることや長蛇の列に並ばなくても、多くのゲーム情報に触れられたことは利点と言えよう。特に地方在住者や未成年、仕事を休めない社会人など、幕張メッセまで来てイベントに参加するのが難しい人が参加しやすくなったのは大きい。

 さらに、午前10時から午後5時までという会場運営上の時間的制約がなくなり、深夜帯まで配信ができるようになったのもオンラインの恩恵だ。視聴者としても、自宅で見られる配信なら、帰りの電車のことを考えず、安心して深夜まで楽しむことができる。オンライン化のメリットは想像以上にあった。

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TGS2019のカプコンブース(上)とTGS2020 ONLINEのカプコン公式チャンネル(下)。例年はブース内のステージなどで開催されるゲーム情報の発信も、20年はオンラインになった(写真/岡安学)
TGS2019のカプコンブース(上)とTGS2020 ONLINEのカプコン公式チャンネル(下)。例年はブース内のステージなどで開催されるゲーム情報の発信も、20年はオンラインになった(写真/岡安学)
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 ただし、だからといって今後もオンラインのみで開催できるかといえばそれはまた別の話だろう。やはりオフラインのイベント会場で実体験できることの中には、オンラインでの実現が難しいものもある。

 それというのも、もはやTGSは、ゲームの新作見本市、情報発信の場だけではなくなっているからだ。限定グッズが購入できる物販であったり、ライブイベントであったり、コスプレであったり、eスポーツであったり、家族で楽しめるファミリーエリアであったりと、さまざまな要素で構成され、来場者もおのおのの目的を持って来場する場所になっている。

 今回のTGS2020 ONLINEでは、その中の情報発信の要素だけが辛うじてオンライン化できたというところだろう。TGSが持つ間口の広さを保つため、今後に向けた改善ポイントをいくつか提案したい。

公式番組から“逃げない”仕組みが必要

 まずは、配信方法の見直しだ。先に「情報発信の要素はオンライン化できた」と述べたが、それでさえ視聴者の立場からは分かりにくい点があった。原因の1つが、最も視聴者が多かったであろうYouTube上の公式チャンネルの再生仕様である。

 今回、TGS2020 ONLINEの公式チャンネルは一定時間ごとに区切られ、出展企業の公式番組として割り当てられていた。そして、各社の公式番組は、1つ終わるごとに10分間のインターバルを挟み、次の番組配信へと移る。YouTubeの設定を「自動再生」にしていると、このインターバルの間にYouTube内の視聴者ごとのお薦め動画が自動的に再生されてしまうのだ。しかもそれは必ずしも、TGS2020 ONLINEの公式番組ではない。結果、連続して公式チャンネルの番組を見ることができなくなってしまうのだ。

東京ゲームショウ2020 ONLINEの公式チャンネル。公式番組は1つずつ区切られ、日ごとのリストに並んでいた(出所/東京ゲームショウYouTubeチャンネル)
東京ゲームショウ2020 ONLINEの公式チャンネル。公式番組は1つずつ区切られ、日ごとのリストに並んでいた(出所/東京ゲームショウYouTubeチャンネル)
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 自動再生をオフにしていればお薦め動画に勝手に切り替わることはなくなるが、次の公式番組が始まる時間になっても画面は止まったままで、やはり連続して公式チャンネルを見続けることはできない。

 これを回避する方法もあるにはある。YouTube上のTGS2020 ONLINE公式チャンネルを開き、動画の「すべて再生」から見る方法だ。そうすれば、再生リストの順番に再生される。だが、それについてのアナウンスは筆者が知る限り見当たらなかった。その再生リストも、必ずその日の1つ目の公式番組から並んでいるので、午後や夜から参加した人はライブで配信している番組を探す必要があった。

 自動再生などはYouTubeの仕様であり、番組単位でライブ配信を区切るのは、番組終了後すぐに配信済みの番組のアーカイブを視聴できるようにするための手段かもしれない。とはいえ、今回のようなオンラインイベントの場合、PCなどで公式番組を流しっぱなしにしておきたい視聴者もいるはずだ。連続で番組を見られない仕様は、視聴者を困惑させ、手間をかけさせるだけでなく、視聴者を逃すことにもなりかねない。主催者にとっても得とは言えない方法だと感じる。

複数チャンネル化で多様な目的に対応

 さらに言えば、情報発信を公式チャンネルに集約すべきかどうかも、次回以降、議論の余地がある。「e-Sports X」や「日本ゲーム大賞」といったイベントを除き、チャンネルを1つに絞ったのは、視聴者の混乱や拡散を防ぐためということもあるだろう。ただ、先に述べたように、TGSはすでにゲームに関する情報発信以外の要素も持っている。複数のチャンネルを活用することで、参加目的が違う人にも対応できたのではないだろうか。

 例えば、今回、主催者はTikTokに公式アカウントを作り、スタジオのオフショット動画を投稿していた。これをTGSのコスプレイベントとして位置付けるというのはどうか。TikTokやTwitterなどのSNSで、コスプレイヤーに「#TGS2020cos」のようなハッシュタグを付けてコスプレ動画を投稿してもらう。主催者はそれらをイベントの公式アカウントでシェアしたり、公式サイトにまとめとして掲載したりすることで、コスプレイヤーも家にいながらTGSに参加している気持ちになれるだろう。

 e-Sports Xもせっかく別にチャンネルを作ったのに、3大会(番組としては4つ)しか配信されていなかった。空いている枠を、eスポーツイベントを主催する企業や団体などに開放し、いつでも何らかの大会が視聴できる状態にすることもありだろう。午前中や昼すぎの時間帯は、学生やゲームコミュニティーなどに無料開放して、ユーザー参加型のイベントをアピールしてもいいかもしれない。

