「獺祭(だっさい)」ブランドで知られる旭酒造(山口県岩国市)は2020年10月1日、新丸の内ビルディング(新丸ビル、東京・千代田)の7階に「獺祭BAR marunouchi(獺祭バー)」を1年半の期間限定でオープンした。売り上げ目標などは特に設定せず、ブランド認知に注力するという。
丸の内ハウスに客を呼ぶトリガーに
「丸の内ハウス」と呼ばれる新丸ビル7階の飲食店エリアにオープンした獺祭バーは、旭酒造がつくる各種「獺祭」をそろえた立ち飲みスタイルのコンセプトバーだ。獺祭が楽しめる店としては2013年5月から19年4月まで東京スクエアガーデン(東京・中央)の地下1階に「獺祭Bar 23」があったが、そちらは旭酒造の直営ではなく、カジュアルな新・獺祭バーとは趣の違う高級店だった。また台湾の高雄と中国の上海にある「獺祭バー」は獺祭ブランドの海外旗艦店という位置付けで、やはりコンセプトが異なる。
旭酒造は当初、20年夏開催予定だった東京五輪を観戦に来日する外国人観光客をターゲットに獺祭バーの出店を6月末としていたが、新型コロナウイルス感染症拡大により延期となっていた。しかし、外出自粛で飲食店が大きなダメージを被るなか「(獺祭の販売を担う)飲食店に恩返しがしたい」という思いで10月からの営業を決めたという。旭酒造社長の桜井一宏氏は「丸の内ハウスにはいくつもの飲食店がある。獺祭バーで軽く飲んだ後、それらの店に移動してもらえればいい。それが周囲の飲食店への恩返しになる」と語る。
獺祭バーが提供する酒類は、獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分、同 磨き三割九分、同 45(ストレート、ロック各500円、税込み、以下同)と獺祭スパークリング 45(360ml、2000円)、獺祭焼酎(ストレート、炭酸割、ロック各900円)となっている。今後は軽食程度の料理も提供する予定だが、料理については丸の内ハウスの他の店舗からの持ち込みも歓迎とのことだ。
また獺祭バーは、獺祭をロックで提供するなど、日本酒のさまざまな楽しみ方を提案する場でもある。外国人観光客をターゲットにしていた当初の「獺祭を通して日本酒の魅力を知ってもらいたい」との狙いは、日本人相手でも変わらない。「日本酒のおいしさを分かっている日本人もまだ多くない」と桜井氏。
時期が時期だけに集客には苦労しそうだが、桜井氏は「当⾯はコロナの状況を見ながら、ちょっと変わった飲み方や珍しい獺祭を提案することを考えている。その際は旭酒造の社員や蔵人がスタッフとして参加して、来店客とのコミュニケーションを図る。会話をしながら客のニーズを探り、それに合わせたイベントも企画していきたい」と話す。「(コロナ禍で)あまり人と会えない分、コミュニケーションが重要になっている。酒は人と人とをつなぐコミュニケーションツール。獺祭という酒を通して、人と人とが結び付く場を提供したい」(桜井氏)。
ちなみに獺祭バーの店舗は、同店がオープンするまで営業していた「現バー」を改装したもの。「人が主役」という店舗の世界観づくりを担当したのは、現バーのインテリアデザインも手掛けた建築家・川添善行氏だ。同氏はアミューズメントパークのハウステンボス(長崎県佐世保市)にある「変なホテル」を手掛けた人物としても知られる(関連リンク:ハウステンボス「変なホテル」のネーミングはなぜ生まれたか)。ロックグラスに蓄光グラスを使うのも川添氏のアイデア。夜の闇をイメージした店内では、底が青く光るグラスが、それを手にした人を“主役”として浮かび上がらせるという。
「売り上げは(もともとあった)現バーと同程度なら十分」と桜井氏は言う。獺祭ブランドの認知向上が目的なら多店舗展開もありそうだが、桜井氏は「飲食店を経営することの難しさはよく分かっている。獺祭バーは現状で手一杯」と首を横に振った。なお、1年半の期間限定とした理由は、22年春に開業15周年を迎える新丸ビルのリニューアルを1つの区切りとするためとのことだ。
(写真/堀井塚高)