※日経 xTECHの記事を再構成
新型コロナウイルス感染症の流行にさまざまな業界が苦しみ、商品やサービスの開発、販売などの歩みも止めた2020年。1年の半分を過ぎ、社会はアフターコロナの時代にゆっくりと動き出しつつある。ゲーム業界もその1つだ。そんな中、9月23~27日に開催される東京ゲームショウの意義を考える。
2020年9月になり、コロナ禍に苦しんでいたゲーム産業が未来に向かって動き出しました。
任天堂やSIEが年末に向け発表多数
任天堂は9月3日「スーパーマリオブラザーズ」の35周年を記念した商品群を大量に発表。新作ソフトはもちろん、「スーパーマリオブラザーズ」のゲーム&ウォッチ版、さらにはAR(拡張現実)技術を取り入れてレースを楽しめる隠し球『マリオカート ライブ サーキット』まで発表して年末商戦を彩る商品を提示しました。
9月17日には、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が新型ゲーム機「PlayStation 5(PS5)」の価格や発売日を公表。11月12日発売で価格は通常版が4万9800円(税別)、BDドライブ無しのデジタルエディションは3万9800円(同)と発表され、その驚異の低価格でユーザーの度肝を抜きました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下新型コロナ)のまん延でしばらく停滞していたゲーム産業でしたが、ようやく「これから訪れる未来」を華々しく提示し、ユーザーにワクワク感を与えるところまで復活したようです。
これに呼応するように、日本のゲーム産業全体が動き出します。それを象徴するのが、9月23日に開幕した「東京ゲームショウ2020(TGS2020)」です(23日はオンライン商談のみ、一般公開は24日から)。今回は完全オンラインで開催されるこの巨大イベントの重要性を解説しましょう。
2020年は完全オンラインでゲーム情報を発信
東京ゲームショウは、例年ならば幕張メッセの全館を使って開催され、30万人近くの来場者を集める国内ゲーム産業最大の巨大イベントです。ですが、20年は完全オンラインの形式で開催となりました。言うまでもなく、新型コロナの影響で大型イベントの開催が難しくなったからです。
オンラインTGSのメインコンテンツは24日20時に配信されたオープニング番組を皮切りに、主催者や参加各社が用意したゲーム情報を流し続けるライブ動画番組です。配信にはYouTube、ニコニコ動画、Twitch、Twitterなど主要動画サイトやSNSが協力し、朝から深夜、最終日27日の25時までみっちり流れ続けます。これに加えて専門セッションやeスポーツ大会など主催者企画や、ゲーム会社各社の独自配信もあるほか、Amazon.co.jp内に設けられた特設サイトで、物販を含むさまざまな企画も用意されています。ゲームファンは次々と流れる番組を見れば、新作ゲームの情報をひととおりチェックできるという仕掛けです。
「あれ? だったら、ゲームショウを名乗らなくてもいいんじゃない?」「各社が自由に番組を配信すればいいんじゃない?」と思う方もいるかもしれません。確かに任天堂やSIEは、ゲームショウよりもひと足早く、独自のタイミングで新情報を流していますし、各社が好きなタイミングで番組を配信しても変わらないようにも思えます。
でも、それでは駄目なんですよ。オンライン開催であっても参加するすべての企業が一致団結してゲームショウというイベントに参加する形をとったほうが絶対にいいのです。なぜならゲーム産業は「ゲーム会社がバラバラに動いたらゲーム産業に元気がないように見えてしまい、デメリットが大きくなってしまった」という手痛い失敗をしたことがあるからです。
ゲーム産業が得た2007年の教訓
世界的に大きなゲーム産業イベントは3つあります。米国で開催される「Electronic Entertainment Expo(E3)」、ドイツで開催される「Gamescom」、そして日本の東京ゲームショウです。