 子供向けのチャンネルを用意することで、ファミリーエリアも代替できる。9月27日10時から配信していた主催者番組「Nintendo Switchでゲームを作って『ゲームクリエイターになろう!』」のような子供向け番組を配信する。午前10時~午後6時に配信時間を限定し、3日間とも同じ番組をローテーションしても十分だと思う。

TGS2019のファミリーエリアのステージの様子。会期後半の2日間、一般デイのみの開催だったが、一般会場に負けない盛り上がりだった(写真/岡安学)
TGS2019のファミリーエリアのステージの様子。会期後半の2日間、一般デイのみの開催だったが、一般会場に負けない盛り上がりだった(写真/岡安学)
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 番組外では物販にも改善を期待したい。例年のTGSにおいて、物販は大手メーカーブースの試遊コーナーに負けないくらい混む人気エリアだ。それは、TGSでしか購入できない限定品があるからだ。TGS2020 ONLINEでもアマゾンのサイト内に特設サイトを作り、物販も行っていたが、ゲームソフトやアパレル系が多く、どれも会期以外でも購入できるものだった。毎年恒例の公式グッズも販売しておらず、TGS感が薄れていたのは本当に残念だった。

例年のゲームショウでは物販コーナーも人気。写真はTGS2019の様子
例年のゲームショウでは物販コーナーも人気。写真はTGS2019の様子
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 同様の思いを持っていた人は、TGS2020 ONLINEの視聴者にも多かったはずだ。会期中、TwitterなどのSNS、動画配信のコメント欄を見ていると、今回のオンライン化を評価しつつも、TGS特有のお祭り感が薄まったことを指摘している視聴者が散見された。これらの人も特別な4日間であることは感じていたはずだ。ゲームに関わる人がこれだけ集まり、ひっきりなしにゲームの情報を発信、ゲームの話ばかりしているのは、日常にはない光景だからだ。それでもリアルイベントに比べると物足りなさを感じる部分はどうしてもあった。上記のような取り組みがあれば、音楽フェスのようなお祭り感をもう少し出せたのでは、と筆者は考える。

体験イベントの充実を

 加えて、今後の改善策として、視聴者が参加、体験できる施策も用意してほしい。例えば、TGSに合わせて会期中のみプレーできる期間限定の体験版を配信したり、VR会場を用意してバーチャルTGSを開催したりするのはどうだろう。公式番組を見ながらのオンライン投票などもできる。どれも、オンライン上ではすでに行われているものばかりだ。

TGS2019の試遊の様子。例年人気の試遊もオンラインでは実現は難しかった
TGS2019の試遊の様子。例年人気の試遊もオンラインでは実現は難しかった
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 期間限定の体験版については、『スプラトゥーン2』や『機動戦士ガンダム EXTREME VS. マキシブーストON』などが実施済みだ。発売前に特別体験会、先行体験会として、期間限定で遊ばせている。

 バーチャルイベントについては、CyberZ(東京・渋谷)が実施したeスポーツイベント「V-RAGE」や、KDDI、渋谷区観光協会などで組成する「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」がオープンした「バーチャル渋谷」、東京大学のオープンキャンパス「バーチャル東大」などがある(関連記事「RAGEのeスポーツ大会 初の完全オンライン開催で見た成果と課題」) 。

CyberZのV-RAGEの様子。アバターを使ってバーチャルな会場内を自由に移動、大型ディスプレーで試合の様子を見られる
CyberZのV-RAGEの様子。アバターを使ってバーチャルな会場内を自由に移動、大型ディスプレーで試合の様子を見られる
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 オンライン投票は、ミクシィが開催する「モンストプロツアー」などがeスポーツの勝敗予想を実施した。これをTGSに置き換えるなら、日本ゲーム大賞の各賞予想などもできるのではないだろうか。

 もっとシンプルに、公式番組の配信途中で出てくるキーワードを全部集めて応募するとグッズがもらえるキャンペーンをやったり、飲食店や出前業者とコラボして、全国の人が同じ番組を視聴しながら、同じものを食べる「東京ゲームショウ公式オンラインめし」企画をやったりしても現場感が出せそうだ。

 TGS2020 ONLINEの概要が20年9月に発表されたとき、「動画配信だけ?」というのが率直な感想だった。実際に開催されてみると、動画自体は主催者も出展企業各社も趣向を凝らし、予想以上に見応えのある配信だったと思う。

 それでもオンライン=動画配信と考えてしまったのはちょっと早計だったと感じる。もちろん、いろいろなことに手を出すとそれだけコストも時間もかさむのは重々承知だ。それでも世界3大ゲームショウの1つとして開催するのであれば、このくらいのボリュームとコンテンツの豊富さがあってほしいと願う。

 コロナ禍収束の見通しはまだつかないものの、すでに21年のTGSは9月30日~10月3日まで幕張メッセで開催予定と発表された。せっかく今回オンラインイベントのノウハウを得たのだから、21年はリアルイベントと同時にパワーアップしたオンラインイベントの開催にも期待したい。

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