東京都渋谷区限定のご当地クラフトビール「渋生(しぶなま)」が2020年9月26日に発売された。ビール酵母とワイン酵母、日本酒酵母を組み合わせて醸したという異色のビールは、いかにして生まれたのか。

「渋生」と命名されたご当地クラフトビール。333ミリリットル瓶で390円(税別)、樽生ビールはオープン価格。アルコール度数は5%
「渋生」と命名されたご当地クラフトビール。333ミリリットル瓶で390円(税別)、樽生ビールはオープン価格。アルコール度数は5%

 渋谷に行ったら「渋生ビール」で乾杯を──。渋谷の街をイメージしたというクラフトビール「渋生 YEAST DIVERSITY ALE(イースト・ダイバーシティ・エール)」が誕生した。イーストとは酵母のこと。さまざまな個性が集う渋谷のダイバーシティ(多様性)をビールで表現した野心的な試みだ。

 インターネットでは販売しない。渋谷区に行かないと飲めないし、手に入らない。目標は月販6000リットル(333ミリリットル瓶24本換算で750ケース)。渋谷区観光協会「公認ビール」として、区内の飲食店や酒販店、セルリアンタワー東急ホテルや渋谷エクセルホテル東急などで順次売り出していく。

 なぜ渋谷でクラフトビールなのか。「クラフトビールは土地との結びつきが強い飲み物。ブルワリーやビールの銘柄には地名が盛り込まれていることがすごく多い。じゃあ、渋谷らしいビールって、なんだろう」。ビアジャーナリストの五十嵐糸氏は、素朴な好奇心を胸にプロジェクトを立ち上げた。

渋谷には語り継がれる味がない

 渋谷はトレンドの発信地として知られる。「次から次へと新しいものが入ってきては、早いサイクルで流れていく。そこが渋谷の魅力である一方、京都の八ツ橋のように、ずっと語り継がれている土地の味がない。渋谷が日本を代表する街の1つであることは間違いないと思うが、語り継がれる味がないというのはすごく寂しいと感じた」。渋谷区で暮らす2児の母として「熱狂的なビール愛好家」として五十嵐氏は「地元の味を、ビールでつくりたいと強く思った」。

 ご当地クラフトビールがあれば、渋谷区出身の人が帰省の際に「居酒屋で渋生を飲んで『ああ、渋谷に帰って来た』と実感できる。観光客も『渋谷に来たから、じゃあ、渋生飲んで帰ろう』といった記念になる体験ができる」。五十嵐氏の思いに、「東京ローカルの酒」を発信する老舗酒類卸、コンタツ(東京・中央)の津久浦慶邦専務、渋谷区観光協会の小池ひろよ理事・事務局長が共感し、プロジェクトは一気に前へと動き出した。

 醸造を手掛けたのは協同商事コエドブルワリー(埼玉県川越市)である。「小江戸」川越を拠点に1996年からビールづくりを始めた、日本のクラフトビールの草分け的存在だ。川越産のサツマイモを副原料に用いた「紅赤(べにあか)」をはじめ、瑠璃、伽羅(きゃら)、白、漆黒、毬花(まりはな)と6種類の「COEDOビール」を展開している。

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