スポーツ用品のアルペンはグループ各店で販売してきたプライベートブランド(PB)の「TIGORA(ティゴラ)」のリブランディングと事業戦略を発表した。同ブランド初の直営店舗とバーチャルショップもオープン。コロナ禍でも堅調なスポーツウエア市場に対し、PBで攻勢をかける。
アパレル不況でも好調なスポーツウエアに注力
アルペンは2020年9月16日、スポーツウエアのPB「TIGORA」のブランド強化に関するメディア発表会を開催した。同社がPBの商品開発に着手したのは1976年。今では「IGNIO(イグニオ)」や「kissmark(キスマーク)」をはじめ、その数は8ブランドに上る(20年9月末現在)。
また、2016年には飛ばし屋として知られる女子ゴルフの穴井詩選手が同社のゴルフクラブ「TOBUNDA(トブンダ)」を使い、ツアー優勝を果たした。17年にもFISワールドカップモーグル競技で、同社のスキー板「Hart(ハート)」を使用する選手が表彰台を独占するなど、アルペンのPBは存在感を増しつつある。同社の水野敦之社長も「(自社のPBアイテムが)トップアスリートの世界でも第一線で戦える性能を持っていると証明した。一般的な小売業のつくるオリジナル商品という枠組みを超え、非常に高い水準にあると自負している」と胸を張る。
そうした中でも、TIGORAはアルペンが現在最も力を入れているブランドだ。さまざまなスポーツシーンで活用できる機能性に優れたアパレルブランドとして水野社長らが06年に立ち上げ、現在までにコンプレッションインナーが累計1000万枚以上、ランニングシューズは330万足以上の販売実績があるという。
近年のアルペンはアウトドアやキャンプのブームに対応すべく、18年からアウトドア用品専門店の「Alpen Outdoors(アルペンアウトドアーズ)」、登山用品専門店の「Alpen Mountains(アルペンマウンテンズ)」を展開している。特に19年4月19日には千葉県柏市に満を持して超大型店「Alpen Outdoors Flagship Store 柏店」をオープンするなど、アウトドア用品に注力していることで知られる(関連記事:デカトロンにも冷静 世界最大級の店舗で見せたアルペンの覚悟)。今回発表されたTIGORAのリブランディングも、こうした流れに沿ったものといえる。
しかしコロナ禍の影響がいまだ色濃く、アパレル企業の不振も伝えられる中、なぜ今、衣料系PBのリブランディングに踏み切るのか。その理由はアパレル全体は不調でも、スポーツウエア市場は成長しているからだ。矢野経済研究所のデータによれば、スポーツライフスタイルウエアの市場規模は15年が1718億円だったのに対し、19年は1985億円と順調に伸びている。アルペンの売り上げも、15年から20年度にかけてスポーツウエアは42%アップ。TIGORA全体の売り上げは15年度の100億円に対し、20年度はコロナ禍の影響があるにもかかわらず、6月までの段階で約150億円と好調だ。
こうした市場の動きについて水野社長は、「ライフスタイルの多様化でアウトドアが日常生活の一部に溶け込んでいる。国内の気候変動が激しくなり、快適に過ごすにはより機能的なものが求められるから」とみる。だが機能的と一口に言っても、製品化に落とし込むのは簡単ではない。実際、多くのアパレルメーカーは「従来製品に何かしらの機能を付加しようとやっきになっている」(水野社長)とのこと。
例えば秋冬にかけて求められる「保温性」。水野社長によれば「保温性の高さを突き詰めようとすると、生地を厚くしたり保温素材の量を増やしたりすれば実現できなくはない」という。しかしスポーツウエアの場合、動くことを想定しているので暖かいだけでは機能的に不十分だ。「軽くて動きやすいという要素が加わって、はじめてスポーツウエアとしての機能性を得たといえる」(水野社長)
ときには相反することもある複数の機能性を両立させることは決して簡単ではないが、現在売れている商品は、そうした総合的な高い性能を実現しているからこそ支持されているとアルペンでは考えている。
既存スポーツウエアの弱点を克服
しかし好調なスポーツウエアにも弱点はある。ハイスペックであるが故に、価格が高くなりがちなのだ。また、アウトドアでは事故防止の観点から、目立つことが求められるため、そのデザインや配色から日常では使いにくいと感じる製品も少なくない。ファッション性を高めるなどデザインの見直しは進んでいるが、価格面での改善は難しく、結果的に「安い買い物」にはならないケースがほとんどだ。