この中でも最も歴史が古いのはE3。北米のゲーム市場の流通関係者のためのイベントとして1995年に始まりました。21世紀に入ると流通関係者のみならず、多くのメディア、そしてゲームファンが来場するようになり、その規模は肥大化。開催のための予算も膨れ上がり、各社を悩ませることになりました。
そこでE3はイベントの簡素化を決断します。07年と08年には規模を縮小し、各社がバラバラに自社製品をアピールするイベントに改編したのです。
結論から言うとこの試みは大失敗でした。これまでの巨大イベントと様変わりした結果、世間に「ゲーム産業、なんか元気がなくなったなぁ」という印象を与えてしまったのです。
それ以外にもデメリットは多かった。多くの人が集まれば、一部の層あるいは一部の地域だけでヒットしている「局地的ムーブメントのゲーム」が広く認知されるきっかけになりますし、まだブランド力のない新規タイトルが日の目を浴びる場としても機能するわけですが、規模の縮小でそういった機能が失われてしまったのです。
09年からE3は従来型の巨大展示会として復活。以降、年に1度の巨大イベント開催を継続しています。ゲーム産業は「みんなが集う、お祭りのような巨大イベントを開催しなければ、ゲーム産業が元気だとアピールできない」という教訓を得たのです。
新型コロナの拡大防止の観点から世界的に巨大イベントの開催は厳しくなっていますが、それでものE3、Gamescom、そして東京ゲームショウが、これまで通りの開催は断念しても、開催そのものを中止しなかったのはそういう理由です。TGS2020がすべてをオンラインイベントに形を変えても開催するのは、年に一度のお祭りだけは絶対に継続するぞ! というゲーム産業の強い共通意思があるからなのです。
オンライン開催されるゲームショウの懸念点
初めての完全オンライン開催となるTGS2020ですが、もちろん懸念点もあります。
1つは、やはり無名のブランドが脚光を浴びにくくなることです。来場者が実際に会場を歩いていれば「ノーマークだったけれど面白そうなものがある」と注目する機会がありますが、オンライン開催ではこういった状況を再現するのは難しい。
2つめは、小さな子どもたちが新しいゲーム楽しめる場がなくなることです。TGSは例年、中学生以下(とその保護者)だけが入場できるエリア「ファミリーゲームパーク」を設けており、未来の顧客である小さな子どもたちがゲームに触れる機会を用意していました。オンライン開催だとそのような場を用意するのはやはり難しい。
今後、新型コロナの流行がどういう方向へ進んでいくかまったく不明であり、21年以降のゲームイベントがどのような形で開催されるかは現状で見通せませんが、オンライン開催を継続するなら解決すべき課題としてぜひクローズアップしてほしいと思います。
なお、これは余談になりますが、20年のTGSは任天堂がコンシューマー向けの番組出展をしていないという事実が例年以上に注目されるかもしれません。
毎年TGSに行っている人にとって任天堂の不在は「いつものこと」です。かつて存在したソフトウエア開発会社の団体「コンシューマソフトウェアグループ(CSG)」が開催していた「任天堂ハード以外で遊べる商品」を中心に展示するイベントが、発展的に進化して生まれたのがTGSである――という経緯を知っている関係者にとってTGSに任天堂がコンシューマー向けの展示で参加しないのは、ごくごく自然なことだったりします。
しかし20年はオンライン開催となり、誰もが気軽に公式番組にアクセスできるようになりました。幕張までわざわざ足を運ぶよりずっと敷居は低いわけでその分、ライトなゲームファンがアクセスしやすくなっています。そんな経緯なんてまったく知らない新しいゲームユーザーがきっとたくさん参加するはずです。当然、大ヒットしたNintendo Switchタイトル『あつまれ どうぶつの森』などのファンも多いでしょう。
国内最大のゲーム産業のお祭り。それがTGSです。オンライン開催の20年は、なぜそこに任天堂が不在なのかを不思議がる人が出てくる可能性もありそうです。
- 東京ゲームショウ2020特設サイト
- 東京ゲームショウ2020公式サイト
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