こうした課題を解決するのが「TIGORAである」と水野社長は言い切る。さらに今回、TIGORAのリブランディングにおけるコンセプトが、「AFFORDABLE SPORTS LIFESTYLE WEAR(入手可能なスポーツライフスタイルウエア)」であると続けた。
新たなコンセプトに基づく新商品はすでに一部で販売が始まっている。この日発表になった秋冬向け商品も、手ごろな価格でありながら、日常生活でも使いやすいデザインを追求しているとのこと。
新生「TIGORA」は3つのラインからなる。
機能性を備えながら日常生活へ溶け込むデザインで価格も抑えた「TIGORA SMART」。より高い機能性を追求したハイパフォーマンスライン「TIGORA ULTIMATE」。そして快適な機能と高いファッション性を両立させたBEAMS DESIGNプロデュースによる「TIGORA / BEAMS DESIGN」だ。
発表会の後半、アルペン執行役員の中村裕哉商品本部長が、各ラインの代表的な秋冬向け商品を紹介した。TIGORA SMARTは伸縮性の高い生地を用いたシャツや、薄手ながら中空糸を用いて高い保温性を実現したアウターなど。TIGORA ULTIMATEは裏地にアルミの蓄熱素材を用いて高い保温性を実現したジャケット。そしてTIGORA / BEAMS DESIGNからは、ファスナータブなどにBEAMSのブランドカラーであるオレンジをあしらったジャケットなどを披露した。ちなみに高い機能性を実現しながら価格を抑えられたのは、高機能素材を使用しつつもデザインをシンプルにしたからだという。
360度カメラで撮影、製作したバーチャルストア
TIGORAのリブランディングに合わせ、20年9月18日には、ららぽーと立川立飛内に「TIGORA by SPORT DEPO(ティボラ バイ スポーツ デポ)」を開店した。同年10月末にはららぽーと横浜に2号店を出店する予定だという。TIGORAはスポーツシーンだけでなく日常生活での着用を想定した商品であり、より多くの顧客に触れてもらうことを狙って、客層が広い大型ショッピングモールへの出店を決めたという。
新型コロナウイルスの影響で家賃相場が下がり、空きテナントが増えている今の状況を水野社長は「大きなチャンス」と捉えている。今のところ出店が決定しているのは2店舗のみだが、今後さらなる店舗展開を視野に入れているとのこと。
アルペンはコロナ禍の影響も決して低く見積もっているわけではない。人出の多いショッピングモールへ出かけることをためらう人も、現状はまだ少なくないことを踏まえ、20年10月2日にはネット上にバーチャルストアを開店した。
立川立飛の店舗内を360度カメラで撮影して製作されたこのバーチャルストアでは、Googleマップのストリートビューのような操作感で店舗内を歩き回ることが可能だ。店内には3種類の丸いアイコンが浮かんでおり、緑と赤の丸アイコンはそれぞれメンズ、レディースの商品を示している。タップするとアルペンのECサイトへジャンプし、その周辺に陳列されている商品を購入できるという仕組みだ。
紫の丸アイコンをタップすると、店内で流れているプロモーションビデオが見られる。その他、QRコードが表示され、モデルが商品を着用した画像のAR(拡張現実)が表示されるものもある。ただARといっても、今のところはスマートフォンのカメラが捉えた周囲の画像の中に、平面の写真、いわばバーチャルな等身大パネルが配置されるだけという単純なものにすぎない。
オープン直後という事情もあるのか、スマートフォンで見た際にヘルプの表示にトラブルが残っているなど問題も見受けられる。理想をいえば、店内をぶらぶらしながら、気になる商品があったらそれをピックアップし、実際に手に取ったかのように全方向から眺められるような機能があれば、バーチャルストアならではの新しい体験として、ユーザーの満足度はかなり違ったものになっただろう。
とはいえ、withコロナ時代におけるECサイトやオンラインショッピングの在り方として、新しい顧客体験の創出に挑戦する姿勢は評価できる。アルペンの水野社長も「今後はVRショップならではの独自コンテンツを提供していきたい」と意気込む。今後の可能性を感じさせるアプローチであることは間違いないだろう。
(写真/稲垣宗彦)